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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第12章

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12-06 側仕えの告発(前)

第四皇子側仕えの一人、ガレッティ伯爵令息視点です。

時系列は10章あたりに戻った頃の話になります。

 フォルミオン殿下は今上皇帝からの御寵愛を受けている愛妾からのお生まれだ。

 愛妾の方は伯爵家の出ではある。伯爵家の出なら側妃にもなり得るのだが、それでも愛妾止まりという時点で、色々と足りておられないことが察せられる。


 ちなみに、オレステス皇太子殿下は優秀で、お生まれも譜代家臣派閥を取りまとめるミツォタキス筆頭侯爵家から嫁いだ正妃の出であり、後ろ盾も盤石である。

 ただ、殿下の御歳も四十歳に差し掛かろうとしている。今上皇帝の在位が長いためである。

 が、陛下もそろそろ老齢に差し掛かろうとしているので、数年の内に代替わりされるのではないかと噂されている。

 皇太子殿下のお子様は、三人の皇女の下に嫡男が居るが、御嫡男は末子で生まれが遅かったため、まだ成年には至っていない。

 御嫡男が成人するまでの皇太子殿下のスペアには、皇太子殿下の同腹であるニカンドロス第三皇子殿下が控えている。

 旧マケドニス系のクレージュ伯爵令嬢が側妃となり第二皇子を生んだが、側妃の従弟、旧マケドニス王室の系譜であるカーネイジ侯爵の没落により側妃は帝室内で力を失った。

 エウポリオン第二皇子も既に継承権を放棄し、今は国立帝国大学で研究職となっている。

 第二皇子でさえそうなのだから、愛妾腹であり皇位継承権の低いフォルミオン殿下はどう足掻いても帝室に残る目は無い。

 殿下は去就をどのようにされるのか、憶測だけが飛び交っている。


 第四皇子殿下の側仕えは侯爵家からは選ばれなかったが、伯爵家から人数を揃えられた。

 私フィリベルト・ガレッティ含め、殿下の側仕えは七人。いずれも帝国の譜代家系の伯爵家の三男以降の生まれだ。

 七人も揃えらえたのは、愛妾の実家伯爵家の財力もあるが、愛妾に対する陛下の御寵愛の所以だろう。費用の一部は陛下が直接負担しているとの噂も出るくらいだ。

 殿下と我々側仕えは私を含め四人が同学年で、三人は一学年上だ。

 貴族子弟用の学校である国立中学院で引き合わされ、以来高等院、帝都大学と共に学んだ。

 殿下はそれなりに優秀ではあるのだが、教鞭をとる方々も『皇太子殿下や第三皇子殿下ほどの優秀さではない』と本人の耳に入らない場所で言っている。

 それに、傲慢で身分を鼻にかける部分が垣間見える。

 その性格を理解した上でやんわりとお諫めしつつ、何とかお仕えしてきた。


 大学進学の頃には、正室の出である皇太子殿下や第三皇子殿下の学生時代よりは大分少ないとはいえ、殿下には公務も割り当てられていた。

 我々側仕えが関われない物もあり、我々は殿下の大学での学業をいろいろサポートし、レポートや卒業論文も草案を側仕えで作ったものを提供した。

 そうしたサポートの結果、殿下は帝都大学の政治学部を次席で卒業した。

 ちなみにその時の主席は帝国外の宗教国家からの留学生で、かの国でも将来を嘱望された異才の持ち主であり、殿下では太刀打ちできる相手ではなかったので、我々は次席でも御の字だと思っていた。

 次席での卒業に、かの異才には及ばなかったものの殿下も麒麟児だと陛下は誉めそやし、それを真に受けた殿下は……増長してしまった。

 そして、今まで学業をサポートしてきた私達側仕えに対する労いの言葉もなく……むしろ、次席卒業を鼻にかけ、僅かながら我ら側仕えの事を見下すような雰囲気も見え始めた。

 垣間見えた傲慢さ、身分を笠に着る面が、悪い方向に現れてしまったのだ。

 陛下の命とはいえ、我らは殿下に対し誠意をもって仕えてきたのだが、献身は、努力は……実を結ばなかった。無に帰したとさえ思った。

 命があるため側仕えを離れられない。

 それでも我々と殿下の間には一線が引かれ……最早殿下の御宸襟には踏み込めず、命じられたことを熟すだけの立場へと立ち位置が変わっていった。

 側仕え失格だとの誹りを受けても仕方が無いが、我々の言葉はもう、御宸襟には届かないのだ。



 陛下の命により、殿下は辺境のクーロイ星系の統治を監査する監察官に就任した。

 だが、何故かそれに前後して宇宙軍の部隊招集を行ったりする必要があるのか。


「監察官として、クーロイの統治が正常に行われているか調査するという職務は分かります。ですが、どうしてそこに宇宙軍の分遣隊を編成する必要があるのでしょう」


 流石にきな臭さを感じ、どの様な意図があるのか殿下に尋ねてみた。

 だが、殿下から帰って来た答えは冷たかった。


「陛下から賜った命がある。君達の口出しは無用だ。手足は黙って見ていろ」


 そうか……やはり殿下にとって、我々は単なる手足の、駒の扱いなのか。

 この言葉で、少なくとも私の殿下に対する僅かに残っていた希望、信頼感は完全に失われた。


 その後、殿下はクーロイに赴任し、現地自治政府の統治実態の調査を始めた。

 我々も殿下の手足として調査に参加したが、予算も人員も足りずどの部署も四苦八苦していたが、どう見ても不正があるようにも、何かを隠蔽しているようにも見えなかった。

 過去に起きたコロニーへの天体衝突で失われた住民たちの為の式典で、殿下が招集した宇宙軍部隊が突入し、領主カルロス侯爵や、その片腕たる自治政府トップ、別口で監査していた第二帝室のラズロー特任中将や、主催していた被害者団体の面々を拘束した。

 そして更に殿下は命令を発し、部隊を誰もいない筈のコロニー奥へと突入させていった。

 事情を知らされていない我々は、最初は宙賊でも紛れているのかと思った。

 だが、部隊の交信を聞く限り、宙賊の討伐という感じではない。

 交信の中で、誰かがポロリと『生存者』と言ったことが引っ掛かった。

 結局、突入した部隊は奥から出てきた戦闘アンドロイドに返り討ちにされ、手足を折る怪我を負ったらしい。命に別状はないところを見ると、明らかに手加減されている気がする。

 そして、その生存者達はコロニー最奥部を切り離し脱出して行方を晦ました模様。

 元々このコロニーは軍用の大型貨物船を設計変更したもので、建造されてから自力でこの星系にやって来た。非常時には艦橋部分を切り離して単独で宇宙船として航行できる仕様だったらしい。


 0区に戻った時、殿下は非常に不機嫌だった。

 殿下は戻ってすぐ、とある理由で私が気にかけていた部隊指揮官を呼び出した。

 その指揮官に、殿下はこんな命令を下していた。


「あの女から何としても生存者の行先を聞き出せ。手段を選ぶな」


 殿下の言う女とは、拘束した『3区の会』事務局長であり、式典の際にコロニー奥へ逃げていた若い女性の事だと分かった。

 彼女に対しての、拷問を含めた尋問を殿下は指揮官に指示していたのだ。

 件の女性は、理由は分からないが単独でコロニー奥へ向かっていたところを、足止めのために宇宙軍に脚を撃たれ重傷で、病院に入院していたはず。

 彼女が明確に法を犯していたような証拠も証言も無い。

 そんな市民に対して、殿下は軍を動かして何をしようとしているのか。

 何か、とんでもない事になっている気がした。 


 私は側仕えの仲間と議論を重ね……我々は、大きな決断をした。



 私が代表して、殿下やグロスター宮廷伯爵に知られないよう、内密に近衛隊に接触を試みた。

 話が分かりそうで、出来れば女性士官が望ましい。

 丁度、女性であるために殿下から近すぎず、かつそれなりに階級の高い士官を見つけた。

 その士官、エリー・ハイヴェ近衛大尉に、内密に面会を求めた。


「殿下の側仕えが、私に何の用だろうか」


 領主屋敷の近くの近衛隊の駐屯地の面会室で、大尉は私に言った。

 ちなみに彼女の上官、チューリヒ近衛少佐という男性も同席している。

 理由は何となくわかる。()()()()()()()を考慮に入れていたのだろう。


 だが、私としても佐官が同席してくれる方が有難い。

 殿下に帯同する近衛連隊の連隊長――近衛大佐だったはず――まで話が通りやすくなるはずだ。


「殿下が軍の士官に、3区の会事務局長、エインズフェロー女史に対する『手段を選ばない尋問』を命じていました。明示的に罪を犯した訳でもない彼女への、不当な尋問、あるいは拷問までの含意があると感じ、殿下の暴走を止められないかご相談に上がった次第です」


 そう私が言うと、大尉と上官は目を見開いた。


「私を選んで声を掛けてきたのは?」 

「女性であることから、殿下からそれほど近しくは無い事。

 そして同じ女性で、かつ彼の女史とも面識があることも知っています。

 大尉に話を通しておけば、女史の事を不当な尋問から守りやすいかと思いました」


 ふむ、と少佐が声を上げた。


「なるほど。熟慮の末というわけか。

 だが殿下の側仕えである貴兄が、どうしてそのような相談を我々にするのだ。

 自ら諫めれば済む話ではないのか」


 大尉がそう私に問いますが、私は首を振ります。


「我々側仕えと殿下の間に、そのような信頼関係はありません。

 今回の作戦に関しても、殿下は我々に『手足は黙って見ていろ』と言われました。我らとしても大学卒業までの手柄を殿下に独り占めされ、しかもそれを自らの実力と勘違いして殿下は我らを蔑む有様です。

 我らの諫めなど、初めから聞く耳を持たないのです」

「それは……貴兄も微妙な立場だな」


 大尉が言うが、別に私の保身の為に面会を求めた訳ではない。

 彼女の言葉を無視して話を続ける。


「それに帝室が率先して法を逸脱した場合、それに歯止めをかけるのが近衛の役目だと帝国法に規定があります。矜持をもって職務に当たられている近衛の皆様であればと思いご相談させて頂きました」

「帝室の()()に、近衛が帝室の単なる護衛や私兵と勘違いする者も多いがな。正しい認識をしていただいているようで、何よりだ」


 帝室の中にもそのような勘違いをしている方がいると、少佐が零す。

 その中には、恐らくフォルミオン殿下も含まれているのだろう。


「殿下がそのような命令を発したとの事ですが、真面(まとも)な軍士官であれば、そのような拷問を容認するような命令を受けて、素直に受諾するでしょうか」


 大尉が疑問を呈する。

 普通の宇宙軍兵士なら、そんな命令を受けはしないでしょう。


「今回の部隊編成の中に『出自の怪しい部隊』出身者が多く紛れております。殿下が命じていた士官も、その出自の怪しい者の中に含まれています」

「出自の怪しい部隊、とは? どういうことですか」


 大尉が気になったのか訊き返します。


「その部隊名称は、確か『第二二三陸戦連隊』だったでしょうか。今回の部隊編成には、そこからの出身者が二百名ほど含まれています。

 ですが軍の指揮系統図にはその連隊の名前はありません。

 また連隊の駐屯地や指揮官、人数などがいずれも機密事項として非開示になっています。

 部隊編成の際、殿下が編制官にその部隊出身者を加えるようねじ込んでいました」


「に……二二三陸戦連隊だと⁉」


 少佐が、怒りを滲ませた。


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[良い点] なんだかあちらこちらで人心が帝室から離れちゃってるなあ こりゃ亡国の相だがどうなるやら
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