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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第12章

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12-04 クラッパ伯爵との会談(前)

トッド侯爵視点。

前章最後の、全貴族総会の呼びかけに対する裏事情です。

 このダイダロス帝国という星系間国家は、もともと辺境の一惑星を統一したダイダロス王国が、軍事力を持って周辺の星系を次々と併呑していって成立した。

 その過程で幾つもの国が滅ぼされたり、従属させられたりした。

 その中でダイダロスに対抗していたうち勢力の大きかった五つの星系国家が、イデア、ラミレス、クランバット、マケドニス、アケネイアの五つだった。

 勢力の大きかったこれら国家だが、単独ではダイダロスの軍事力には対抗できず、ダイダロスを含めた辺境六国家で合従連衡を目まぐるしく変えていった。

 その最中にダイダロスは巧みに勢力を伸ばし、ついにはこれら五国家を下した。

 そしてダイダロス王は初代皇帝を名乗り、ダイダロス王国はダイダロス帝国となった。


 対抗していた五王国はどうなったかというと。

 イデアとマケドニスは軍門に下った後、婚姻政策でそれぞれの王室は帝室の分家に組み入れられた。

 ラミレスとクランバットは、王室がそれぞれ公爵家として臣下に下った。

 アケネイアは最後まで恭順が許されず、攻め滅ぼされ、王室は根絶やしにされた。


 ダイダロスに下ったこれら五王国の家臣たちは、アケネイアの家臣たちを除き、帝国の家臣として貴族家に封じられた。

 アケネイアの家臣団は残らず平民へ落とされ、一部だけは他の譜代家臣団の下につけられた。

 こうしてアケネイアを除く元四王国の配下だった貴族たちは、自然と元の王国別に派閥を形成した。

 ダイダロス王国からの譜代家臣の派閥と、合計五つの派閥が出来上がった。


 そうして出来上がったダイダロス帝国だったが、旧四王国の王室も、扱いは下げられていった。

 旧ラミレス王室はそれぞれと親しい貴族達と一緒に口実を付けて追放された。

 旧マケドニス王室は帝室の分家から今では子爵と家格を下げた。

 旧クランバット王室はある時、公爵から伯爵へと一気に降格された。

 旧イデア王室は第二帝室のまま、徐々に予算を減らされ、帝室内で扱いを下げられていった。

 ダイダロスに対抗してきた旧四王家出身の派閥は、長い時間をかけて勢力を減らされてきたのだ。


 力を無くした派閥は別の派閥に吸収され、今では帝国貴族の派閥は三つに収斂された。


 一番大きい派閥は、ダイダロス王国時代からの譜代家臣の出身家達。

 一番勢力が大きく、全体を見れば親帝室の派閥だが、必ずしも派閥の中で意見が統一されているわけではない。


 次が旧マケドニス王国系。

 旧王室の追放で力を無くしたラミレス王国系の貴族達を取り込んで大きくなったが、旧マケドニス王室の系譜であるカーネイジ家が力を失い子爵家まで家格が下がったことで勢力を落としている。

 中心になって取りまとめる力の強い家がこの派閥には今は無く、いくつかの家が合議して派閥の形を何とか維持しているが、帝室に寄ったり離れたりを繰り返している。


 残りが旧クランバット王国・旧イデア王国系。勢力は落としているが、帝室とは距離を置いて政策を監視し、必要に応じて提言を出している。

 私の家はクランバット王国系の系譜であり、三つ目の小さな派閥の中で最も爵位が高いので、私が実質的に派閥を取りまとめている。

 我々の派閥は帝室とは距離を置いているとはいえ、反帝室を掲げている訳ではない。

 我らとて帝国と住まう民の安寧が第一である。



 私の統治するクセナキス星系に、商才に非常に恵まれ、一代で大企業を作り上げた者が現れた。

 その彼、アルバイン・エインズフェローが興したエインズフェロー工業は、私の治めるクセナキス星系やスタヴロス星系だけでなく、他星系へも勢力を拡大しつつある。

 多くの雇用を生み、星系を豊かにしてくれる彼とその会社は、私も懇意にしている。


 彼の末娘が起業を志し辺境星系クーロイへ行く事を、酒の席で彼から聞いた。

 その時は、大変なところに行くんだなという気しか起きなかった。

 かのクーロイ星系は戦略物資を採掘するための人員を中心としたごく小規模の人口しかおらず、十数年前に三基あった小型コロニーの一つを天体衝突で失っている。

 その後、帝国内の一部星系の人口過密を解消する一環でクーロイにも大型コロニーが建造されたが、費やされた予算に対し解消効果が想定より低く、あと三基の大型コロニーを建造予定だった計画が中止となった。

 そして、クーロイを治めるカルロス侯爵は旧ラミレス王国系だ。

 彼は元々治めていた星系が宙賊団に蹂躙され嫡男や有力家臣を多く失い、孫を嫡子として育てるための支援を帝室に求めた代わりにクーロイの統治を押し付けられたのだ。

 だが、初期費用こそ帝室から提供されたものの、戦略物資は宇宙軍に握られ、肥料などの元になるケイ素やリンの鉱石貿易による収益に頼る苦しい経営だと聞く。


 だが、後にそのエインズフェローの末娘からの情報をアルバインから齎されると、きな臭さを感じた。

 天体衝突で放棄されたコロニーへの立ち入りが非常に制限されていること。

 コロニー下の旧採掘場から、何らかの物資が運び出されていること。

 そして、その廃棄されたコロニーに生存者がいること。


 クーロイにいるその娘が、生存者を救出するための団体を立ち上げるというので、私も情報を探るために配下を送り込むことにした。

 その後、帝室が監察官の名目で第四皇子を送り込み、更には宇宙軍を動かそうとしているのを察知したので、団体に送り込んだ配下に帝室の動きを探るための工作を命じた。


 果たして、式典の際に宇宙軍が突入した。

 潜ませていた配下は、その際の交信記録やその証人を持ち帰って来た。

 配下が持ち帰った、第四皇子の手勢たちによる交信記録を傍受した記録を精査したところ、どうやら3区の会の事務局長、つまりエインズフェローの末娘を先んじて捕らえて人質とし、それによりコロニー奥に潜んでいた生存者達を捕らえようとしていた。

 そのような作戦行動をとる理由は恐らく、生存者を秘密裏に処分するためだろう。

 つまり、あのコロニーの奥には、帝室にとって明らかになっては不味いものがあるという事だ。

 

 それは多分、あの廃棄されたコロニーに過去に起きた天体衝突、あるいはそこにつながる何か。

 生存者たちは、あのコロニーの操縦部を宇宙船として切り離してどこかへ脱出していった。

 躍起になって第四皇子がその行方を捜している様子からして、そこに何かの証拠が残されている。

 彼らが無事なのは良かったが、その証拠と共に消えてしまった。


 重大な事態だと認識した私は、旧クランバット王室に連絡を取った。

 旧クランバット王室――帝室の命で改名と転封をされ、今はクーロイと隣接する辺境の農業星系ハランドリを治めるクラッパ伯爵家となっている。

 連絡を取った理由は、旧クランバット王室だからというより、今回のクーロイ騒動の影響はかなり大きく受けているはずだからだ。

 旧クランバット王室が元家臣の治める地を訪れるのは、帝室に目を付けられかねない行為だ。

 だから連絡を取り、代理人を遣わせるだけのつもりで連絡を取ったのだが。


 なんと、危険を冒して秘密裏に現当主マールス氏がハランドリ星系へやって来た。

 貨物船の乗員に扮して、ほとんど供も連れずに来たのだ。


 私も宇宙港職員に扮して、宇宙港に用意した秘密の部屋で面会する。


「マールス様、ようこそお出で下さいました」


 そういって頭を下げる。

 帝室の目の届く所ではできないが、こうした閉じた場では特に、旧王室への敬意は忘れない。


「止してください。当家は伯爵家。

 トッド侯爵と同じく、帝国の未来を憂う一貴族家でしかありません」


 そう答えるマールス・クラッパ伯爵は二十七歳。

 まだ当主を引き継いで数年の若者だ。

 だがこれまでの御当主と同じく、謙虚な人柄と高潔な精神が伺える。


「クーロイのあの騒動で、ハランドリへはかなり影響が出ているのでは」


 私の質問に、マールス氏は頷いた。


「備蓄はしていたものの、クーロイからのケイ素やリンの輸入が滞った影響で肥料価格が高騰しました。

 これは農家への影響がかなり大きかったです。

 一方で駐留してきた宇宙軍部隊からは食糧を接収されそうになりました。住民や政府職員の皆さんの協力で接収の要求は跳ね返せましたが、下手すれば暴動が起きかねない非常事態一歩手前まで行きました」


 それは、かなり危ない状況だった様子。


「我々も独自でクーロイに配下を潜ませ探っています。ですが、クーロイに進駐してきた第七突撃部隊や、それを実質的に率いる監察官……第四皇子殿下による統治の実態は酷いものです。市民への影響が最小限で済んでいるのは、残された自治政府職員の奮闘によるものでしょう」

「クーロイの実態についてはそこまで把握してないのですが、そんなに酷いのですか」


 マールス氏は頷いて続けた。


「人口が一万数千しかいないクーロイに二千以上の兵で進駐し、最初は食糧からごみ処理から全部星系自治政府に押し付けようとしていたようです。

 ちゃんと事前に調べていれば、あの星系にそんな能力が無いことは分かっていたでしょうに。

 ですが、それを知っている者が出したであろうごみ処理装置等の必要物資の申請が、実は殿下の名前で差し止められていた、との未確認情報も入っています」


 部隊の内部情報も一部掴んでいるとは。

 独自に調査するなかなか優秀な手段を持っているようだ。


「それに進駐部隊の一部は、一般市民からの略奪や不当な暴力行為まで行っていたとか。彼らは他の宇宙軍部隊では見たことが無い程、非常に素行が悪かったとも聞きます」


 他に見ない程の、素行の悪い部隊?


「そんなに酷い兵士が紛れていたのですか?」

「ええ、それも一人二人の単位ではありません。

 進駐後の市民への不当な暴力行為で、私が把握しているだけで四十人以上が更迭されています。

 それとは別に、式典の主催団体に対する拘束後の不当な暴力行為により、第四皇子殿下に帯同した近衛部隊が更に数十人を拘束したそうです。近衛総監が中立を宣言した主な理由はこちらのようです」


 拘束後の不当な暴力行為、だと⁉


「……つまり、戦時中でもないのに、違法な拷問が行われたと?」

「そのようです。3区の会と言ったでしょうか。そこの代表や事務局長など数名が近衛隊に保護されました。彼らは拷問を受けた形跡があるそうで、幸い命に別状はありませんが今も入院中だそうです」


 配下に手を貸させていた、あの被害者団体が拷問にあったと。

 その目的は恐らく、3区コロニーの生存者達の逃亡先を聞き出そうとしたのだろう。


「侯爵閣下は、どういった情報をつかんでおられますか?」

「式典に突入した時の、宇宙軍の交信記録を入手しました。その記録を確認したところ、最初からあの式典に乱入して、カルロス侯爵やラズロー中将、3区の会の事務局長、後はあのコロニーで密かに生きていた生存者達を捕らえるのが作戦目的だったようです」


 そう話すと、マールス氏は目を見開いた。


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