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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第12章

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12-03 頓挫しつつある計画

第四皇子視点

 このままならない状況を、父……皇帝陛下に相談した。


『旅客手配は仕方あるまい。船は大型旅客船を二隻、こちらで手配してクーロイに派遣する。ここらで帝室も点を稼いでおかねば、世論とやらがうるさいからな』


 皇帝陛下は、マスコミ用と式典参列者用に旅客船を手配してくれることを約束した。


『近衛と本気で対立する訳にはいかんのだ。3区の会の女の事は諦めろ。その代わり、カルロス侯爵とラズローの身柄は絶対に近衛に引き渡すな』


 陛下はあの女の身柄確保を諦めろと言うが。


「ですが、あの生存者達が逃げた先を追わないと」

『今更、無理だ』

「無理でしょうね」


 食い下がる私を、陛下だけでなく同席するグロスターまで否定する。


「3区の会の女やカルロス侯爵にしても、正確な座標まで知っているとは思えません。せいぜい、落ち合った場所が特定できるくらいでしょう。ですがその場所に何か残っているとも思えません」

『私もグロスターと同意見だ。今更、足取りを追う事にそれほど意味はない。お前の事だ、連隊を動かして強引に進めようとしていたのだろうが、それによって連隊へ追及の手が回る方が余程危険だ』


 二人の言葉で、自分がかなり焦っていた事に気付き、少し冷静になった。

 連隊は私が直接動かせる手札だが、追及されると色々不都合が多いのも確かだ。


『それと、侯爵とラズローは丁重に扱え。特にラズローは宇宙軍にも支持するものが多い』


 ラズローの奴のことは、平民と同じ牢に入れろと指示したのだが。

 どう言い訳しようと一瞬考えた。


「どちらも、准将が丁重に遇しております」

『なら良い』


 しかし私が取り繕う前に、グロスターが答えていた。

 准将が、ラズローを丁重に扱っているだと?

 陛下の叱責が無く結果的には良かったが、私の命令を無視したのか⁉

 グロスターを睨みつけるが、彼はちらりと私を見ただけで、画面向こうの陛下に向き直った。

 本当に、苛々する……。



「侯爵はともかく、ラズローを准将が丁重に遇しているとはどういう事だ!」


 陛下との交信を終えて、私はグロスター宮廷伯爵に詰め寄った。


「どういう事だと申されましても、その件は准将に預けたのでは無かったのですか」

「私は、中将を平民牢に入れろと申し渡した筈だ!」


 私が怒って言うと、グロスターはあからさまに呆れた表情を見せた。


「あの方は仮にも第二帝室です。そのような扱いが出来る訳無いでしょう」

「あんな力の無い奴等、平民同様に扱って何が悪い!」


 グロスターは溜息を吐いた。


「あなたの個人的感情……いえ、はっきり申しましょう。あなたの中将に対する()()()に基づく命令は受けられません」

「なっ……何だと!」


 咄嗟にグロスターの言葉を否定できず、グロスターの不敬に苛立った。


「平民牢に入れて食事を抜いて、ラズロー中将をボロボロに扱えば、貴方の溜飲は下がったでしょう。それだと宇宙軍は多くが敵に回っていたのですが、殿下はそちらが御望みでしたか」

「ぐっ……!」


 悔しいが、グロスターの言い分の方が正しい。

 ラズローの奴は……ここ何年かの監査で宇宙軍内の多くの不正を摘発して、宇宙軍の特に下士官を中心に、上級士官の一部にも絶大な支持がある。

 多くの上級士官は我々を支持してくれているとはいえ、帝室の力の基盤が宇宙軍にある以上、下士官といえど支持を失うのは避けねばならない。


「陛下が手配してくださる旅客船の運行調整は私の方でやりましょう。殿下はクーロイの混乱を早く収拾させてください」

「言われなくても分かっている!」


 私はグロスターにそう言い捨てて立ち去った。


 グロスターの奴に言われて腹が立ったとはいえ、今後の目的の為にも、このクーロイの混乱を鎮めなければならない。

 ゴミは最終処分をハランドリ星系へ委託していて、進駐当初の混乱は収まっている。

食料もハランドリからの輸入で賄っていて、駐留する宇宙軍の分も含めて充分な食料が行き渡っている。

例の連隊から連れて来た兵士達は市中で混乱を招いていたので、彼等は元の場所に戻した。

 それに大型旅客船の手配も父とグロスターがやってくれる。

 これら当面の問題は回避したが、3区の奥を押さえる事ができなかったので、当初の計画を早々に達成できる見込みは無い。達成できれば多くの問題は後から解決できるのだが、待っていても達成できる見込みは無くなってしまった。


 状況を有利にするには、私がクーロイを統治しているということを既成事実にしなければならない。

 だが、拘束直前に侯爵と長官が任命したクラークソン長官代行が率いる自治政府は、私との対立姿勢を鮮明にしてしまっている。駐留している宇宙軍の後ろ盾が無ければ、私による統治という事実を作ること自体が難しいのが現状だ。

 宇宙軍を撤退させても、私がクーロイを統治できるという実績を作るためには、少なくとも帝室が有利になる形で全貴族総会と帝室との対立を無くすことが肝要だ。

 クーロイの運営に、これ以上の問題を持ち込む訳には行かない。ならば、あの総務長官代行ともよく話し合わなければならない。


 

「行政長官だけでも、職務復帰は出来ませんか」


 ピーター・クラークソン総務長官代行と定例の会談を持ち掛けた。

 その一回目の会談、冒頭にいきなり総務長官代行が要求してきたのが、これだ。


「本来私は、総務部門の長官職の、一時的な代行に過ぎないのです。しかし他の長官職も貴方がたが拘束していますから、最先任の私がそちらも代行せざるを得ず、色々行政処理が滞っています。他の長官達の拘束が解けないのでしたら、せめて行政長官だけでも復帰させて頂きたい」


 私は首を振った。


「拘束された侯爵に代わり、私を領主代行と認めるなら、考えないではない」


 行政長官の解放は駄目だ。今の状態で彼を釈放することは、私達の計画に支障をきたす。


「領主の承認は貴族総会に申し出てください。行政職員でしかない我々にそんな権限はありませんから」


 せめて、自治政府側の私に対する了承が無ければ、貴族総会でクーロイ領主に私が就くことの承認など得られない。それを分かっていて、長官代行はこんなことを言うのだ。

 この話題はお互いの主張が交わること無く終わってしまう。

 だが、今の状況では自治政府の行政がきちんと回っていないのも確かだ。せめて、行政がちゃんと回っている状況を作らなければ、私の実績には到底ならないのも事実。


「中央から人を派遣して、一時的に財務と法務、運輸長官代行に充てようか」


 せめて、私の意を汲む者を政府高官に入れさせないと。

 だが、長官代行は首を縦に振らない。


「実務経験の浅い青瓢箪では状況は改善しません。指示出しだけでは行政は回らないのですよ」


 私の提案は代行に一蹴された。くそっ。


「実務経験を積ませたいなら、元の財務と法務、運輸の各長官を復帰させて、彼等の下で貴方の側近を働かせては如何ですか。彼等も殿下の小間使いでは、能力を発揮できないでしょう」


 長官職にあった者達の復帰もナンセンスだ。

 彼等を復帰させては、私によるクーロイの統治が既成事実化できない。

 私を無能者呼ばわりするこの代行にも腹が立つ。


「長官職だった者達の釈放は、現時点では出来ない。それとは別に、私の側近を二名ほど、自治政府側で働かせるか」


 側近を自治政府内に送り込んで、まずは彼等の内部事情を探りたいと思い提案した。

 だが、これにもクラークソン長官代行は首を縦に振らなかった。


「本来、長官職でなければ任官は出来ません。領主代行たる殿下であっても、長官より下の任官は出来ないのです。総務に関しては一応私に任官権があり、一名なら受け入れられますが」


 逆に長官代行が側近一名の受け入れを提案してきたが……恐らく重要業務部門には割り振られまい。

 せめて、二名は受け入れて貰わなければ、裏取りもできないではないか。


「二名は送れないか」

「予算が限られておりまして、中央の給与水準で二名も受け入れたら今年の予算執行に支障を来たします」


 クラークソン代行は、自治政府の予算不足を理由に断ってきた。ならば。


「私の持つ執行権の範囲内で二名、その間の給与負担はこちらで持つ。その条件なら、半年までなら貸し出せるが」

「……良いでしょう。基本は受け入れの方向で、細かい条件は別途詰めましょう」


 代行はようやく提案を了承した。

 誰を貸し出すか、どういう条件を出すかは後でグロスターや側近達と相談するか。

 今回の議題はこれだけではない。


「旅客航路の再開の目途についてはどうでしょうか」


 長官代行が問うのは、拘束しているマスコミ連中と行方不明者家族をどうやって帰すかという件だ。


「帝都の方で、大型旅客船を二隻手配中だ。一隻をマスコミの者達の帰還対応に、もう一隻を参列家族の対応に充てる事を考えている。こちらへの到着日が分かり次第事前に連絡する」


 陛下が手配してくれた旅客船の情報を長官代行に伝えると、少しほっとした表情をした。


「……思ったより手配が早くて助かります。旅客船の搭乗可能人数次第では、何度も往復しないといけませんが、その辺りのスケジュール調整はどうなりますか」

「旅客船のスペックとこちらへ到着後の運行スケジュールは、別途担当から連絡させる」


 恐らくグロスターの奴は、こちらへの到着までの手配しかしてくれないだろう。旅客船の仕様の入手は彼に任せれば良いが、運航スケジュールは……側近達に調整させるか。


「式典に参列したマスコミ各社から、機材を早く返せと言われていますが、そちらの返却は」


 そういえば、式典の際に拘束したマスコミ連中から機材も押収していたのだった。


「マスコミの一部の者は違法に軍用無線の盗聴をしていた。該当者は引き続き拘束しているし、彼らの機材も返す事はできない。その他の者達は問題のあるデータが無ければ順次返還させる」


 旅客航路も再開するので、そろそろマスコミを押さえておく理由が無くなって来る。

 軍用回線の傍受データがあるものは返せないが、他は返しておかないとマスコミが煩い。返しても批判が来るだろうが、それはもう仕方が無い。


「軍用回線の傍受データですか……その傍受データですが、全貴族総会にて提示されたと聞いています。入手先は明かされていませんが、内容は信憑性が高いそうですよ」


 な、何だと……。

 クラークソン総務長官代行のその言葉に絶句した。


 まさか、あの会見に出ていた何とかいう市民……あれは、行方不明者家族として参列していたが、本職はジャーナリストだと紹介されていた。

 あの者が、軍の通信回線を傍受し持ち出したのだろうか。

 式典の参列家族への手荷物検査が甘かったのか?

 あるいは……元々、貴族家が囲う情報収集組織と手を組んで、機材を秘密裡に持ち込んだか。

 宇宙軍の網に引っ掛からずにクーロイを脱出している所をみると、後者の可能性が高い。


「……具体的にそのデータを聞いていない以上、私から言う事は無い」


 そう言って、この話題を打ち切った。

 その後は個別の問題に対する対処についての議論となった。




「陛下。クーロイへの行政職の派遣はできませんか」

 私は、日次の定例となった父陛下への報告の通信の場で、拘束した自治政府高官に代わる人材の派遣を要請した。


『クーロイの星系は小さいといえども星系政府高官だからな……自治政府高官人事への帝室の介入は、全貴族総会での批判の的だ。どうしても立ち行かなくなったら、侯爵と行政長官以外は一時的にでも解放した方が良いだろうが、それは最後の手段だ。当面は、今の体制のまま統治を続けなさい』


 高官の派遣は、陛下には認められなかった。

 政府への人員の貸し出しは、やはり私についている側近達から選ぶか。


「あと、部隊突入時の軍内部の通信記録が全貴族総会で提示されたとの未確認情報が」

『何だと! マスコミは押さえたのではなかったのか!』


 陛下は眦を上げ、私を叱責する。


「マスコミは押さえ、交信記録を傍受していた者は拘束したのですが……トッド侯爵の会見に出ていた行方不明者家族が、その、本職がジャーナリストらしく。その者がクセナキス星系に居るので、恐らくトッド侯爵が傍受や脱出を手引きしたものと」

『……それは不味い。もしそうなら、全貴族総会との対決は避けられん』


 カルロス侯爵を捕えた際の公式発表と、部隊を突入させた内実が異なるという証拠になってしまう。

 真実だと証明するものは無いが、帝室を支持する貴族達の間にも、動揺が広がる危険性が高い。


「対決が避けられないなら、せめて対決の舞台を帝都に持ってくるべく調整せねばなりません。トッド侯爵のホームグラウンドで戦う訳には行きませんでしょう」

『ある程度は総会側に譲歩せざるを得ないか……』


 陛下とグロスターの間では、帝都で双方の話し合いをするよう調整する方向で話が進んでいる。

 私も含め三人の間では、当初の計画の達成は難しいと考えるようになっていた。


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