12-01 友情を深め合う日常
前から随分間が空いてしまいましてすいません。
ラウロ視点です
先日カラオケボックスで、クローズドボードのメンバーで集まって話した通り、ロイはあのゲームを仕上げてきた。
最初に見させて貰ったんだけど、ゲーム開始の時の説明が仕上がっていた。
『17年前の事故で廃棄されたコロニーで、当時の事故の秘密を見つけた』
『それを知った帝国軍が、君たちを狙っている』
『でも君たちには、軍に立ち向かうための武器はない』
『帝国軍の攻撃をかい潜り、レジスタンスのいる外惑星トラシュプロスへ脱出せよ!』
疑問に思ってロイに聞いてみた。
「レジスタンスって、この間の話で出てたっけ?」
「出てないけど、なんかそれっぽいじゃん」
それもそうか。
「もうアップしたの?」
「これからだよ。ラウロもアップする所を見たいだろうと思って」
僕は頷いて、ロイが端末を操作してオンラインストアにアップする操作を彼の横で眺める。
出てくる規約とかなんとかのページは全部すっ飛ばして、ロイはアプリ名を『カリアティからの大脱出』として、その後に登録した。
ロイは最初『クーロイからの脱出』って名前を付けてたけど、「ロイや僕が小学生だから、帝国に過度に目を付けられるのは不味い」って、この間カラオケボックスで会ったナルさんやガストンさん達がその名前に反対した。
そこで、ナルさんが「カリアティデスって名前はどう?」って提案してきた。
この星系クーロイっていう名前自体が、古い帝国語で「男性の彫刻像」の意味らしい。初期の1区から3区のコロニーが宇宙に浮かぶ立像に見えたからそう名付けられたんだって。
もっと僕たちが大きくなれば学校でもそう習うんだってナルさんが言ってた。
そして提案された『カリアティデス』って言葉は、古い帝国語で「女性の彫刻像」を指すんだそう。
直接的にクーロイの名前をゲームアプリに名付けたらさすがに帝国軍に目を付けられかねないけど、まったく違う名前を付けると星姫ちゃんとの関連が誰にも気づかれないから、名前が違うけどわかる人にはわかる、というところを狙ったらどうか、というのがナルさんの提案だった。
ロイには「どう思う?」って聞かれたけど、僕がアプリを作ったわけじゃないから、僕が意見を言うのはちょっと違うと思ったから「作ったのはロイなんだから、ロイが思うようにすればいいんじゃないかな」って答えた。
ロイはしばらく考えてたけど、ナルさんから提案されたそれをそのままアプリ名につけるのも違うと思ったようで、ロイは後ろを削って『カリアティ』って名前にした。
ロイが言うには「こうした方がなんか響き良いなって思った」とのこと。
ロイと僕は、学校のクラスメイト達にアプリを紹介した。
敵を撃ち落とせないのがちょっと物足りないって意見も貰ったんだけど、ちょっとの時間に遊ぶには手軽で、クラスの男子の半分くらいは端末にダウンロードして遊んでくれた。
僕も電波待ちの時間にちょくちょく起動して楽しんだ。
ただ、アップしてしばらくの間は、ダウンロード数は三十程度だった。クラスメイト以外にはまだ広まっていないのかな。
「初めてのアプリだし、そんなものだよ」
そうロイは言ったけど、それなりに面白いし、もうちょっと伸びても良さそうなのに。
僕は残念な思いだった。
それから何日か経って、何気なしにあのゲームアプリのダウンロードページを見ると、ダウンロード数の桁が一つ上がって二百近くに伸びていた。
学校でロイに聞いてみる。
「ここ二、三日で数が伸びたみたい」
「へえ。良かったじゃん」
ここで、クラスメイトの一人が話に入ってきた。
「なあ、お前のゲームってダウンロード伸びてんじゃん。あれでどのくらい金入ってくるの?」
「広告とか何も入れてないし、金なんか入ってこないぞ」
ロイが言うと、そいつはあからさまにがっかりした表情をした。
「えー、なんだ。広めたらお菓子でもいくらか奢ってもらおうと思ったのに」
そう言って、クラスメイトは離れていった。
そう、あのアプリゲームにはそういった物は入れてない。
広告を入れるかどうかは、ボードの大人達にも相談した。
「ロイ君は、お金が欲しくてそのアプリをつくったのかい?」
ガストンさんのその返信を見て、ロイは広告を入れるのをやめた。
「もともと、星姫ちゃんの事をどうにかしたいって思ったのが切っ掛けだしね」
あの3区の中継の後、二人であちこちボードに書き込みした時のことを思い出したのか、ロイがあの時の様な泣き笑いの表情を見せた。
その表情に、僕もあの時の事を思い出した。
「そもそもさ、ロイってなんでアプリ作ろうと思ったの?」
僕はロイに聞いてみた。
「親のやってるシステム関係?の仕事の事を聞いても俺にはよくわからなかったんだけど、この端末で動くようなアプリには興味あってね。いろいろアプリを見ているうちに自分で作りたくなってさ、親にプログラミングの事を教えてもらったんだ」
僕一人でラジオ電波収集していた時、僕がどちらかというと思いつきでチャンネルを変えたりしてた。
ロイが学校で友達になって、趣味に付き合ってくれるようになってから、日ごとにある程度調べる範囲を絞る提案をしてくれたり、拾った電波をデータ化する手順を作ったりと、何かと手際よくやる方法を見つけてくれたりしている。
僕が思い付きで動く所を、ロイがそうして効率を考えてくれるのは僕としても助かっている。
「でも何を作るかって言われると、自分が作りたいものってなかなか無くてさ。いろんな大人が頭を使って作ったアプリは便利だし、それを押しのけてまでやるまでもないかなって思ってた。それが、この間の3区での星姫ちゃんの事があって。俺も助けるために何かしたくて」
「それが、あのアプリってこと?」
ロイは頷いて話を続ける。
「最初にあのラジオの電波を見つけた時、実は俺……最初はそんなに興味が無かったんだ。だから最初は、俺はラウロを手伝うだけのつもりだった」
ロイがそんな風に思ってたなんて、知らなかった。
「でもなあ、ラウロと一緒に星姫ちゃんの事に関わるといろんな事が起きて面白かった。いろんな陰謀めいた話も多いし、ボードのおじさんたちも知り合えたし。それに、式典の時の歌を聞いたら……星姫ちゃんの事、俺も本当に心配になるんだよ。それで俺も何かしなくちゃって」
ロイの話を聞いていたら、僕も内心をロイに打ち明ける決心ができた。
「……なんか、自分でアプリ作って広めようとしてるなって、ロイはすごいなって思って。僕はラジオの電波拾ったくらいで、あんまり大したことなんて出来なくて。こんなことができるロイの事が羨ましくて。最近なんか、胸のあたりがモヤモヤしてた」
正直、ロイがこのまま……僕から離れて、大物になっていくのかなって思ってた。
「いやいや、俺はラウロって凄いなって思ってたよ。あんなに他人の事に夢中になって、いっぱい頑張れるなんてな。お前と一緒にいれば、俺もそんな気持ちになれるのかなって思ってたし、実際そうなった」
「え……?」
ロイの言葉に、僕は戸惑う。
「お前の星姫ちゃんへの熱意が無かったら、俺もモヤモヤしたままだったんだ。俺をここまで巻き込んでおいて、何を一人で落ち込んでんだよ」
ろ、ロイ……それって、つまり。
「これからも、僕の友達でいてくれるってこと?」
「何言ってんだ、当たり前だろ。一緒に俺たちで星姫ちゃんを助けようぜ」
そ、そっか。僕は……ロイが離れて行ってしまうかもしれないって、落ち込んでいたけど。
そんな考えは、単なる独りよがりだったのか。
「あ、ありがとう。今度は、僕がロイの力になりたい。僕は、何をすれば」
「何をって、今までと変わんないだろう。アプリをもっと広めて、星姫ちゃんを助けたい人を一杯増やすんじゃないのか」
そうか、そうだったね。
「じゃあ、僕は前の星系の友達にも紹介してみる。星姫ちゃんの前のラジオデータも一緒に広めてみるよ。ロイは?」
「俺の方は、アプリへの評価でいろいろコメント貰ってるからな。あれを見て、改良できるかどうか考えてみる。そっちもラウロと相談したいんだけど」
「ああ、いいよ。もちろん」




