2-03 管理エリア奥の探索(2)
管理エリア奥の探索を切り上げて戻ってみると、グンター小父さんとライト小父さんもメンテナンス作業を終えて戻ってきてた。
2人に探索結果を一通り話してみた。
「そうか、AM3区が管理エリア奥にあったとはな。」
「懐かしいねえ。俺は『ポップ・クルージング・AM3』をよく聞いてたぞ。グンターは?」
「俺は『マッキーのジャズ・ミッドナイト』だな。セインはどうだった?」
「私は『ダイダロス・ホット100』を毎週欠かさず……って、懐かしいラジオ番組の話はこの辺にしておこう。メグが付いて来れないぞ。」
「ああ、そうだった。すまん。」
なんか、小父さん達はAMラジオ放送局の話に食いついて盛り上がった。分からない話を延々される前に、セイン小父さんが止めてくれてよかった。
「放送局は置いといて、艦橋もそうだがハッチの奥の方が気になる。あっちにも再生処理装置とか空気清浄装置があるはずだから、メンテナンス用通路とかもありそうだな。」
「向こうの船外環境がどうなってるかは一度見ておきたいな。トレーニング室も使えるならありがたい。」
ライト小父さんが部屋に筋力トレーニングの機器を色々持ち込んでいるのは知ってるけど、あれじゃ足りないの?
「アタシはブリッジに記録が残ってるかどうか気になる。それに、もし宇宙船として動かせるなら動かしてみたいな。」
「動かせるなら、救助を求めることも出来るだろうしね。ただ、誰にどうやって救助を求めるかは慎重に考えないとね。
軍も自治政府も、信用できるかどうかわからない。」
うん、アタシ達が生きてる事を揉み消されるのが一番怖い。
「今日のところは、士官室を漁って見つけたウィスキーと焼酎を2人に渡すよ。ブランデーは貰うね。ワインはセラーに置いておいて、3人でまた飲もう。
また明日、調べてない所を皆で調べようか。」
「待って、セイン小父さん。
明日はゴミの日だから、明日も明後日も無理だよ。」
明日はケイトさんとの取引も大事だけど、他の業者がコロニー内をウロウロしないか注意もしないといけない。
明後日は転売屋達が漁った残りのゴミから使える物を探す日。
「そうだったな。じゃあ明々後日、皆で調べに行こう。
明日ケイトさんに次回頼む物を洗い出さないとな。」
管理エリア奥の件が終わったら、明日のケイトさんとの取引について話し合った。
翌日ケイトさんが来た時に、あちら側のラジオ事情について聞いてみた。
0区にはFMラジオ2局の他にテレビ局があるらしい。0区には家族で移住してきた人も多くて、仕事をせず子育てをしている母親達や、飲食店での娯楽になってるそう。
ケイトさんはAMラジオの事は知らなかった。少なくとも今は1区や2区にラジオ放送局は無いんだって。
因みにアタシの報告を聞いたグンター小父さんが、ここで0区のラジオ放送を聞けないかなって言い出したけど、FMラジオやテレビの電波は、0区から惑星の反対側にあるここには届かないってライト小父さんが言うと諦めた。
ケイトさんが来た翌々日、全員で管理エリア奥へ向かった。今回はハッチの奥も調べるため宇宙服も持っていく。
最初はやっぱり、あの一番奥のブリッジと思われる部屋。
ブリッジの各端末は最初電源が入らなかったけど、一番大きな端末の席の床に主電源レバーがあって、それをONにすると全部の端末が使えるようになった。
端末からいろいろ情報を引き出したところ、やっぱりここはコロニー宇宙船のブリッジらしい。
各座席の端末を調べてみると、7つの座席のうち6つにはそれぞれレーダー制御端末(2席)、動力制御端末、艦内情報確認端末、航路コントロール。通信管制が備えられていて、残る1席に設置された一番大きな端末はこれらを全て制御できるものだった。
グンター小父さんの推測では、通常は7人で分担して宇宙船のコントロールを、非常時は1人で全部コントロールできるように設計されているんじゃないかって。
宇宙船としての図面も残されていたので確認すると、元々コロニーを移動させて来た時のエンジンが取り払われ、今は軌道シャトルや軌道エレベーターの発着場所になっている。だからコロニー全体を宇宙船として使う事はできないみたい。
管理エリア部分だけを切り離して、単独で宇宙船として航行できるようにはなっている。でも艦内情報を見た限り、長い間放置されてて電気系統も外殻も修理が必要な上、航行できるエネルギー……それを引き出す触媒物質リオライトが無い。
「リオライトって、この星系で採れる物質じゃなかったっけ?」
「事故の前に聞いてた話だと、3区の真下の地表では含有率が低くてあまり採れないって話だったな。むしろ1区や2区の方がよく採れたって。
そもそもリオライトは軍が管理する希少な戦略物資だったから、事故の前に軍が3区から全部持ち出したと思うぞ。」
アタシの疑問にライト小父さんが答えを返してくる。
そう簡単には手に入らないか。
小父さん達と相談の上、ひとまず修理だけはしようということになった。
ただ、現時点では航路コントロール機能はロックが掛かっていて使えない。『航行できる状態ではないのでロック解除できません』『航行コントロール権限者の認証が必要です』と表示されて、今のところ解除する手段が無い。
それに仮に宇宙船として直しても、アタシ達には宇宙船を運転するノウハウが無い。今はどうしようもないので、リオライトの調達を含めて、後で考えようということになった。
他には通信記録を確認したけど、あの事故の7日前から事故の6時間前までの記録にはプロテクトが掛かっていて、どうしても見れなかった。
ここまで調べたところでかなり時間が経ってしまったため、船内図面を手元の携帯端末にダウンロードしてこの日は終了。
その後数日かけて、管理エリア奥の残りの部分を調査した。
図面によると、整備室や武器庫のハッチはいずれも、エンジンエリア、空気浄化装置や再利用処理装置などの維持装置エリア、そして船外への3つの通路が存在するらしい。
エンジンは2基あって、整備室奥と武器庫奥のハッチからは別々のエンジンエリアに繋がってる。
エンジン自体は壊れていなかったけど、電気系統とは別にエンジンからエネルギーを艦内に流す回路はあちこち劣化しているみたい。これは全部銀配線になっていて、ゴミから拾った銀配線だけではまだ足りない。
維持装置エリアは、どちらのハッチからも同じ場所に繋がっていた。空気浄化装置や再利用処理装置は電気系統・エンジンからのエネルギー系統のどちらでも動くようになってた。装置自体は軍仕様で丈夫なのか壊れてなかったけど、電気系統もエネルギー系統もどちらも劣化してる部分が多く、配線交換が必要だった。
AMラジオの送信アンテナもこのエリアにあった。
宇宙服を着て船外に出て確認してみると、外殻にあちこち損傷があるみたい。整備室に外殻修理剤が残ってて、これを使って修復は出来そうだけど、足りるのかな?
トレーニングルームは、器具類は油を差したり器具を清掃したりすれば使えそうだった。
重力トレーニング室も、重力設定や映像の投影は問題なく動いた。調査の後でこっそり1人で入って、無重力設定にして中を飛び回って遊んだのは小父さん達には内緒。
そして最後にAMラジオ放送局。
それぞれのコントロールルームからは、スタジオで録った音の音量・音質や速度の調整、記録、記録の再生、アンテナへの出力をコントロールできるようだった。
収録室からは、録音と記録からの再生がコントロールできるようになってた。
記録については、事故の前日までの20年分の放送記録が全て残ってるみたい。
放送の日付や時間、番組名を指定して検索できたり、音楽であればアーティスト名や曲名、歌詞の一部でも検索できたりする。これには小父さん達が全員興奮して、覚えている番組や歌を検索して遊んでた。
ただ、放送設備自体は使えても、アンテナまでの出力配線が劣化してたから、AMラジオを流すなら配線交換が必要。
一通り調べた後で、これからどうするかを4人で話し合った。
装置類の故障は少なかったけど、配線は劣化で交換が必要な部分が全体的に多くて、今の手持ちの銀配線や銅配線ではとても足りない。外殻の修理剤も残されていた分だけではなく、できれば予備も欲しい。
宇宙船修理だけではなく、エネルギー触媒リオライトの入手や、宇宙船の操縦ノウハウも必要。
条件が整えば宇宙船で脱出することも考えて、今の住居エリアで住んでいる場所を引き払って、管理エリアの下士官室や士官室に引っ越すことにした。アタシは7日に1度ニシュの充電をしている、上級士官の部屋の寝室で寝泊まりすることになる。
配線不足についてはゴミから選別した分だけではなく、引き払った住居エリア側の設備からも配線を抜き取っていくことにした。
外壁修理剤は、住居エリア側で使っていたものを代用する。足りない分はケイトさんに注文する。
ただ、リオライトと宇宙船操縦ノウハウについてはお手上げ。
リオライトは、軌道エレベータが動くか確認して惑星の採掘基地に降りることも考えないといけない。
宇宙船操縦ノウハウは、もっと深く巻き込めそうならケイトさんと相談してみよう、ということになった。
ただ、問題が無いわけではない。
一つは資材不足のため、ゴミから入手してケイトさんに売れるものが減ってしまう。でも単純に減らしてしまって、ケイトさんに買ってきてもらえる資材や食料、医薬品が減ってしまうのもまずい。代わりになるもの、例えば交換後の劣化配線でも取引できるかはケイトさんに確認しないといけない。
もう一つは、リオライトや宇宙船操縦の件をケイトさんにどこまで話すか。
事故から一度も調査や救助に来ない時点で、この星系にいる軍や自治政府をアタシ達は信用していない。いずれはこの3区を脱出する必要があると思ってるけど、軍や政府に頼らないためにはどうしても外部の協力が必要になる。
「こればっかりは、ケイトさんと直接会って話してない私達では、どこまで信用できるか判断できないよ。」
「信用できたとしても、彼女がどこまで顔が利くのかもわからん。
管理エリアにあった外壁修理剤は軍用品だし、まずはこれをケイトさんが調達できるかどうかから、徐々に確かめてみるしかないんじゃないか?」
やっぱりそうかー。徐々にケイトさんに確かめてみるしか無さそうね。
「次回の取引の時に、探りをいれてみる。
あーあ、小父さん達が交渉に加わってくれると気が楽なんだけど。」
「メグがまだ未成年の女の子一人で交渉してるから、同情もあって協力して貰ってると思うぞ。向こうも1人なんだから、俺達が出て行ったらケイトさんは警戒するだろう。
向こうから紹介してくれって言われるまでは、俺達が出て行く場面じゃないんだよ。大変だと思うけど、頑張ってくれないか。」
……ライト小父さんの言う通りか。
残念だけどしょうがない。
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