11-09 クーロイ騒動、未だ収束せず
今回は俯瞰視点です。
長さも短め。
本日は1時にこの章の最後として人物紹介を投稿します。
リチャード・トッド侯爵、マールス・グラッパ伯爵の連名による帝室弾劾と全貴族総会の招集動議は、弾劾内容の詳細は一般公開されなかったにも拘わらず、多数の有力貴族が賛成に回り、全貴族総会の招集が決定された。
また、近衛総監による中立宣言もあり、帝室と全貴族総会の対立が鮮明となった。
全貴族総会の初回会議は、帝都では無く、動議者の一人トッド侯爵の領地クセナキス星系で行われた。
会議の内容は非公開だったが、参加した下位貴族の一人が報道陣に明かした内容によると、会議の場で明かされたのはクーロイ封鎖とその間の第四皇子による職権・権威の恣意的運用の実態であったという。
実態として、帝室の権威と、宇宙軍第七突撃部隊の上位権者、そしてクーロイ自治政府の領主代行という、本来一人の人間に集中させるべきでない権限・権威が集中したことにより、専制政治となりかけていた、という報告が上げられていた。
宇宙軍と自治政府との明確な駐留規程の合意の無いままの、僅か二万二千程しかいないクーロイへの宇宙軍駐留の食糧負担や、宇宙軍による大量のゴミ処理の自治政府への押し付け。
駐留宇宙軍による、住民への過度の干渉や暴力沙汰、飲食の現地政府への負担強要。
クーロイ星系と他星系の、旅客・貨物全航路と通信の封鎖。
そして、未だ明確な証拠が帝室から出されていない、領主カルロス侯爵と自治政府上層部、3区の会事務局の癒着容疑にかこつけた、領主と3区の会事務局の拘束と違法取り調べ。これについては、帝室は自ら帝国法を軽視するのか、と貴族達は皆一様に怒りを示したという。
余りに酷い第四皇子による統治の実態に、総会に集まった貴族達は憤り、極一部の帝室派を除く総会参加貴族の多数が、帝室弾劾の方向で動いている。
初回会議の模様が報道され、クーロイ領主代行となった第四皇子はようやく動きを見せた。
貨物航路は代行就任後しばらくして自治政府側の要求を受け入れ再開したが、旅客航路の再開は領主代行と宇宙軍が拒んできた。
しかし初回会議の模様が報道されると、失点を回復するためか、領主代行は旅客航路の再開を宣言した。
また、市民への不当な圧力をかけていたり、3区の会事務局への不当な取り調べを行っていたりした下士官や兵士達の更迭を行った。
こうした措置は行ったものの、実際に更迭された下士官や兵士達への処分内容は軽く、クーロイ市民からの反応は冷ややかどころか、領主代行の退陣を求める抗議デモが発生した。
再び市民と宇宙軍が衝突する事態となった。
クーロイ星系と隣接するハランドリ星系との間の旅客航路の再開により、またクーロイ星系内で混乱が起きる事となった。
行方不明者の追悼式典に参加した行方不明者家族とその関係者、式典を取材しに来たマスコミ関係者達が、一斉にクーロイを離れようと、一度に千人近い希望者が宇宙港の旅客カウンターへ押し寄せたのだ。
式典会場で拘束された行方不明者家族やマスコミ関係者は、0区で一通り宇宙軍による穏便な取り調べを受けた後、大半がすぐに解放された。しかし解放された所で、ハランドリ星系への航路は宇宙軍によって封鎖されており、帰りたくても帰れない状況が続いていた。
寝泊まりする場所こそ、行方不明者家族達は3区の会の用意した市中の空室を、マスコミ関係者はホテルの部屋を引き続き使えることになり、食事も自治政府側から配給されたが、彼等とて封鎖されたクーロイにずっと居たい訳では無く、不満は大いに抱えていた。
ただ、いざ再開宣言は出たものの、元々ハランドリ~クーロイ間の旅客航路は週二往復、一便あたり定員三十名という小規模なものに過ぎない。
運航会社は、式典前は臨時増便し一時的に定員五十名の船で一日一~二往復という対応を行ったが、仮に今回も同様の対応を取った所で、押し寄せるのは到底捌ける人数ではない。
旅客航路の運営会社は、領主代行や自治政府へ事態の収拾を求め、解決されるまで運航会社の独自判断で航路再開を一時休止すると発表してしまった。
領主代行と自治政府実務者、運航会社の三者で協議したものの、事態を引き起こしたのは宇宙軍であり、宇宙軍が船を出して少なくともハランドリ星系までは送り届けるべきだという意見で自治政府と運航会社の意見が一致し、宇宙軍へ一歩も譲歩しなかった。
領主代行は帝室の権威で自治政府へ押し付けようと試みたらしいが、市民デモも起きている状況で一刻も早い事態収拾をしないと困るのは領主代行側であった。
結局、旅客航路とは別に大型旅客船を宇宙軍側でチャーターし、ハランドリ星系まで送り届ける方向で譲歩した。
式典での宇宙軍第七突撃部隊の突入に端を発したクーロイ騒動は、クーロイ星系の封鎖が解かれたものの、収束する気配が見えなかった。
クーロイ星系には未だに宇宙軍第七突撃部隊が居座り続けている。
他の星系であればなし崩し的に締結される駐留協定が、食料の供給能力のないクーロイ自治政府と宇宙軍との間では締結できておらず、宇宙軍は食料をハランドリ星系から調達し、ゴミの最終処分もハランドリ星系へ委託しているため、占拠当初の様な混乱は起きていない。
だが、『帝室への叛乱、戦略物資の横流し』と宇宙軍が掲げる領主カルロス侯爵の容疑に対する捜査は一向に進んでいない。
カルロス侯爵やその側近、そして偶々クーロイ星系を訪問し式典に参加していた第二帝室の関係者は、宇宙軍が拘束したままだ。
一方、式典を自治政府と共同開催していた3区の会の会長や事務局員は、カルロス侯爵へ加担していたとして当初宇宙軍が拘束していたが、宇宙軍による不当な取り調べからの解放の為として、現在はクーロイに駐留する近衛連隊が保護しているという。
行方不明者家族の帰郷手続きの為、近衛連隊の保護のもと、3区の会事務局が一部活動を再開しているが、事務局メンバーの引き渡しを要求する宇宙軍と保護する近衛連隊の間で諍いが起きているとの未確認情報もある。
この様な状況で捜査が進む筈も無く、捜査の進展や宇宙軍のクーロイからの撤収の目途は全く立たない状況である。
クーロイ騒動は、帝室と全貴族総会の対立が解消しなければ収束しないであろう。
つまり、帝室と全貴族総会の政治的舞台へとその決着が委ねられたのだ。
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