11-04 お風呂って良いね
アイちゃん達が持って来てくれた食事を皆で食べる。
細く切った緑のものの上に白いのが乗ってるのは、冷たくてさっぱりして美味しかった。
「ポテトサラダにキャベツ……懐かしい。何年振りだろう」
この白いのって、ポテト……こっちのフライドポテトと同じお芋なの?
下に敷いてある、細く切っててシャキシャキしてるのは、キャベツの千切りって言うのか。
「こっちはシューマイって言うんだ。この一緒のポン酢を掛けると美味いぞ」
ライト小父さんが取り分けてくれた。一緒にある、ちょっと酸っぱいソースを掛けて食べると確かに美味しい。このソース、唐揚げに付けて食べても美味しい。
他の料理は、揚げた鶏肉とか、フライドポテト、チャーハンとか。ケイトお姉さん達の差し入れてくれた冷凍食品よりも美味しかった。
お姉さん達、元気かな。
「何か……酒が欲しいな」
グンター小父さんがボソッと呟いたので、「明日船で飲めば」って宥めておいた。
食事後に皆でゴミを袋に片付けて、ダイニングテーブルと床を台拭きで綺麗にする。
食べ物を少し床に散らばせた小父さん達にちょっと怒っておく。
掃除が終わったら、ちょっと欠伸が出た。
「今日は色々あったからな……メグは早めに寝ておきなよ」
セイン小父さんが声を掛けてくれた。そうだね、今日は何だか疲れた。
「私も今日は早めに寝ますね。マーガレットさん、上に上がりましょうか」
「そうする。小父さん達、中尉さん。先に寝ます」
准尉さんと一緒に上に上がる。
「お風呂に入って寝ましょう。マーガレットさんは多分使い方が分からないと思うから、一緒に入りましょうか」
准尉さんが誘ってくる。
「えー、どうせシャワー浴びるだけだよ」
「折角お風呂があるから使ってみましょう。先に用意するから、ちょっと着替えを準備して待っててね」
そう言って、准尉さんは奥のバスルームへ行く。
お風呂って何?って思ったけど、准尉さんが薦めるので部屋で着替えを用意していると、准尉さんが部屋をノックした。
奥のバスルームへ入ると、3区の部屋にあったシャワールームみたいな場所だったけど、シャワーを浴びた後の様に暖かい。シャワールームと違うのは、体がすっぽり入れるくらいの大きな桶?にたっぷりとお湯が入っていること。
「船では水がそんなに使えないし、シャワールームしか無かったでしょ。ここはバスタブがあるから、水が沢山使えるみたいね。折角だから、お風呂にも入りましょ」
お風呂に入るのに、先にシャワーを浴びてから体と頭を洗う。
お風呂は暖かいけど、手を浸けて見ても熱いと言う程では無かったから、お風呂の中に入ってみる。
立ってみると、膝より少し上に水面が来る位。
「座って、肩までお湯に浸かってみて」
私の後で体を洗いながら准尉さんが言う。
ゆっくり座ってみると……。
「あああああ……」
変な声が出た。
何だか、体がポカポカして…気持ちいい……。
「危ないから、お風呂で寝ちゃ駄目よ。溺れちゃうわ」
気付くと、目を閉じて寝てしまいそうになってた。
「私も中に入るわね」
お風呂は少し大きいので、准尉さんも一緒に入って来る。お湯は溢れて、バスルームに零れて行く。
「ああ、水をこんなに贅沢に使えるっていいなあ……船でこんなことしたら小父さん達に怒られちゃう」
「感想、そこなの?」
准尉さんがクスッと笑う。
「久しぶりのお風呂、気持ち良いわ……私も寝ちゃいそう」
そうだ。准尉さんに訊いてみよう。
「准尉さんの家ってこんな感じだったの?」
話ぶりでは、お風呂も普通に入れる家だったみたいだし。
「私が一人暮らしを始めた家は、部屋が一つに狭いキッチンと、ここより狭いバスルームしか無いわ。両親が住む家もこんなに広い家じゃ無かった。でも、そうね……リビングとか、お風呂とか、大きさは違っても大体こんな感じだったかな」
へえ。3区だとシャワーが部屋ごとに付いてたから、それが当たり前になってた。
だから……。
「……こんな風に、誰かと一緒に裸になって温まるのは、久しぶり」
お風呂に入って気が緩むのか、思った事がそのまま言葉になる。
「お母さんって、どんな方だったの?」
一緒にシャワールームに入っていたのが誰かを察して、准尉さんが聞いて来た。
「……普段はちょっと厳しかったけど、シャワールームとかベッドの中では優しくて、色んなことを話してくれた。厳しかったのは、あのコロニーで生きていく術を早く身に着けないと行けなかったことは、今なら分かる。後は……『自分が感じた事は、大事にしなさい』って言うのが、お母さんの口癖だったな」
お母さんの事を、段々と思い出してきた。
「感じた事を大事に、って?」
「うん。コロニーで暮らしてる時に、『その場その場で感じた事をそのまま流してしまうんじゃなくて、ちゃんと感じてあげなさい』ってお母さんに教わったの。それが生きていくためのセンサーだからって」
准尉さんは、横で頷きながら黙って聞いてくれている。
「……だから、考え事をしながら作業をして、その場で感じる事を疎かにしたら危ないよって、何度も教えてくれた」
考え事をしながら歩いたり作業したりして、何度もひやりとする場面があった。
お母さんのこの教えがあったから生きて来られたって言っても、言い過ぎじゃない。
特に管理エリアに入るまでは、3区ってとても危ない場所だったし。
「そうね……私も、3区では全然気が抜けなかったわ。お風呂にも入れて、今やっと、ほっとした感じね」
准尉さんも、上を向いてボヤっとしながら言った。
「ねえ、准尉さん」
「なあに? マーガレットさん」
准尉さんは、お風呂に入って緩んだ顔でこっちを見る。
「准尉さんって、名前なんだっけ」
「最初に名乗ったんだけどなあ……私は、ナナ・カービーって言うわ」
ボヤっとしながらも、准尉さんはちょっと拗ねたように口を尖らせて言う。
「じゃあ、これからナナさんって呼んでいい?」
准尉さん……ナナさんは、こっちを向いてニッコリ笑った。
「ええ、もちろんよ。やっと名前で呼んでくれて嬉しい。私もメグちゃんって呼んでいい?」
「もちろんだよ。ナナさんはもう、友達だと思ってるし」
「ふふふ。メグちゃんとお友達になれて、私も嬉しいわ」
二人で笑いあう。
「……お風呂っていいね」
「本当、そうね」
それから、ナナさんの家族の事を聞いたりして、お風呂に入ったまま色々と話し込んだ。
……初のお風呂で長湯してしまって、結局のぼせてしまった。
ナナさんに部屋まで連れて行ってもらって、アイちゃんが持ってきた寝間着に着替えてベッドに横になっても、ナナさんと色々話をしていた気がする。
いつの間にか寝落ちしてしまったみたいで、目が覚めた時には、アイちゃんに貰った寝間着をちゃんと着て、布団を掛けて寝てた。
自分で布団を掛けた記憶が無いから、ナナさんが掛けてくれたのかな。
あとでお礼を言わないと。
照明の消えた家の中は暗く静かだったので、まだ皆寝てるみたい。
私はもう一度布団に入って、眠りについた。
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