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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第11章

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11-02 モアシール星系、ラミレス共和国

特に前書きで記載のない限り、この章は主人公視点で進みます。

 アイちゃん達の輸送船ペルチャ・グランデに保護されて、ハイパードライブ航法に入って4日。


「もうすぐ通常航法に戻るわ。宇宙服を着て会議室で待っててくれる?」


 そう言い残して、アイちゃんとクレトさんは私達の入れない奥へ入って行った。


 一時間程すると、船が大きく揺れた。

 揺れが収まって暫くしてから、アイちゃんとクレトさんが会議室に戻ってきた。


「私達の星系に着いたわ。案内するから、着いて来て」


 そう言うアイちゃん達の先導で、この船に乗った時の様に車に乗って格納庫へ行く。

 私はグンター小父さん、セイン小父さん、ニシュと一緒にアイちゃんの車に、ライト小父さんと中尉さん、准尉さんはクレトさんの運転する車に。

 ただニシュは、今は外に連れて行けない。

 戦う事が出来るアンドロイドは、危険だって思われるんだって。格納庫に着いたら、ニシュには私達が乗ってきた管理エリアの船に戻ってもらった。

 充電も必要だし、誰かが船に勝手に入っても困るからね。


 私達が着いたら格納庫のハッチは開き切る前だった。ハッチの向こうは3区のゴミ捨て場の様な感じで、あそこよりもずっと大きな空間になってる。

 それこそ、この大きな船がすっぽり入っているくらいだから。

 巨大なタラップが用意されてて、ハッチが開き切るとタラップが入口に掛けられた。


「さあ、行こうか」


 アイちゃんの合図で、私達を載せた二台の車はタラップを降りていく。


「ここは?」

「私達の生活してるコロニーよ。小惑星の中をくり抜いて作ってあるの。このまま車で、貴方達を責任者の所まで案内するわ」


 私達の乗る車は、そのまま大きな格納庫の様な場所から、車ごとエアロックに入る。

 入ってきた扉が閉まり、その上に赤いランプが両端から灯る。

赤いランプが扉の上一杯に点灯すると、今度は部屋に空気が入って行き、向かい側の扉の上に、両端から段々と緑のランプが灯る。

 緑のランプが灯り切ると、向かい側の扉が開く。その向こうは、車が二台分通れそうな真っ直ぐ通路が伸びていて、通路の真ん中には光る線が引かれている。


「もうヘルメットは取っていいわ」


 そう言われたので、皆宇宙服のヘルメットを取る。

 アイちゃんは車を線の左側に寄せて通路を進んでいく。


「何で真ん中を走らないの?」

「真ん中を走ってると、他の車が向こうから来たら避けないといけないだろう。早いスピードなら、避け切れずにぶつかるかも知れない。それなら、最初から左側を走るって共通のルールを決めておけば、ぶつからずに済む」


 アイちゃんに訊いたのに、グンター小父さんが答えてくれた。


「帝国内はどこに行っても、車は左側通行になってるな」

「でも3区で、こんな車が走れそうな場所ってあったっけ?」


 帝国はどこでも同じってライト小父さんは言うけど、3区ではこんな広い道も無かった。


「3区は小さなコロニーだったからね。車を走らせる場所がなかったんだよ。しかし……文字は帝国とちょっと違うような?」


 セイン小父さんは前を見ながら言う。

 何か所か十字路があり、十字路には立体ホログラムでそれぞれの行き先が表示される。アイちゃん達は、ひたすら真っ直ぐ車を走らせる。

 そのホログラムの文字を見ると……確かに、所々読めない文字がある。


「私達は帝国を離れて長いから、言葉は同じでも文字がちょっと変わって来てるみたいね」


 元々、アイちゃん達も昔は帝国にいたの?


「何となく、帝国文字とここの文字の違いが予想できた。アイーシャさん、後で文字を教えてくれませんか」

「採掘場の設備は帝国文字だったから、私も違いは分かるわ。文字も含めて、必要な事は後で教えるわ」


 セイン小父さんは、何となくここの文字が分かるみたい。

 それにしても、必要な事って何だろう。

 車の行き先には大きなトンネルが見える。ただ、そこには門があって、今は扉が閉じられている。門の脇には、何人か一様に紺色の服を着た人が立っている。


「宇宙港は一般市民の立ち入りが禁じられているから、ああして検問があるの。あそこを抜けたら、居住区に入るわ」

 紺色の人達はゴミ捨て場で兵士達が監視してた時みたいな雰囲気だから、あれは人の通りを見張っているのか。


「居住区って事は、向こうはどのくらいの人が住んでるんだ?」

「大体十万人くらいよ」


 アイちゃんがグンター小父さんの質問に答えていた。

 十万人……あんまり想像できない。

 検問の所で、アイちゃんとクレトさんが何かカードを見せて一言二言告げると、門が開けられたので、車はトンネルを抜けていく。

 トンネルの向こうの居住区は大きな空間になっている。今車が進んでいる道は透明なドームで上が覆われ、外が見えるようになっている。

 船を降りてからトンネルまではずっと照明の灯りだったけど、ここはもっと明るい。なんか、上側全体が青く光ってない?


「ほう、これは……空を再現しているのか。凄いな」


 グンター小父さん、セイン小父さんもが上を見上げて呆けている。

 勿論、私も。


「惑星上に住んでいるみたいに、時間によって恒星も動くし、時期によって動き方も変わるわ。夜になったら暗くなるし。残念ながら、雨は降らないけどね」

「へえ……これはびっくりした。懐かしいな」


 セイン小父さんも関心してる。

 上に気を取られている間に道は広くなってた。真ん中に黄色い線が引かれ、その左右は更にそれぞれ、真ん中に白い線が途切れ途切れに引かれている。


「片側二車線か。車の量がそれなりに多いのかな」


 セイン小父さんが呟いている。

 道には脇に逸れる側道があり、何か所目かの側道を車は降りていく。

 降りた先で交差点にぶつかり、その手前で車が停止する。降りるのかと思ったけど、誰も車を降りないし、シートベルトを外そうとしたらセイン小父さんに止められた。

 理由は分からないまま、暫くしたらそのまま車は走りだす。


 さっきの道と違って、ここは余りスピードが出せないみたい。

 周りには、雰囲気は統一されていても一つ一つ違う建物が建ってるし、ある程度進むとその建物の雰囲気は別のものに変わる。

 それに、車の走る所の横に一段高い所があって、そこに人が歩いていたり、何か車輪にペダルが着いた乗り物に乗っていたり。

 その人達も、一人一人違う色の、違う形の服を着てる。これは、前にケイトお姉さん達が持って来てた服のようなのもあったけど。

 走る道にも何か記号が書いて有ったり、交差点や建物には色々なランプが点いていたり。

 初めて見るものばかりで、周りをキョロキョロしていた。


「メグは、沢山人が住む街は、何もかもが珍しいか」

「うん。こんなに人が居るのを見るのは初めてだしね」


 そうしながら、車は走り出したり止まったり、何か所か曲がったりしながら、やがて大きな建物の前に着いた。


「皆、降りて着いて来て」


 そう指示するアイちゃんとクレトさんにゾロゾロ着いて行き、建物の中に入る。

入って正面を進んだ先にエレベーター。アイちゃん達はそこに真っ直ぐ向かって、アイちゃんが七階のボタンを押す。

 エレベーターで七階に降りてアイちゃん達に着いて行くと、大きな扉の前に着く。

 アイちゃんが扉脇のインターホンを押す。


「アイーシャ・オリバレス、クレト・オリバレス両名、帰還致しました。クーロイ星系よりお知らせした客人をお連れしています」

「わかった、入れ」


 インターホンから男の人の声がして、扉が開いた。

 中は会議室になっていて、左奥には男女数人が居て椅子から立ち上がる所だった。


「ようこそ、我々のモアシール星系へ。一通りの事を説明するので、椅子に掛けてくれ」


 中央に居た男の人が、私達に着席を促す。

 アイちゃん達も、奥側の人達の横の椅子に座る。


「事情は、オリバレス姉弟から聞いている。大恩あるカルロス侯爵の要請に応じ、貴方達を一時保護させて頂く。私はラミレス共和国評議会議長、ペドロ・アコスタだ」


 真ん中の人が自己紹介する。

 ラミレス共和国……ってことは、ここは帝国じゃないのか。


「アコスタ議長、とお呼びすれば良いですか。評議会とは?」


 中尉さんが質問をした。


「私の呼び方はそれで構わない。評議会と言うのは、市民から選ばれた代表が集まって国を動かしていく会議体だ。国といっても、ここに住む十万人くらいしか居ないがね」

「成程、市民議会のような物か。わかった」


 中尉さんは議長さんの回答に納得してるけど、私にはよくわからない。

 でも、今私が細かい質問をしていい場では無い事はわかる。

 小父さん達も分かってるようだし、後で聞いてみよう。

 議長さんが横の人に合図すると、彼等の後ろに星系図が映される。


「ここは、帝国からかなり離れた星系だ。私達はここをモアシール星系と呼んでいる。今居るこのコロニーは、第二惑星の衛星軌道上の小惑星の中にある」


 彼等の背後に映っているのは、このモアシール星系の星系図らしい。

 中心にある恒星は一つだけ。その周りを回る惑星は四つで、このコロニーは第二惑星を周回しているらしい。そして、このコロニーから惑星表面へ向かって線が伸びているのは……。


「軌道エレベーターが惑星上に伸びているようだが、住民がここに居るという事は、惑星上は人が住めないのですか?」


 中尉さんが議長さんに尋ねる。


「惑星上は、水も空気も資源も豊富で、()()()()を除けば人が住める環境ではあるのだが。今は食糧生産と資源採掘で、二百人程が惑星上の施設に滞在している」


 こほん、と議長さんが咳払いして話を続ける。


「軌道エレベーターや惑星上の事は本題ではない。私達が貴方達を保護する理由を説明するには、この共和国の成り立ちから話さなければならない」


 そこから、議長さんは歴史について語り出した。

 私が理解できた範囲では、ここの人達はずっと昔……元々、今の帝国が辺境星系域と言われていた頃、その辺境に発見された居住可能星系に移住してきた移民だったそう。

 彼等は最初から持てる技術――テラフォーミングって言うんだって――を最大限投入して、惑星中を居住可能にして、多くの同胞を受け入れてその地にできたのが、ラミレス王国だった。 

 ただ、その辺境星系域に、徐々に軍事国家ダイダロス王国が大きくなってきて、そのうちラミレス王国はダイダロス王国に併合された。

 ラミレス王国の王族はダイダロス王国の貴族として扱われたんだけど、三百年くらい前、帝国が成立した当初に、その元ラミレス王族はあらぬ疑いを掛けられ、その家臣団と共に帝国を追放されたらしい。

 その時に、その王族に着いて行くと決めた家臣団や、元王族を慕っていた市民達が沢山いたので、帝国は彼等も一緒に、多くの移民船に乗せて彼等を更に辺境へ追放した。

 その移民船団は追放された旅路の途中で今のハランドリ星系を見つけたらしいけど、当時の帝国の勢力範囲から近かったからそこに移住するのは止めた。そしてクーロイを遥か越え、帝国から遥か遠く離れたこの星系で暮らす事を決めたそうだ。

 この星系にたどり着いた時には追放された一団は大きく人数を減らしていて、ラミレス王族も直系は途絶えてしまったそうだ。皆で一丸となって問題を解決するために、王制ではなく共和制を採用し、身分差を無くした。


 彼等がこの星系を開拓し、生きていくことが出来るようになって、カルロス侯爵家に連絡を取れるようになったのはつい二十年前。

 カルロス侯爵家は元々ラミレス王家の臣下だったけど、追放当時は対立していて距離を置いていたため、追放対象には含まれなかった。それで、元ラミレス王族のいた星系は、カルロス侯爵が治めることになった。

 とはいえ、カルロス侯爵家は元ラミレス王家に古くから恩義があり、ラミレス共和国側が連絡を取った時はその恩義を忘れておらず、秘密裡に物資を支援してくれたそうだ。特に食糧生産に必要な肥料が底をつき掛けていて、肥料の原料となるケイ素やリンの物資支援は有難かったという。


「後から知ったのだが、私達がコンタクトを取って、最初の支援を受けた直後……私達の母星系でもある、カルロス侯爵が治めていたクラターロ星系は、大規模な宙賊の襲撃を受けて壊滅的な被害を受けたそうだ。侯爵家は宙賊を迎え撃とうとして、嫡男や多くの家臣達を失ったと聞く」


 大規模な宙賊……なんか、そんな話をどこかで聞いた気がする。


「そんな中でも、ケイ素やリンの物資支援を続けてくれたカルロス侯爵には感謝しかない。彼に負担を掛けない為に、侯爵がクーロイ星系も統治することになってから、貴方達の居た3区コロニーの採掘場から密採掘する様にした。私達が、カルロス侯爵に大恩があるというのはそういうことだ」


「3区含めてクーロイ星系は帝国軍が占領していますから、密採掘によるケイ素やリンの供給は出来なくなりました。それでもこちらは大丈夫なのですか?」


 中尉さんが議長さんに質問する。


「数年分の備蓄があるので当面は大丈夫だが、新たな入手先はいずれ必要になる。交渉先は帝国しかないだろうが、帝室は信用できない。帝国内の別の貴族とコンタクトを取りながら、カルロス侯爵を無事に解放する手立てを探りたい」


 議長さんは、帝国軍や第四皇子?達とは別の帝国貴族とコンタクトを取ろうとしているのか。


「それで、私達はどうすれば良いのでしょうか」


 中尉さんが、私達の疑問を代弁してくれた。


「貴方達と乗ってきた船が、今の帝室をひっくり返す可能性があると侯爵から聞いている。帝国内の動きを探りながら、貴方達を安全に戻す機会を待つ。それまでは、暫くこの星系で過ごして欲しい」


 ということは、こっちでしばらく生活する事になるのか。


「この近くに貴方達が過ごせる家を用意する。水道、電気は使用できる。食料品は差し入れるし、オリバレス姉弟を近くに住まわせるので、コロニー内で出かける際には彼女達に連絡してくれ」


 アイちゃん達が私達の世話……というか、付き添いと監視かな?

 まあアイちゃん達だったら、私達に変な事はしないと思うけど。


「議長さん。一つ要望を挙げて良いか」

「……なんだろうか」


 グンター小父さんが手を上げて、議長さんが小父さんに発言を促した。


「儂等は長らく、人の住む街で過ごしていないから、いきなり人間の街に連れて来られて普通に家で暮らせる自信が無い。だから基本的には儂等の船で過ごさせてほしい。いずれ、人の住む街で生活できるように、そちらで用意してくれた家での生活に徐々に慣れていきたいんだ」


「……確かに、いきなり人の住む街で暮らすのは難しいか。だが、今日の所は我々が用意した家で過ごしてくれるか。貴方達の船は明日までにペルチャ・グランデから宇宙港の倉庫に移しておく。いちいち宇宙服を着てエアロックを抜けるのは大変だし、警備上も宜しくないのでね」


 議長さんは、私の方をチラッと見てから小父さんに答えた。

 私が3区コロニーで生まれて、ずっとあそこで生きて来た事も、議長さんはアイちゃん達から聞いてるみたい。


「船と家の行き来は、オリバレス姉弟か、あるいは代わりの者を遣わせる。代わりの者も、オリバレス姉弟から紹介させよう」



いつもお読み頂きありがとうございます。


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