11-01 クーロイの小学生の日常
間が空いてしまいましてすいませんでした。
今回はラウロ視点です。
『星姫』ちゃんが3区を脱出してから、1027MHzのAMラジオは鳴らなくなった。
またどこからか電波を拾えないか、受信機をチューニングしてるんだけど、あのラジオみたいに電波は拾えない。その代わり、あちこちの帯域でピーガー煩い電波が飛び交うようになった。
僕とロイは、星姫ちゃんが無事かどうか気になって、ニュースを見たりネット掲示板を見たりしてるんだけど、星姫ちゃんに繋がる話は出てこない。
ただ、宇宙軍に捕まったって話も出てないから、そこは一安心なんだけど。
宇宙軍が来てから、通学路に宇宙軍の兵士達が見回りに来るようになった。
今までは政府の警備隊が見回りに来ていたのだけど、それが宇宙軍の兵士に代わるだけかと最初は思った。でも、僕達小学生の目から見ても、あまり良くないのが分かる。
「よう、坊主たち。子供は気楽でいいな」
兵士達は、僕たちにそんな風に声を掛けて来る。
宇宙軍が来る前、警備隊のおじちゃん達は、『おはよう』って皆に挨拶してくれてたし、『車が来てるから気を付けて』とか、僕たちにも親切に声を掛けて来てた。
でもこの宇宙軍の兵士達、なんだか僕たちを子供だと馬鹿にしているみたい。
ラジオ放送で星姫ちゃんが言ってた事もあって、宇宙軍には腹が立ってる。でも、僕たちは宇宙軍には何も言い返さないし、相手にしない事にした。
「おじちゃん達って、子供相手だから気楽でいいよね」
「挨拶もしないし、車とかに気を付けてもくれないからね」
何故なら、他の子達も宇宙軍に怒っている人が多い。
その中でも、口の悪い子達が兵士達に聞こえる様に嫌味を言う。
「なんだと、このガキ!」
兵士の一人が怒り出した。
「わー、知らないおじちゃんがいる!」
大声を上げながら、その子達はその兵士から逃げる。
「何だと、こら! 待ちやがれ!」
兵士は追いかけていく。
勿論大人相手には逃げられなくて、文句を言った子達は捕まってしまう。
「人さらいだ! 助けて!」
「おい、人聞きの悪いこと言うな!」
その子達は兵士に捕まっても、ジタバタと抵抗しながら、ひたすら人攫いだと叫んでいると、周りから大人の人が集まって来る。
こんなことが、宇宙軍が来てから毎日繰り返されてる。
ニュースで見たけど、宇宙軍の兵士達って、町でも店を脅してタダで飲み食いしようとしたり、ゴミをその辺に捨てたり、理由なく暴力を振るったりしてるんだって。
だから、宇宙軍の兵士達を、クーロイの大多数の人は歓迎してない。
嫌われてるんだから、さっさと帰ってしまえばいいのに。
学校の中までは宇宙軍の兵士が入って来ないから、学校生活は今まで通り。
あの脱出の時のラジオがクーロイで拡散して、クラスの女子の間でまた『星姫』ちゃんの最初の歌が流行り出した。僕は、ラジオで聞いた新しい歌も好きだけどね。
「明日さ、カラオケ行かない?」
「うん、いいよ」
昼休み、ロイが僕に約束を取り付けて来た。
僕たちがよく行くカラオケボックスは、0区の中心地からも学校からもちょっと離れた、自転車で三十分くらいの場所にある。本当はもっと学校に近い所にもあるんだけど、クラスの女子達が使ってるし、学校の先生も時々見回りをするから、僕達は行かない様にしてる。
あそこに行くなら、家に帰るのが少し遅くなるから、今晩お母さんに言っておこう。
次の日の放課後、学校から帰って荷物を部屋に置いたら、自転車でカラオケボックスへ行く。
自転車置き場に自分のを置いて店の前で待ってると、五分程遅れてロイがやって来た。
「悪い、待たせた」
「大丈夫。五分くらいだよ。で、部屋番は?」
ロイが自分の自転車を置場に預けて店の前に来たので、彼に部屋番号を確認する。
「えーと……53番だ」
ロイが、自分の携帯端末を見て部屋を確認。店に入り、店員さんに部屋番号を告げて中に入って行く。
本来なら店頭の端末にコードを翳して入室手続きをするんだけど、そうしないのは……部屋には先客がいるから。
「ようこそ、坊主達」
「ラウロ君もロイ君も来たね。今日はこれで全員かな」
そこにいたのは、2区でジャンク屋を開いてるガストンさんや、1区で会社勤めをしてるフランクさん、0区で高校の先生をしてるナルさん。
この人達は、以前星姫ちゃんのAMラジオ電波を聞いて書き込んでいた、クローズドボードの住人達。
こうやって時々、ボード住人の小父さん達とオフラインで会ってる。
他にも何人かいるんだけど、今日はこの三人。
「『星姫ちゃん』の行方って、何かわかりました?」
僕は、部屋の扉を閉めてから小父さん達に聞いてみる。
最近は、宇宙軍もオンラインボードを検閲してるみたい。時々、騒乱罪?とかで、宇宙軍に拘束される市民が出ていることは、TVニュースでは言わないけど、オンラインボード上では広まってる。
だから、宇宙軍がいる今は、オフラインでしか星姫ちゃんの話題は話せない。
「宇宙軍の交信を傍受しているが、まだ向こうも行き先を掴んでないな。まだ必死で探してるようだ。ただ、通信の中で気になる単語が一つ出て来た」
会社勤めの三十代、フランクおじさんが言う。フランク小父さんは機械のエンジニアらしくて、ジャンク品を使って自作で軍の暗号通信を解析する装置を作ったらしい。
「気になる単語って?」
「今、宇宙軍は『トラシュプロス』って場所を捜索してる。通信を聞いている限り、どうも遺棄された場所らしいんだけど、その遺棄した時期が……十七年前らしい」
え!?
「それって……3区と同じ時期に遺棄したってことか? その『トラシュプロス』が3区を指すって事は無いのか」
ガストンさんが質問する。
「いや、コロニーにそんな名前は付けない。どちらかと言うと、星系内の惑星に付ける名前のようだ。でも、クーロイにそんな惑星は無いしな……」
ナルさんが答える。
「軍の通信って、そんなに簡単に傍受できるものなの?」
僕は、疑問に思ってフランクさんに訊いてみた。
「監察官の連れて来た宇宙軍の艦船は最新鋭の装備だから、傍受は難しいよ。でもこのクーロイは、別に他の国と接してもいない、軍にとって危険の少ない最辺境の星系だからね。元々いる警備艦隊の装備は型落ちで暗号の形式も古い。古い暗号通信の傍受の方法は、以前手に入れてたんだ」
「成程。元の警備艦隊との通信だと、暗号をわざわざ古い形式に会わせないといけないわけだ」
フランクさんの解説に、ガストンさんが補足してくれた。
「でも『トラシュプロス』って場所が、クーロイにあるのは確実なのかな? 例えば第五惑星アンドロポスの外側に、実はもう一個星があるとか」
ロイがぽろっと言った言葉に、おじさん達が固まる。
「……もともとクーロイは軍が見つけた資源星系だしな。あり得ない話では無いか」
ナルさんが言う。
「骨董品屋に眠ってる古い星図に載ってないかな」
「退役軍人の爺さんとか、酒飲み話で漏らさないかな」
「学校や図書館の古い資料を漁ってみようか」
おじさん達は、『トラシュプロス』の存在に興味が移って、どこを探せば見つかるか話し始めた。
「あ、そうそう。俺さ、今こんなゲーム作ってんだ」
ロイはそう言って、僕に携帯端末を見せて来た。
ロイは僕と一緒にラジオ電波を探るのを付き合ってくれるけど、彼は携帯端末にインストールして遊ぶ簡単なゲーム作りを趣味にしてる。
ロイが端末から起動したゲームのタイトルは、『廃棄コロニーからの脱出』。
「これって、どういうゲーム?」
「まだ、作り始めたばっかりなんだけど。今はこの間聞いた、星姫ちゃんが3区から宇宙船で発進して、宇宙軍の追跡を振り切って逃げるところだけ」
そう言って、ロイはゲームをスタートする。
自分の機体は左端のコロニーに接続された状態からの開始。
画面右から宇宙軍の戦闘艦が弾を撃って来るのを避けながら、ゴールに向かう横スクロールのゲームだった。
「最初はさ、こっちも弾を撃って宇宙軍の船をバッタバッタ倒していくゲームにしてたんだけど、それじゃあただのシューティングゲームだなって思って」
ロイはそう言いながら機体を操作して、器用に敵の出す弾やレーザーを避けて行く。
「それで、ひたすら弾を避けて逃げるゲームになったのか」
しばらく敵艦やその弾を避けていると、画面右側に大きな宇宙軍艦が現れた。
ミサイルとかレーザーを沢山撃って来るけど、ロイはひたすら弾やレーザーを避けるだけ。
時間が経つにつれて物凄い数の弾が飛んできて、やがて避け切れずに機体が爆発。
画面には『GAME OVER』と大きく表示された。
「全部避けたらどうなるの」
ゲームを作ったロイに聞いてみる。
「宇宙軍を振り切って無事に逃げたっていう説明文が表示されるだけ」
「それ位の説明だとつまらんなあ」
後ろからガストンさんの声がしたので振り返ると、ガストンさんやフランクさん、ナルさんがゲーム画面を覗きこんでいた。
「ロイ君は、このゲームをどうしたいのかな」
ナルさんはロイにそう訊いていた。
「星姫ちゃんのラジオの話って、宇宙軍のせいで話せないじゃん。親にも人前で話すなって止められてるし。なんか悔しいから、別の方法で広められないかなって。それで、ゲームなら宇宙軍もそこまで目が届かないかなって」
「……なるほど、それは面白いかもしれんな」
ガストンさん、フランクさん、ナルさんも頷いた。
「僕も、そのアイディアはいいと思う。ゲームとしても面白くないと広まらないと思うけど、このゲームは僕も面白いと思うよ」
僕もロイの考えに賛同する。
そうして、この日はフレーバーテキストや、他にどんなゲームを作るかのアイディア出しを皆でして、その後一時間くらい皆で歌って帰った。
――いつもより少し帰りが遅くなって、帰ってからお父さんお母さんに叱られた。
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