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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第10章

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10-09 帝室に対する弾劾動議

今回は俯瞰視点です。

予約投降を忘れていました。すいません。

「リチャード・トッド侯爵、およびハランドリ星系領主マールス・クラッパ伯爵は連名で、皇帝陛下および第四皇子殿下に対して疑義を申し立て、全貴族総会に諮らせて頂く。内容は、クーロイ星系の占拠およびその後の統治、捜査についてだ」


 その日、帝国中のメディアが大騒ぎとなった。

 帝国内でも有力な領地貴族であるトッド侯爵が、辺境の農業星系領主クラッパ伯爵と共に、侯爵の母星系クセナキスで記者会見を行った。

 記者会見には、地元クセナキス星系のメディアだけではなく、帝都の大メディア――政権寄りのメディアも市民寄りのメディアも多数集まった。

 その場において、皇帝陛下と、現在クーロイ星系を占拠している第四皇子殿下に対して疑義を申し立て、全貴族総会に諮ると宣言したのだ。

 メディアから質問が飛ぶ。


「具体的には、どういった内容なのでしょうか」


 質問には、四十代のトッド侯爵が自ら答える。


「帝室側の公式発表では、カルロス侯爵が宙賊を3区で匿い、3区下の採掘場で秘密裡に採取された戦略物資を横流ししていたとあるが、そんな事は不可能なのだ」


 公式発表を真っ向から否定する声明にメディアはどよめくが、トッド侯爵は続ける。


「クーロイ星系の戦略物資採掘は、全て宇宙軍が管理しており、領主側に権限は無い。そもそもカルロス侯爵がクーロイ星系領主を兼務する事になったのは、十七年前の事故の前から、3区下の採掘場の戦略物資鉱脈が枯渇していたのが大きな理由だ。領主たる侯爵が関与出来ないものを、横流しなど出来ないのだ。まず、これが理由の一つ」

「つ、つまり、侯爵閣下におかれましては、政府側の発表が虚偽であると?」


 メディアの質問に、トッド侯爵は頷いた。


「後程、各メディアには、証拠となる文書の写しを提供する」


 証拠があると聞いて、集まったメディアにまたどよめきが走る。

 侯爵は騒ぎが少し落ち着くのを待って、続きを発言した。


「次に、十七年前にクーロイ星系3区コロニーに天体が衝突する事故が起きたが、3区に居たのはその事故の生存者達である。『3区行方不明者家族の会』は、3区に残る生存者への支援を行っていた。これは会に出資していた私も把握している。この事実を公表していなかったのは、帝室側に生命を脅かされていた生存者達の希望によるものである」


 トッド侯爵が続いて発表した内容に、メディアは更に騒然となった。


「その生存者達とは、一体誰なのでしょうか」

「本人及びご家族のプライバシーを考慮して、公表は差し控える」


 生存者の姓名の公表を求めるメディアには、トッド侯爵は首を振った。


「巷に流布している、3区からの『星姫』と言われる女の子のラジオ放送は、事実であると?」

「流布しているラジオ放送の録音データについては、事故後の生存者達の間に生まれた子供だと思われる。本人の希望により、具体的な姓名については公表しない」


 『星姫』が3区の生存者だった事を侯爵が裏付けたことで、またメディアが騒然となった。


「その生存者達は、今はどこに?」 

「その話をする前に、クーロイ星系を占拠している宇宙軍の話をしなければならない」


 生存者達に対する質問を、トッド侯爵は遮った。


「当日、クーロイ星系3区コロニーにて、行方不明者追悼式典が行われていたが、その最中に宇宙軍が乱入した。政府発表とは異なり、宇宙軍側も、3区に居たのは宙賊ではなく事故生存者達だと把握していた模様だ。これについては、もう一人告発者を紹介しよう。当時、行方不明者の親戚として式典に参加していた、ジャーナリストのジェラルド・レイエス君だ」


 トッド侯爵の商会で、会場の袖から一人の男が姿を現す。

 その男は、トッド侯爵の横に用意されていた会見席に座り、マイクに向かって話し出す。


「ご紹介に預かりました。ジェラルド・レイエスです。3区での式典には、ジャーナリストとしてではなく、一行方不明者の関係者として出席しました。その際に見聞きしたことをお話しします」


 ジェラルド氏は、会見場に詰めかけるメディアに一礼して話し出す。


「式典は、宇宙軍が乱入してくるまでは、予定通りに進行していました。しかし、宇宙軍が乱入してくると、真っ先に宇宙軍は式典を運営していた自治政府職員と3区の会事務局、出席していた領主の侯爵閣下等の貴賓席の方々や、取材していたメディアの方々を拘束しました。一般参列者の方々は混乱して、会場から逃げ出す者もいました。ここまでは、クーロイ駐留の領主代行による発表通りです」


 一息置いて、ジェラルドは続ける。


「ここからが肝心なのですが、突入して来た宇宙軍は、式典に出席していた監察官……第四皇子殿下の指示の下で、式典出席者を拘束した後、3区コロニーの奥へ進んでいきました。漏れ聞こえた通信によると、3区の会の事務局長がコロニー奥へ向かったようで、彼女と、3区の生存者達に接触する前に捕えようとしていたようです」


 ここで、メディアから質問が出る。


「つまり、3区には宙賊が居付いていたという第四皇子殿下の公式発表は虚偽で、実際は十七年前の事故の生存者達であると認識していた、ということですか?」


 この質問に、ジェラルドははっきり頷いた。


「はい。通信の中で、宇宙軍側がその様に交信していたのをはっきり耳にしました。そして、宇宙軍は3区の生存者達も捕らえるつもりだったことも、交信の中で聞きました」


 ここでまた、メディアの間でどよめきが起きる。


「つまり、宇宙軍第七突撃部隊のクーロイ星系への侵攻は、帝室側の主導で行われたこと。そして、目的は3区に残る生存者達を秘密裡に捕えること。少なくとも、私はそう判断しました」


 ジェラルドの告発に、メディアから質問が飛ぶ。


「一市民による帝室への告発という事ですか⁉」

「それには私が答えよう。証拠となる音声データもある。それを流石にここで公表する事は出来ないが、全貴族総会の臨時動議における参考資料として提出する予定だ」


 メディアの動揺はより一層強くなった。


「つまり、全貴族総会の臨時動議により、帝室と対決する意向という事で間違いないですか⁉」

「そう捉えて頂いて間違いない」


 メディアの質問に、帝室との対決の意向をトッド侯爵が正式に表明した。


「クラッパ伯爵も、それに同意したと?」

「いかにも。現在クーロイ星系へは、一部の貨物航路を除いて航路・通信共に封鎖され続けているが、それでも伝え聞くクーロイ星系の現状は酷い物だ。帝室による横暴を憂いて、今回トッド侯爵の提議に真っ先に賛同した。クーロイの現状については、後程説明がある筈だ」


 クラッパ伯爵も、トッド侯爵に賛同して提議者に名を連ねた事を宣言した。


「3区の生存者に話を戻すが、結論から言うと彼等は宇宙軍を振り切って、無事3区を脱出した。彼等の安全を考慮して、居場所については公表を差し控える」


 トッド侯爵による説明に、またメディアから質問が出る。


「どうして生存者達は、宇宙軍から逃亡したのでしょう」

「ラジオでの発言が本当であれば、3区コロニーの奥には十七年前の事故、つまり天体衝突に関する何らかの事実を示す証拠が残っていたものと思われる。宇宙軍は生存者達の存在を公表していないことから、彼等が自身の生命の危機を感じていたと推察する。このあたりは、生存者達とコンタクトが取れ次第確認する」


 生存者達が逃亡した理由については、トッド侯爵の発言も推測に留まり、明確な答えを示さなかった。


「式典当日について発表できるのはこのくらいだ。だが、問題はその後にもある」


 トッド侯爵が続ける。


「領主代行と宇宙軍側の発表によると、領主であるカルロス侯爵が戦略物資を横流ししたとあるが、自治政府側の関係者によると、その後の宇宙軍側の捜査でも、公式発表を裏付ける証拠は一切挙がっていない。にもかかわらず、領主カルロス侯爵や、協力者とされている3区の会事務局の拘束は解かれておらず、参列者やメディア関係者も解放されていない」


 トッド侯爵の発言に、メディア側は驚きを隠さない。


「それに星系を占拠している宇宙軍による、市中警備の兵士達による市民への略奪、市民への不当な拘束や監禁と暴力が横行している。これは、自治政府側の関係者だけではなく、別の筋からの情報提供もある」


 そう述べたのは、クラッパ伯爵。


「更に、自らを領主代行に任命した第四皇子殿下は、帝室の権威と領主代行の権限、宇宙軍への統帥権を都合よく行使し、独裁者かの様に振る舞っていると、自治政府側の関係者は述べている」


 トッド侯爵は、ここで咳払いをし、発言を続ける。


「式典当日の宇宙軍の動きだけではなく、第四皇子殿下と宇宙軍によるその後のクーロイ星系占拠の状況は、第四皇子の独断とは思えない。つまり、帝室が自ら帝国法を無視し、法に基づいて任命された領主を武力で抑え込み、専制政治体制への移行を目論むものと推察する。そこで全貴族総会にて、帝室を弾劾する決議をするよう、臨時動議を提案するものである」


 改めて、トッド侯爵は帝室を弾劾する臨時動議を発表した。

 その後トッド侯爵やクラッパ伯爵、ジェラルド氏達がメディアの質問に答える形で、一時間半程の記者会見は終了した。



 このトッド侯爵による会見は、クーロイ星系を除く帝国内の全星域――クーロイは通信封鎖されていて、会見の様子は流れなかった――で放送された。

 この会見に対して、帝室および帝国政府側の見解が発表された。


『トッド侯爵等による弾劾動議に対して、遺憾の意を表明する。帝室および帝国政府側としては公式発表が全てであり、今後の捜査にて証明する』


 という、当初はとても簡素なものだった。

 帝室側の反応が淡泊であり、トッド侯爵側の動議は成立しないと思われたが、近衛総監による発表により情勢は一変する。


『近衛としては、トッド侯爵による動議を中立の立場で静観する』


 帝室を糾弾する全貴族総会の動議に対して近衛が中立の立場を表明した事は初めてであり、これによりトッド侯爵側に正当性があると見られ、続々と有力貴族がトッド侯爵の動議に対する支持を表明した。

 帝室も慌てて声明を出し直す。


『トッド侯爵側の主張は全くの不当であり、証拠は捏造されたものであると主張する』


 帝室側も根拠とする文書を提示するが、トッド侯爵の動議に対する他貴族達の支持はほとんど揺るがなかった。

 こうして帝室と全貴族総会が対立する事態となり、当面の政治の停滞は避けられない情勢となった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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