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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第10章

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10-08 近衛との軋轢

(監察官兼クーロイ領主代行 第四皇子視点)


「どういうことだ!」

「あまりに酷い脱法行為が見過ごせなかっただけでありますが」


 私はクーロイに帯同させて来た、近衛第3連隊の連隊長、ビゲン大佐を呼びつけて詰問した。

 私は、例の女や一緒に投降した女、3区の会事務局メンバーへのより一層の強い尋問を命じて、何とか逃げた生存者の行き先を聞き出させようとしただけだ。

 それが何故、対象者が揃いも揃って近衛隊に保護されているのだ!


「脱法行為だと?」

「ええ。明確な罪状も証拠もなく捕えた上、尋問の課程で殴る蹴る、手足を折る、挙句の果てに婦女暴行にまで及ばんとしておりました。流石にこれが広まると、帝室にとって無視できない汚名となりますので、近衛の権限で対象者を保護しました。それが何か?」


 奴等から、生存者の逃亡先を聞き出さなければならんのだ。


「近衛の方で、3区管理エリアを略取して逃走した賊の行方が訊き出せれば、幾らでも近衛で保護して貰って構わない。それが無理なら対象者を引き渡せ!」

「話になりませんな」


 私の要求を、連隊長は拒否する。

「そもそも、脱法行為は尋問に限った話ではありません。市中警備の兵士達による市民への不法な酒、食糧、娯楽品などの物品略取に、市民への婦女暴行あるいは未遂。市民への不当な監禁と暴力。3区からの護送中の不当な暴力行為。これらの実行犯の処罰が進んでおりません。そこへ来て、今回の不当な尋問です」


 なんだと? そんなに問題が起きていたのか? 私は聞いていないぞ。


「自分は聞いていないという顔をしても駄目です。マクベス大佐にも聞きましたが、これらは殿下にも報告が行っている筈です。しかも今回の尋問は、犯罪行為を成して取り調べ中の者まで強引に動員されていた。近衛として、これ以上の第七突撃部隊の暴挙は見過ごせません」


 連隊長の目は怒りに燃えているが。


「犯罪行為など、聞いていない」

「既にそんな問題では無いのです。任務の目的自体が怪しいのはさておき、余りにも兵の質が低すぎて、今回の任務に不適当な者が多すぎます。突撃部隊側に自浄能力が無いので、これらの犯罪者共も我々で収監しています。処罰はこちらで進めますので、どうぞ、任務に専念下さい」


 こっちの目的は、3区の管理エリアの破壊と、中を知る者の処分だ。

 大っぴらには言えないとしても、どうして帝室の言う事を聞かないのだ!


「では対象者から、近衛がさっさと賊の行方を聞き出せ! だったら私も文句は言わん」

「突撃部隊の不手際を詫びた上で、治療が先です」


 近衛に尋問させよと言ったが、連隊長は拒否する。


「賊とは、3区の奥に居た者達の事ですか? ラズロー中将の求めに応じて、向こうで発見された遺体のIDを大量に送ってくれたそうでは無いですか。生存者の氏名も特定されていますし」

「な、何故それを……」


 何故近衛がそれを知っている!


「保護した者の一人が教えてくれましたよ。十七年前の行方不明者名簿の中に、生存者のうちの三人と一致する者がいますとね。あと一人は、事故後に生まれたIDの無い者だとも」


 くそっ! そこまで話したのか、あの女は!


「良いから、対象者を引き渡せ! 帝室にある私の言う事が聞けないというのか!」


 連隊長は首を振る。


「私達近衛の主は、帝室ではなく帝国そのものです」

「同じことだろう!」


 連隊長の言っている意味が分からない。帝国とは、すなわち帝室だ。


「全く違います。近衛の在り方は、明確に帝国法で規定されています。今回で言えば、法で規定された帝国の在り方に帝室が反するようなことがあれば、それを止めるのもまた近衛であると」

「なんだと!」


 近衛は、単なる帝室の護衛、帝室の持つ兵力ではないのか。

 少なくとも私はその認識だ。


「我々近衛は、帝室の私兵ではないのです。帝室の振舞いが、法で規定された帝国の在り方から逸脱するようであれば、別の者の指示を仰ぎ、帝室を止めるべく規定があるのです」

「別の者?」


 そう言えば、随分昔……子供の頃の皇子教育で聞いたかもしれない。


「例えば第二帝室ですとか、全貴族総会とかね」

「笑わせる。第二帝室にはそんな力は無いし、全貴族総会に到っては帝国設立以来ほとんど機能していないではないか」


 確かに全貴族総会には、法的には帝室を止めるだけの権限があるが……それは、貴族共の意見が割れなかったらの話だ。

 貴族共の意見が割れなかった試しは無い。


「そうも行かないのですよ」


 そう言いながら連隊長は首を振る。


「現在、トッド侯爵、そして隣のハランドリ星系を収めるクラッパ伯爵の二人が連名で、全貴族総会の臨時評議を呼びかけ始めたそうです。これに、有力貴族達が続々と賛成をしているとね。理由は、このクーロイの騒動に関する是非を問うと」

「な、なに!」


 まだ、我々が占拠してから十日も経っていないのだぞ。


「そして我等近衛にも、今回の第七突撃部隊の任務目的そのものに対する疑義、監察官閣下に対する疑義がございますので、近衛からも全貴族総会へ……」

「止めろ! どうせ貴族連中の意見は纏まらん!」


 連隊長の発言を遮って、全貴族総会に与しないよう命令する。

 しかし彼は首を振る。


「この件は近衛総監の手に渡っております。総監からは、全貴族総会への情報提供をすると言われております。既に、一連隊長の胸先で留める事などできないのですよ」


 く、くそっ。それは、不味い事に……。

 父に、指示を仰がねば。


「まあ、全貴族総会が動き出すまでは、今しばらく猶予はあるでしょう。仰るように、貴族連中の意見は纏まりにくいですからな。ですが、事は既に私の手を離れております。殿下の要求は受け入れられませんな。それでは失礼する」


 そう言って、連隊長は去って行った。



 領主代行執務室を出て、グロスターを連れて座乗艦の私室へ行く。

 人払いを掛けてから超空間通信で帝都の父との通信回線を開く。


『どうした、アエティオス』


 十分ほど待つと回線が開き、父がモニターに映し出される。


「3区の生存者の確保に失敗した事は、先日お伝えしましたが、3区の会の者から逃亡先を聞き出す前に、近衛が情報を全貴族総会に提出すると」


 私がそう言うと、父の機嫌が急降下する。


『なんだと!』

「あの平民の女から情報を聞き出すため、()()()()の人員を使ったのですが……どうも、それが裏目に出た様です。あの連中が派手にやり過ぎたようで」


 そう言うと、父は押し黙った。


『連中は諸刃の剣だからな……使い方が難しい。まあ起きてしまった事は仕方が無い。全貴族総会の意見が纏まらない様、私の方で対処する。お前は引き続き逃亡先の割り出しをせよ』


 私は、力なく首を振る。


「それなのですが……3区の会の者達は、既に近衛に押さえられてしまいました。彼等は引き渡しを拒否しています」

『ううむ……そうだ、ちょっと待て』


 父が何かを思いついたようだ。


『アエティオス。お前、『トラシュプロス』は調べたのか?』

「いえ。確か、クーロイのかなり外を周回する……あっ!」


 そうか、他の第七突撃部隊の面々も、クーロイ星系の今の奴等も、恐らくトラシュプロスの存在は知らない筈だ。しかし、3区の生存者達だけは知っていてもおかしくない。


「盲点でした。至急、捜索の船を出します」

『今更かもしれんが、急げ』


 父との超空間通信を切り、突撃部隊司令官への通話をする。


『閣下。どうされました』

「至急、今から送る座標の探索をせよ。3区から逃げた者達の手掛かりがあるかもしれん」


 そう言って、グロスターに『トラシュプロス』の周回軌道と予測現在位置の情報を送らせる。


「その場所は小惑星が周回しているはずだ。コードネームを『トラシュプロス』と言う。ただ、碌な資源も無く放置された小惑星だから、誰かが居るとは思わない。何か証拠になる物があれば、教えてくれ」

『……受け取りました。また随分と、クーロイから離れた軌道ですね。分かりました。星系内を巡回する艦を、二隻ほど向かわせます』


 そう言って、司令官は通話を切った。


 数時間後、司令官から通信が入った。

『閣下。小惑星に向かった艦から報告が入りました。小惑星自体には何もありませんでした。ただ、クーロイ星系の方から複数の隕石が飛来しているとのことです』

「隕石だと!」


 珍しく、グロスターが反応した。


「司令官殿。その隕石の軌道データを送ってもらえるか」

『グロスター殿、了解した。今から送ります』


 グロスターの要請に、司令官は端末を操作している。

 程無く、こちらに隕石の軌道データが届いた。グロスターの副官が、軌道データを抜き取って自分の端末で軌道計算をしている。


「司令官殿。その隕石、捕まえる事はできるか」

『飛来速度は遅いそうなので、一個くらいでしたら、アンカーを撃って回収する事は出来ます』


 グロスターの質問に、司令官が答えた。


「一個で良いので回収して欲しい。恐らく隕石の表面のどこかに、扉を開けるスイッチが付いている筈だ」


 隕石にスイッチ? 何だ?


『……意味が分かりませんが、取り敢えず一個回収させます。その後、そのスイッチを探して押して、中を調べれば良いのですね?』


「そうだ。宜しく頼む」


 司令官との通信が切れた。


「閣下。あの隕石は恐らく、昔3区の採掘場から『トラシュプロス』へ物資を運ぶために使われたものです。ですから、アレは何かを運んでいる筈です」

「つまり、物資運搬用のコンテナを、隕石に偽装しているということか?」


 グロスターは頷く。


「正確に言うと、本物の隕石の中をくり抜いて、コンテナに使っていると言ったところです。中身が鉱石だとしたら、今3区から採れるとすれば……リンか、ケイ素かだと思います」

 


 翌日、司令官から結果を聞く。

 隕石を一つ確保すると、やはりコンテナになっていて、運ばれていたのはケイ素とリンの鉱石だったらしい。

 その結果を受けて、父と超空間通信を繋ぐ。

 結果を報告すると、父は頷いた。


『その3区の生存者が逃げた先は、大体読めたが……手が出せんな』

「どういう事ですか?」


 父が手を出せないという事は、別の国へ逃げているのか?


『生存者を匿っているのは、カルロス侯爵が支援している連中だ。恐らく旧ラミレス王国の残党だろう。三〇〇年も前に帝国から追放したと言うのに、しぶとく生き残っているらしい』


 確か……神童と言われる王子が居て、彼を中心に帝国に叛乱しようとしたから、鎮圧して追放したという話だったか。


『3区からトラシュプロスへ鉱石を送る昔の仕組みを利用して、奴等は3区の採掘場で鉱石を採掘して送っていたのだろう。ということは、トラシュプロスまでの軌道上のどこかで、奴等は鉱石を受け取っていた筈だ』

「ということは、その途中の軌道上のどこかに、3区の生存者達もいるということですか」


 しかし、父は首を振った。


『いや、既に拠点を引き払っている筈だ。でなければ、コンテナがトラシュプロスまで届いていない』

「つまりその残党は、独自で宇宙船を運用していると?」


 父は私の言葉に頷いた。


『リオライトが採掘出来る星系が見つかったのだろう。ただ、ケイ素とリンをクーロイで採掘している所を見ると、食糧生産に難があるようだ』


 食糧生産に難があるなら、それほど人口もいない筈だ。


「残党ごとき、軍を派遣して制圧できないのですか?」

『追放した後、どこに根城を築いたのかは把握していない。恐らくクーロイよりもずっと外だろう。正確な座標が分からないのに、辺境の更に外まで兵を出すわけには行かん』


 場所が分からなければ、制圧は難しいか。


「では、どうすれば」

『今は放って置くしかあるまい。証拠を消す前に持ち逃げされたのは残念だが、逆に言うと全貴族総会側も、十七年前の事まで踏み込めない筈だ。それなら致命的なことにはならん』


 手出しできないなら、放って置くしかないのか。


『場所を知っているのはカルロス侯爵だが、連隊の者が目を付けられている以上、侯爵に対して拷問まがいの尋問をして聞き出すのは難しいな。それよりも、お前の方はクーロイの統治を安定化させることに注力せよ。今責められているのはそこなのだからな』

「……わかりました。例の連隊の残りの人員は引き上げさせて、代替の人員を派遣するよう申請を出しておきます」


いつもお読み頂きありがとうございます。


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