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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第10章

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10-05 アイちゃんとクレトさん

主人公視点が続きます。

「しかし、クーロイ星系の事情をどうしてそこまで把握しているんだ?」


 中尉さんの疑問に、言われてみれば確かにそうだと思った。


「鉱石の採掘は、帝国に内緒でやってたからね。何かあったらすぐ逃げないといけなかったから、情報収集の為に、採掘場やクーロイの星域の何か所かに中継機を設置しているわ。それを使って、クーロイのTVやラジオの傍受はしているし、暗号通信で侯爵とも交信していたの。

 私達がここに居ながら、採掘場の遠隔操作をしてたのもそうよ」


 そう言えば、採掘場はアイちゃんが遠隔で制御してたんだったね。

 帝国軍に見つからないように通信してたのなら、それはかなり高性能なのでは?


「採掘場でアイちゃんと話してたのも、ここから?

 あそこで通信を中継するような装置なんか、見てない気がするけど」


 私が疑問を投げかけると、アイちゃんは笑った。


「端末を操作していた金属の箱があったよね? あれの中に中継機も入ってたのさ。もうあそこの採掘場は撤収したし、中継機に自壊コマンドも送ってあるから、あの箱は中継機ごと自壊して燃え滓になってると思う」


 帝国軍に見つかっても、証拠は残さない様にって事ね。

 アイちゃんと会話してた時のあの箱、それほど大きな箱じゃ無かったから、中継機ってそんなに大きな物じゃないんだね。


「母星で私達を保護するって言ってたが、そこで俺達は何をすればいいんだ?」

「侯爵を助けるのを手伝って貰うって話だけど、私達には具体的な事は分からない。母星に戻ってから、上の人が説明してくれるはずだよ。ただ、ある程度ほとぼりが冷めるまでは、私達の母星に居てもらう事になると思う」


 グンター小父さんの質問にアイちゃんが答える。

 結局はアイちゃんの母星に戻らないと、詳しい話は分からないのか。


「ところで、クーロイの現状がわかるなら、その侯爵さんと一緒に捕まった人たちの事って何か分かる?」


 アイーシャさんに質問をしてみる。


「それって、クーロイの自治政府の人達のこと?」


 彼女の聞き返しには首を振る。


「政府の人じゃなくて、私達が3区に居た時に、食糧とか医薬品とか、あと船の修理材とかを差し入れしてくれたりした人達がいるの。その人達は、私達が逃げるときも、この場所の事とか合言葉とかを連絡しに来てくれたの」


 私の説明に、アイーシャさんは考える仕草をする。


「それって、えーと……『3区の会』だったかね。その人達の事は、宇宙軍に捕まったってニュースは出てた。ただ、捕まった人達の情報は、今は何も出てないんだよ」

「そうなんだ……。」


 お姉さん達、無事なのかな。

 怪我も心配だけど、宇宙軍は私達の命を狙ってたくらいだから、お姉さん達がそれ以上に酷い事をされて無いといいんだけど。


「その人達の事が心配なんだね。

 採掘場の中継機は使えなくなったけど、他の中継機でクーロイ星系のTVとかラジオの傍受は続けて、母星に送る事になってる。母星で受信するには、何日かのタイムラグがあるんだけど、母星に戻ってからも、その3区の会の人達の事が何か分かったら、メグちゃんに教えてあげるわ」

「……有難う、アイちゃん」


 アイーシャさんにお礼を言う。お姉さん達の事は心配だけど、ひとまず今は待つしかないか。


「なあ、さっきから気になっていたんだが。クレトさんは、どうして何も話さないんだ?」


 ライト小父さんが疑問を呈した。

 そういえば、話しているのはアイちゃんばかりで、クレトさんが話しているのを見たことが無い。


「クレトは……数年前に、事故で喉をやられてね。その時に声帯が駄目になってしまって……。

 声が出なくなってしまったんだよ。」

「そうか……。それは、済まなかった。」


 アイちゃんの説明を聞いて、ライト小父さんがクレトさんに頭を下げた。

 でもクレトさんは首を横に振った。

 彼の持っていたタブレットから、人工音声が流れて来る。


『皆さんと同じように話す事は出来ないだけで、タブレットを使えば会話は出来ます。私は気にしていませんので、皆さんも気にしないでください』

 クレトさんの表情は穏やか。アイーシャさんも、頭を下げた小父さんに怒っている様子は無い。

 でも、この話題は気を付けておこう。


「所でこの船、私達のいた3区コロニーと同じくらい大きいかなって思ったけど、他にもこの船に乗ってる人がいるの?」


 私は二人に、この船の事について聞いてみる。


「確かにこの船は大きいけど、乗ってるのは私達2人だけ。ほとんどが荷物用スペースだし。設備のメンテナンスは全部ロボットでやってるから、人が乗ってなくても大丈夫なんだよ」


 この大きい船を、たった二人だけで?

 ロボットでメンテナンスってことは、かなり多い数のロボットが居そう。


「今は撤収準備中。外に大きい網みたいなのがあったでしょ? あれが、採掘場からカタパルトで打ち出した隕石を受け止める為の物なの。あれを船の中に回収し終わったら、ここを離れて母星へ向かうわ。多分あと1時間くらいで回収できると思う。

 出発したら、そこから4日かかるの。それまで皆に過ごしてもらう部屋を案内するわ。」


 そう言ってアイちゃんとクレトさんは立ち上がる。

 彼女達に連れられたのは、さっきの扉が並んでる通路。


「ここの扉がそれぞれ個室になってるの。使い方を説明するわ」


 アイーシャさんはそう言って、通路の手前の部屋を空けて入る。

 彼女の説明によると、部屋は全部間取りが同じで、部屋には机とベッド、トイレとシャワーも付いてる。部屋の隅にはウォーターサーバーも置いてあった。

 照明の操作パネルは部屋の扉の脇とベッド脇の壁にあり、どちらも使い方は同じだった。

 シャワー室にも操作パネルがあり、そこはシャワー室内の照明スイッチと、シャワーのオンオフ、そしてシャワーの水温の操作ができるようだ。


「アイちゃん達の部屋は?」


「私達の部屋はさっきの会議室の奥よ。船のコックピットもあるから、会議室より向こうは私達しか入れない様になってる。扉の横に通話機があるから、何か困ったことが有ったらそれで呼び出してくれたらいいわ」


 そんな物、あったっけ? 後で見てみよう。


「あと、食事は?」

「さっき私達が飲み物を取りに行った、会議室の左奥の部屋に、キッチンと冷蔵庫、ウォーターサーバーとパントリーがあるわ。ただ、食事のストックが減って……もうレーションパックしか残ってないけど」


 他の食糧は、二人で食べちゃったのかな?

 私達も長くレーションパックだけで生きて来たから、そんな食事でも大丈夫なんだけど。

 でも折角なら、ちゃんとした食事がしたい。


「私達の乗ってきた船の中に冷凍食品があるんだけど、取って来る?」

「え? レーションパックじゃない、普通の食事があるの? 私達も食べていい?」

『図々しいよ、姉さん!』


 食事に飢えてたのか、アイちゃんが食いついて来た。

 クレトさんが怒って彼女を窘めてる。


「食材は八人で四日食べても無くなる量じゃないから、大丈夫だよ。向こうに着くまで四日もあるなら、どうせなら皆で楽しく食事したいな。アイちゃんとクレトさんともいろいろ話したいし。ただ、八人分を作るとなると……。キッチン見せてくれる?」


 もしキッチンが狭いようなら、あっちの船で作りたい。


「料理も作れるの!?」

『だから、図々しいって!』


 アイちゃんが食いついて、またクレトさんに怒られてる。

 案内して貰った会議室脇のキッチンは、部屋自体はそれなりに広かったけど、コンロと電子レンジがキッチンの大きさの割に小さい。

 二人分を作るには充分だけど、私達八人分作るとしたら、足りないかな。


「八人分作るには、コンロも電子レンジも小さいなあ」

『今回は二人しか船に乗らなかったから、小さいのに替えただけ。もっと大きいのも倉庫に入れてあるよ。食材を取りに行く間に、元々あった大きいコンロと電子レンジを出しておこうか?』


 クレトさんによると、コンロも電子レンジも大きいのがあるみたい。


「本当! クレトさん、使っていいの?」

『大丈夫だよ。それじゃあ姉さんは、彼女達と食材を取りに行って』


 クレトさんは頷いた。彼が大きいコンロも電子レンジも出してくれるみたい。


「あー、申し訳ないが、こっちにトレーニングルームはあるか? もし無い様なら、あっちの器具を持ってくるか、時々向こうに戻ってトレーニングしたいんだが」

「トレーニングルームは、この区画には無いわ。私達の区画になら有るけど、あなた達を入れる訳には行かないし……」


 アイちゃんが、ライト小父さんの質問に答える。やっぱり、トレーニングルームは無いか。

 でも母星まで4日もあるなら、ただ待ってるのも退屈なのよね。


「あっちの船には重力トレーニング室もあるから、時々向こうに戻ってトレーニングしても良いか?」


 ライト小父さんってば、トレーニング馬鹿なんだから。

 でも小父さんは、日々のトレーニングは欠かすなって言ってたね。私もしなきゃね。


『他の所に間違って行かれても困るから、私達のどちらかが一緒に移動するなら構わないですよ』


 向こうの船に時々戻る許可を、クレトさんがくれた。


 それから、私とニシュ、准尉さんが、アイちゃんと一緒に一度私達の船に食材を取りに戻る。

 その間にクレトさんが大きいコンロと電子レンジをキッチンに持って来てくれることになった。


「メグちゃんって、料理するの? 習ったのは、お母さんから?」


 また車で船に戻る途中、アイちゃんが聞いて来た。


「ううん。料理は、私達を援助してくれたお姉さん達が教えてくれたの。食材も全部、お姉さん達の差し入れ。それまでは、レーションパックしか食べた事がなかったの」


 私が答えると、アイちゃんは驚いていた。


「うわあ、レーションパックだけって……。辛くなかったの?」


 私は首を振った。


「私は生まれてから、それしか知らなかったから。ただ、小父さん達は事故の前も知ってるから、辛かったと思う。でも、今、レーションパックだけの食事に戻るって言われたら……出来るとは思うけど、なるべく戻りたくないかな」

「そっか……。それはとっても、大変だったと思う。そっちのお姉さんは、料理は?」


 アイちゃんは、准尉さんにも料理が出来るかを聞いて来た。


「私は、全くやったことなくて。この間、初めてチャーハンの作り方を教えて貰いましたけど、一人で作れって言われても出来るかどうか」


 准尉さんはそう言って首を振る。


「そうなのかい。私も女だからってだけで、こういう任務の時に料理を作れって言われる事が多くて。でも私は料理が苦手でね。レシピ通りに作ろうとしても、大体変な味になってしまう」


 ここにも料理が苦手な人が居た。

 女だから料理を作れって……そんなの、人それぞれじゃないかなあ。


「私よりクレトの方が、マシな味の料理を作れるわ。弟に言わせると、私の場合『調味料の使い方がいい加減』なんだって」


 ケイトお姉さんは、調味料はレシピを見てきっちり量って入れる人だったけど、調理中に他の事を考えたり、他所を見たりして気が散る人だった。

 一方アイちゃんは、恐らくレシピを見ないで、適当に調味料を入れて失敗するタイプか。


 船に戻って、四人で食糧庫に入る。

 こっちで食事することもあるだろうし、また船でここを出る事もあるかも知れないから、八人の六日分の食事だけを運び出す。四日分ではないのは……アイちゃんもクレトさんも身体が大きいし鍛えているから、中尉さんやライト小父さん以上に食べるかも知れないって思ったの。

 それでも足りなければ、また取りに戻ろう。


 作業中に、気になっていた事をアイちゃんに聞く。


「ところで、アイちゃん。

 さっきの合言葉、『ヒュブリス・アルヒ・カカ』ってどういう意味?」


 それを聞くと、アイちゃんは苦い顔をした。


「昔の格言でね、『高慢は災厄の始まり』って意味だよ。私達の先祖から伝わる戒めだね」


 なにか、アイちゃんの先祖に高慢な人が居て、戒めにしなければならない事があったのかな。

 でもその言葉は……あの帝国の上の人達に聞かせたい。

 


 それからアイーシャさん達の母星へ戻るまでの四日間は、それなりに忙しかった。

 キッチンで八人分の料理を作るのは、准尉さんが手伝ってくれたけど、大体が私とクレトさんの役目だった。

 クレトさんが圧力鍋の使い方を教えてくれたお陰で、作れる料理の幅が広がったのが嬉しかった。


 私達が料理を作る間は、中尉さんや小父さん達は船に戻ってトレーニングしてることが多かった。

 だから、私がトレーニングをしたり、作業場で作業したりする時は、准尉さんやクレトさん、時々アイちゃんが付き合ってくれた。

 それから、ボードゲーム――アイーシャさん達が自室に持っていたオセロやチェス――を教わったりもした。3区での暮らしは何かと忙しくて、小父さん達も遊ぶ余裕は余り無くて、わざわざ作らなかったらしい。お酒は飲んでたけどね。

 それでも遊んだ経験のある小父さん達は、すぐにルールを思い出していた。

 初めて遊ぶ私は、オセロはともかく、チェスについては駒の動かし方をなかなか覚えられなかった。

 ようやくチェスのルールを覚えた頃には、母星へ到着する時間が近づいていた。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あの「箱」とこの船の軌道はだいぶ離れてると思うんですが、即時通信していたという事はFTLなのかな
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