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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第10章

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10-04 輸送船ペルチャ・グランデ

主人公視点に戻ります。

 窓から見える星の光が、あっという間に後ろに流れた。

 ……と思ったら、数秒で急に元の速度に戻った。あれ?


 コックピット正面の大スクリーンには、星図が表示されている。

 さっきの3区の場所から、クーロイ星系外には出たみたい。

 位置的には、クーロイ星系の真ん中の恒星から、一番外側の第五惑星アンドロポス軌道までの距離の、3倍くらい。

 つまり、まだ星系から少し離れただけ。


「ここで止まって、どうしたの?」

「一旦宇宙軍の追跡を振り切る為に、適当な方向へジャンプしただけだ。これから目的の場所へ向けてもう一度ジャンプする。クーロイの警備艦隊も、今はこんな所までは来ていないから、ジャンプしても気付かれないだろう」


 中尉さんが説明しながら、大スクリーンに目的の場所を映し出す。

 さっきまでのクーロイ星系の星系図が、ググっと小さくなって……アンドロポスのずっと外側、恒星からの距離にして七、八倍くらいの所に、円軌道で回転している軌道が見えて来た。

 これが、日記に書いてあった『トラシュプロス』か。


「この『トラシュプロス』に行くの?」

「そうじゃない。今スクリーンに映す」


 中尉さんはまた端末を操作すると、トラシュプロスのやや内側、だけどクーロイ星系のずっと外側に、点線で円軌道が描かれる。

 そしてその円軌道上に、何やら丸が打たれる。


「これが、ケイトさんが持ってきた情報だ。トラシュプロスの内側、クーロイ星系の中心からアンドロポスまでの距離の5倍の所に円軌道を描き、時間によってそのどの位置にいるかを示す計算式だった。目標は、この軌道上を周回している様だ」


 中尉さんは、引き続き端末に何かを入力している。

 そうすると、今のこの船の場所から円軌道上の丸に近づく直線が引かれる。


「十分後に出発して、もう一度ここへジャンプするよう設定した。今のうちに、トイレに行ったり、休憩を取ったりしてくれ」


 そう言って、中尉さんはコックピットを出て行く。

 私もトイレを済ませておこう。


 十分後、皆休憩を済ませて、各自座席に座ってシートベルトをしている。


「それでは、出発するぞ。目標の少し手前にジャンプして、通常速度で近づく」


 聞いていた全員が頷く。


「10、9、8、……。」


 中尉さんが、カウントダウンを始める。

 カウントダウンが終了すると、また星の光が後ろに流れた。

 そしてまた十秒ほどで、元の速度に戻る。

 スクリーンを見ると、あっという間に、さっきの点線の軌道上の黒丸に近い場所に出ていた。


「さあ、これから接近する。相手が分からないから、気を付けてくれ」


 そう言って、中尉さんは船を目標地点へとゆっくり進めて行く。

 しばらくして、目標地点と思われる場所から通信が入る。


『接近中の、所属不明艦船へ告ぐ。今すぐ停船し、当方へ接近する目的を述べよ。

 応答なくば、撃墜する用意がある。これは、警告である。』


 あっ! この声、聞き覚えがある!

 中尉さんの方を向いて、頷く。

 中尉さんは端末を操作して、船を停止させる。


「これは、マーガレット君が言った方が良いだろう。ケイトさんが持ってきた情報……合言葉だ」

 そう言って、中尉さんは私の横に居るニシュに何かを投げた。

 ニシュはそれを受け取り、私に見せて来る。

 それは金属の塊だったけど、何か字の形に穴が空いている。


「これを読めば良いの?」

「そうだ。通信回線をそっちの端末から繋げられるようにしてある。」


 目の前の端末には、通信スイッチがタッチパネルに表示されている。

 そのスイッチを押し、金属の塊に彫られた文字を読み上げる。


「えっと……『ヒュブリス・アルキ・カカ』。これで、良いですか? ……アイちゃん。」

『……メグちゃんだね。ようこそ。ちゃんと侯爵から合言葉を受け取って来たのかい。

 誘導波を出すから、ゆっくりこっちに船を動かして』


 やっぱり、通信をしてきたのはアイちゃんだった。

 中尉さんの操縦で、船はゆっくりと目標地点へ近づいて行く。


 正面を投影するスクリーンに段々見えてきたのは、見た事のない形の大型宇宙船。

 その宇宙船の周りに、大きな網の様な物が幾つか浮かんでいて、それぞれの網は宇宙船とロープで繋がっている。よく見ると、その網に繋がったロープが宇宙船の中に巻き取られて、徐々に網のサイズが小さくなっている。

 宇宙船の真ん中くらいに穴が開いていて、そこから私達の乗るこの船に向かって光が伸びてきた。


「な、なに⁉」


 私は驚いたけど、他のみんなは落ち着いている。

「あれは、誘導レーザーです。あの穴の開いた場所が、この大きな宇宙船の格納庫なのでしょう。

 そこに誘導されているのです」


 准尉さんが説明してくれた。

 そのレーザーに従って、中尉さんがゆっくりその格納庫へと船を動かして行く。

 近づくと、このアイちゃんの乗る船の大きさが分かる。

 この船、3区のコロニーと同じくらいの大きさじゃない?


 やがて、私達の船が格納庫の中にすっぽり入ると、格納庫の扉が閉まり始める。格納庫の真ん中で船を停止させる頃には、格納庫の扉は完全に閉まった。

 格納庫の中は3区のゴミ捨て場くらいの大きな空間に、大きなコンテナが大量に積まれていて、私達の船が停まっているスペースがわずかに空きスペースになっている。


『今から迎えに行くわ。車で行くから、宇宙服を着て待ってて。』


 アイちゃんからそう通信が入る。

 十分くらいして、採掘場で見た様な六輪の車が二台、それぞれ運転手が一人ずつ乗って近づいて来た。宇宙服を着てるから、宇宙船の外側には空気が無さそう。

 私達も宇宙服を着て降りよう。


 船を降りたら、やって来た二人が車から降りて来た。

 周波数を書いた紙を渡してきたので、皆で宇宙服の無線の周波数を合わせる。


『皆さんようこそ、私達の船ペルチャ・グランデへ。

 私は皆さんの案内人、アイーシャ・オリバレス。こっちは私の弟、クレト』


 紹介されたクレトさんが頭を下げる。

 宇宙服で容姿は余り分からないけど、アイーシャ……アイちゃんはグンター小父さんと同じくらい、クレトさんはもう少し高くて、セイン小父さんと同じくらいの背丈。ただ、二人とも結構体格が良くて、セイン小父さんほど細くない。


『まあ、こんな場所じゃなんだから、落ち着ける場所に案内するよ。皆、車に乗って』


 私とニシュ、中尉さんと准尉さんがアイちゃんの車、小父さん達がクレトさんの車に乗って移動する。

 山と積まれたコンテナの間に空けられた通路を通って、車は格納庫の奥へ行く。

 通路の突き当りに、車に乗ったまま入れる扉が開いている。二台とも車が入ると扉が閉まる。


 そこは密閉された部屋になっていて、完全に扉が閉まるとシューっと音がする。どうやらここはエアロックになっているみたい。


『空気が入るけど、まだ車で走るから、宇宙服はそのままで』


 そうアイちゃんから指示が入るので、まだ宇宙服を脱げないみたい。

 空気が満たされてから、入ってきた扉の奥の壁にある扉が開く。その先はまた通路になっている。

 そこを車でまた五分ほど進んでいくと、そこには乗ってきた車と同じものが十台ほど停まっている。

 アイちゃんとクレトさんは、そこに車を停める。


『車はここまで。宇宙服のバイザーは開けて良いわ。ただ、脱ぐのはもう少し後で』


 そう言ってアイちゃんは私達を、その置場の脇にある扉へと案内する。

 扉を開けると、採掘場で見た宿泊用の個室が並んでいる様な感じの、左右に扉が並んでいる廊下が続いていた。


「ここは、皆さんに寝泊まりしてもらう部屋よ。好きな場所を選んで頂戴。

 中で宇宙服を脱いで、戻って来てね」


 アイちゃんがそう言うので、適当な部屋を選んで、その中で宇宙服を脱いで廊下に戻る。

 全員戻ってから、アイちゃんは廊下の一番奥の扉へ私達を案内する。

そこは横長の四角い部屋で、会議室なのか、真ん中に四角いテーブルが置かれ、部屋の隅に十脚ほどの椅子が積まれていた。

 アイちゃんとクレトさんが、七脚の椅子を部屋の手前側、二脚を向こう側に並べる。


「色々聞きたい事もあるだろうけど、まずは座ってくれる?」


 アイちゃんが、七脚並べた側を示して、私達に座るように言う。

 アイちゃんとクレトさんは部屋の隅にある扉を出て行った。

 私達は、中尉さんを真ん中に、その左側を小父さん達、右側を准尉さん、私、ニシュの順で座る。

 しばらくして、アイーシャさんとクレトさんが宇宙服を脱いで、お盆を持って戻って来た。皆の前に飲み物を配ってから、二人は向こう側の席に座った。

 改めて見ると、二人とも、若干茶色の混じった黒髪に紺色の目をしている。

 アイちゃんは、見た目はケイトお姉さんやマルヴィラお姉さんと同じくらいの年代。頭の後ろに髪を纏めてお団子を作ってる。背は女の人としては高い方だと思う。マルヴィラお姉さん程では無いけど、女の人にしては体格も大きい。

 クレトさんは男の人だからか、アイーシャさん以上に体格が良い……筋肉ムキムキって感じ。短髪にしていて、左目の脇から頬や首へかけて、それに左腕にも大きな火傷の跡みたいなのがある。首には太い黒のチョーカーを巻いてて、首にも跡があるかどうかは分からないけど。


「まずは皆さん、私達の船、ペルチャ・グランデへようこそ。

 改めて、私はアイーシャ・オリバレス。隣が弟のクレト」

 アイちゃんの隣の人、クレトさんがお辞儀をする。

 私達もお辞儀を返す。


「何人かはカメラを通して見てるけど、改めて自己紹介をお願いしても?


 アイちゃんがそう言うので、私達も自己紹介をする。


「ああ、そうだな。私は帝国軍中尉、ランドル・モートンだ」

「同じく准尉、ナナ・カービーです」

「グンター・シュナウザーだ」

「ライト・ミヤマです」

「セイン・ラフォルシュと申します」

「改めまして、マーガレット・ルマーロです」

「アンドロイドのニシュです」


 全員の自己紹介が終わると、アイーシャさんとクレトさんは礼をする。


「ありがとう。

 この船は、惑星オイバロスのあの採掘場から送られた鉱石を回収して、母星へ送る為の輸送船だよ。

 しかし、クーロイ星系に帝国宇宙軍がやって来たから、これ以上、任務……鉱石の採掘と回収を

 実行することが出来なくてね。私達は任務を放棄して、これから母星へ帰るの。

 私達は帝国からあなた達を保護して、母星に御招待するわ」


 アイちゃんは、採掘場で会話した時と声は同じ。若干畏まった口調で話してるけど、印象はあの箱を通して話したアイちゃんと同じだと思う。


「まずは私達を保護してくれて有難う。アイーシャさん達の母星……その口調では、帝国ではない、と言う事か? それに、どうして私達を助けてくれるのだ?」


 中尉さんがアイーシャさんに質問する。


「私達は帝国ではないよ。恐らく、あなた達が知っているどの国でもない」


 アイちゃんの答えの意味がわからない。どの国でもない?


「あなた達を保護するのは、カルロス侯爵からの依頼ね。私達……私とクレトだけの話じゃなくて、母星に住む人達は、カルロス侯爵に大きな恩があるの。彼の頼みは断れないわ。それに、あなた達の助けを借りれば、侯爵を助けることが出来るかも知れないし」


 侯爵を助ける?

 私達が首を傾げていると、アイーシャさんが答えてくれた。


「クーロイに帝国軍がやって来たでしょ。侯爵や自治政府高官達が、やって来た帝国軍に捕まってるの」


 私達は頷いた。

 ケイトお姉さんやマルヴィラお姉さんも、捕まってしまったのだろう。


「あなた達の持っている……というか、乗ってきたあの船に、隠されていた情報があるはず。

 侯爵自身は『その情報が何なのかは知らない』って言ってたけど、あれだけ帝国軍が躍起になるって事は、あなた達が逃げてる間は侯爵の身は危害が加えられないし、その情報が逆に、侯爵を助ける切り札になるかも知れない。侯爵からはそう聞いているわ。」


 それは、やっぱり……あの秘密、十七年前の事故の真相の事。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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