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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第10章

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10-02 碌でもない兵士達

※暴力的表現があります。苦手な方はご注意ください。

(マルヴィラ視点)


 私はケイトを抱えて宇宙軍に投降した。

 兵士達は敵意のある目をしていたが、ケイトの怪我の状態を見て彼女を担架に載せてくれた。

 私達はそのまま、式典会場まで連行される。


 三区奥と式典会場までの間の通路は、宇宙軍がすんなり通れない様に、瓦礫や廃材で通路を塞いだり、トラップを仕掛けたりと、私やセインさんが仕掛けていた。

 それが、私達が連行される時には、通路は瓦礫などが撤去されて通りやすく整えられ、ニシュがぶちのめした兵士達や、他にもトラップで怪我をしたらしい兵士達が次々担架で運び出されていた。


 式典会場では、ケイトの状態を軍医が診てくれた。


「意識障害も無いし、怪我も血止めがされている。今すぐ命に別状はないが、出血が多かったのか貧血の症状がみられる。病院に運んで輸血が必要だ」


 そう判断した軍医の診察を受け、上官らしき人物が指示し、ケイトを載せた担架は宇宙軍艦に乗せられて行った。

 私はケイトに同行したかったけど、兵士達に却下され、式典会場に居た他の人達と一緒にシャトルに乗せられた。


 シャトルでは一人に対し最低二人は兵士が付く形で、一人一人間隔を空けて座らされた。私にはなぜか四人も兵士が付き、しかも兵士達は揃いも揃って私を殺気立った目で睨んでいる。

 シャトルの入口が閉まり、キャビンの中に空気が満たされていく。空気が充分に満たされてから、兵士達に宇宙服を脱ぐよう命令される。

 宇宙服を脱ぐと、直ぐに両脇を兵士達に押さえられて電子手錠で両手を拘束される。


「これを外してくれないかしら。別に暴れたりしないわ」

「煩い、黙ってろ」


 兵士たちは聞く耳を持たず、私は両手を手錠で拘束されたまま、両脇を兵士達に押さえられ、更に二人の兵士に監視されたままだった。

 シャトルが発車しても、ずっと兵士達は横に付いたままだった。


 1区か2区までは二時間くらい、0区までは三時間くらいかかる。

 その間ずっとこのままなんだろうか……と思っていたら、発車して三十分くらいして、シャトルの速度が安定した頃、兵士の一人が私の腕を引っ張り、立つように促される。

 そのままキャビンの前の方、乗務員室の前、座席が無く少し開けた場所まで連れて来られた。


「お前は、仲間を甚振ったあのアンドロイドと一緒に居たという女だろう。

 俺達の仲間が何人も大怪我をさせられた」


 私を連れて来た四人のリーダー格らしき兵士が私に話しかけてきた。


「アンドロイド? なんのこと?」


 ニシュのことは知らない体でいる事をケイトと打合せたので、それには白を切る。


「しらばっくれるな。命までは取りはしないが、ちょっとばかり仕返しはさせて貰うぞ」


 そう言って四人の兵士達が、剣呑な目で私を睨み囲んでくる。

 ……腹いせに私をリンチに掛けようってわけ?


「抵抗すれば、他の奴等にとばっちりが行くかもなあ?」


 リーダーの兵士は、ニヤニヤしながら言う。

 他の人を盾に脅すなんて……。ここは、耐えるしかないかっ……!


「機動隊出身だそうだが。多少は保ってくれよ?」


 素性は既に調べられているって訳か。

 横に居た兵士が殴り掛かろうしてきたのでとっさに避ける。しかし避けた方向に居た別の兵士に阻まれ、後ろから手錠の掛かった両腕を持ち上げられる。

 更にその兵士に、後ろから腰に膝を押し当てられ、体が反ってしまう。

 そうして力が入れづらい状態になった腹を、別の兵士に正面から殴られる。


「ぐぅっっ……!」


 反った状態では腹に力が入らず、真面に入った。余りの痛みに意識が持って行かれる。

 そこから何かで腕を頭の上で固定され、立ったままの姿勢で兵士達に何度も顔や腹を殴られる。


「あまり腹を殴ってやるな。後で、使えなくなっても困るからな」

「へいへい」

「ああ、そうだな」


 何か兵士達が言っているが、一方的に殴られ続けていてそちらに意識が行かない。

 そうして一方的に殴られ続けて意識が朦朧とした頃、頭の上で固定されていた腕が降ろされ、床に転がされる。


「そろそろ良いだろう」

「ああ、じゃあ、お楽しみの時間だな」


 服に兵士達の手が掛かり、シャツがたくし上げられる。

 何をされようとしているのかぼんやり分かるが、混濁した意識の中、抵抗しようとしても体が動かない。


「おい、俺たちも混ぜてくれよ」

「お前等だけで楽しむつもりか?」


 どうやら四人だけではなく、他にも兵士たちが集まってくる。

 しかし私はまだ、朦朧として動けない。このまま、なす術もなくやられるのか……!


「ぐああっ!」

「ごふっ!」

「貴様、何をす……ぐえっ!」


 突然、周りの兵士達が悲鳴を上げる。誰かが乱入して、兵士達を倒している様だ。


「マルヴィラ、しっかりしなさい!」


 誰かが私の体を揺すって、声を掛けてくれる。

 段々と意識がはっきりして来る。助けてくれた人の顔を見ると……!


「か、母さん……!」

「ほら、しっかりしな。助けに入るのが遅くてごめん。」


 そこに居たのは、ケイトと一緒に3区の会で働いていた母さんだった。

 他にも数人の男性が周りの兵士達を伸している。


「貴様等、抵抗するな!」

「兵士の皮を被った獣共! 俺達は女性を暴漢から守っただけだ!」

「何だと!」


 周りでは、私を助けてくれた母さんや男性達と、このキャビンに居る兵士達の間で諍いが起きている。

 私は起き上がって、伸されて倒れている兵士達から手錠を奪い、その兵士達を後ろ手に拘束していく。

 しばらくするとそこに、シャトルの隣の車両から兵士達が駆けこんできた。


「貴様等、何をしている!」


 明らかに上級士官とわかる、制服に徽章を多くぶら下げた男が一喝し、兵士達も母さんや男性達も動きを止めた。他にこの車両で拘束されていた人たちは、諍いを避ける為か、いつの間にかキャビンの隅に集まっていた。


「この者共が拘束を解き暴れたため、取り押さえようとしていた所であります!」


 最初に私をリンチした兵士達のリーダーらしき男が、上級士官に答える。


「何故、君達は暴れたのだ!」


 今度は上級士官が私達に詰問する。


「ですから、この者共が叛乱を……!」

「貴様は黙っていろ。私は彼等に聞いているのだ」


 先ほどのリーダーが私達に答えさせまいと自分達の主張を繰り返すが、上級士官に一喝される。


「最初から手錠を掛けられた娘がリンチを受けて、更には乱暴されそうになっていたから、それを止める為に仕方なく抵抗したのよ。自分の娘がそんな目に遭っていれば、誰だってそうすると思うわ」


 自分の横に来ていた母さんが、上級士官に答える。


「娘?」

「ああ、この子は私の娘だよ。確かめてみる?」


 上級士官が、最初に母さん、それから手錠をはめられていた私の方を見、それからまたリーダー兵士の方を見る。

 その上級士官の横で、秘書のような若い男性が耳打ちをしている。


「君はクレア・カートソン、横の娘はマルヴィラ・カートソンで間違いないか?」


 上級士官は母さんと私に問いかける。

 私たちが頷くと、上級士官は再び兵士の方を向く。


「私は君達に何と命令したか、覚えているか。『0区の我々の駐屯地まで丁重に彼らを護送しろ』と言ったはずだ。それがどうしてこうなっている。最初に報告した君が答えよ!」

「そ、それは……彼等が、最初に……。」


 リーダーは委縮しながらも、なおも主張を繰り返そうとするが、上級士官はそれを許さない。


「もしそうなら、隅に逃げている者達を除いた護送対象のたった六人に、二十人の宇宙軍兵士が良い様にやられている事になるな」


 上級士官は、リーダー兵士に詰問するが、兵士は答えない。


「それも問題といえば問題だが、マルヴィラ嬢だけが電子手錠を掛けられ、酷くやられている説明がつかない。君があくまでその主張を繰り返すなら、君達全員を尋問の上、軍法会議に諮ることになる。軍法会議で嘘が発覚した場合、どうなるか分かっているだろうな」


 上級士官の更なる詰問に、リーダー兵士は俯いた。


「……我々が、彼女に暴力を振るいました。しかし、3区ではその女と一緒に現れたアンドロイドに、何人も仲間が……!」


 観念したリーダー兵士が白状する。しかし上級士官はその後のリーダー兵士の訴えを遮る。


「それとて上からの命令とはいえ、我々が彼女の仲間を撃ったからではないのか。それにアンドロイドに打ちのめされた者達は、手足を骨折しただけだ。命に別状が無いよう明らかに手加減されている」


 確かにあの時ニシュは、人命を奪わないよう手足だけを攻撃していた。


「それなのにお前達は、アンドロイドの連れだったという彼女をリンチし、あまつさえ尊厳を奪う様な真似をするのか。恥を知れ! 周りでそれを黙って見ていた者共も同罪だ! 者共、連帯責任で、このキャビンで任に当たっていた全員を拘束せよ!」


 命令に従って、上級士官が連れていた兵士達が、このキャビンの兵士達を拘束していく。

 上級士官は私の方を向いて頭を下げる。


「このシャトルでの護送責任者、チューリヒ少佐だ。我々の監督不行き届きで大変な事になる所だった。申し訳ない。駐屯地まで護送するのは変わらないが、再度こんな事が起きないよう、女性兵士達を付ける事にする。それからマルヴィラ嬢は、0区に着いたらまず病院で検査させよう」

「有難うございます。あと、私から彼らに報復をさせては貰えません?」


 私から彼等へ直接仕返しができないか、少佐に聞いてみる。


「彼等には軍で罰則を与えることになるが……それでは気が済まんか。武器を使われるのは困るが、それでなければ、この場で手早く済ませて貰えると有難い」


 お、やった。許可が出たわね。

 母さんは私に頷く。思うようにやれってことね。


「その前に、これを外してくれると有難いのだけど」


 手を前に掲げて言うと、別の兵士が電子手錠を外してくれた。

 朦朧としていていた時に便乗しようとしていた兵士達が居たのは分かるが、顔を覚えていない。

 未遂でもあったみたいだし、四人以外への報復は止めておきましょう。

 でも、最初の四人の兵士達の顔をはっきり覚えている。彼等に近づいていくと、彼等は引き攣った表情で逃げようとするも、拘束する兵士に離してもらえない。

 リーダーの男は最後にして、あとの三人を片付けましょう。


 一人の男に近くまで歩いて行って、逃げられない様に右足を踏む。そして低い位置から、急所に向かって下から思い切り左膝を捻じ込む。


「んあああああああああ!」


 膝を入れられた兵士が悶絶する。残る三人の顔色が蒼白になっているけど、拘束している兵士達は彼らを逃がさない。

 残りの三人にも同じように近づいて、急所に思い切り膝を捻じ込んだ。リーダーの兵士にはわざと空振りして、ホッとして彼の力が抜けたところに、不意討ちで捻じ込んでやった。


「……いささか、やり過ぎではないかね?」


 少佐には苦言を呈されたけれど、気にしない。


「放置していて、また別の女性が襲われてから処分するの? そうなる前に、未然にゴミの処分をしただけよ。それにあの分だと、今迄もあちこちで問題起こしてないかしら?」


 そう言うと、チューリヒ少佐は苦虫を噛み潰したような顔をして去っていった。

 どうやら黙認してくれた様子。それに今までも同じような事があったのかもしれない。

 母さんには「よくやった!」って褒めてもらった。



 その後キャビンの見張り兵士は全員女性兵士に代わり、護送される私達の安全は確保された。

 私はシャトルの中で看護師に手当を受けたけど、何度も殴られ朦朧としていたことから、意識障害が出ていたと判断された。

 この診断から、0区に着いてから病院に護送され、数日入院することになった。病院はクーロイの市民病院で、シャトルから引き続き監視の女性兵士がついて、軽く事情聴取はされた。

 母さんや、助けてくれた人達――ケイトの働いていた3区の会の関係者らしい――は大きな怪我はしていなかったので、そのまま駐屯地……0区のシャトル駅内に留められて、尋問を受けているらしい。私も治療が終われば、そちらに回されるそうだ。

 ケイトは同じ病院に入院したけど、今は輸血や手術の為、集中治療室に居るらしい。会わせてはもらえなかったけど、彼女の無事にほっとした。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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