妻が悪役令嬢モノでヒロインムーブやってました
「ミア、貴様はなぜ魅了の魔法まで使ってたくさんの男を侍らせるような真似をしたんだ?」
ユセフ王子の言葉に、ミアは答える。
「私がヒロインだからよ、この世界は物語の世界で私はヒロインなの。」
ミアの言葉は、王子とその婚約者であるセルフィにとって到底理解しがたいものだった。
「哀れだな。」
王子のその言葉にミアは顔を歪めた。その時、彼らもとい学園を卒業する予定の生徒たちのいる王城の広間の空間に亀裂が入る。ビキビキと音を立てた亀裂はその幅を広げていく。中から人の指が見えた。
「ミア、やったぞ、次元龍を倒したぞ、終わったんだ!」
中から亀裂を押し広げ、男が言った。
「アル、ほんとなのね!でも・・・。」
「どうしたんだ、ミア。」
「もう少しタイミングってものがないかしら?」
そういわれて男が亀裂の中から周りを見回す。広間にいる人々は唖然としてた。
「どういうことだ、ミア?」
王子が絞り出すように言った。
「ミア、もしかして名前変えてないの?」
「ええ、めんどくさかったのよ。」
ミアはまるで別人のようだった。
「ところでどういう状況なんだ?」
「ああ、ちょっとね、悪役令嬢モノのヒロイン断罪よ。」
「まじか、じゃあその最中だったのか。」
「というよりはほぼほぼ終わりだけど。」
「おい、無視するんじゃない。」
「彼は?」
「彼は王子様よ。」
「なるほど、きらきらしてるわけだ。」
「おいっ!!」
再び王子が声を掛ける。
アルは王子の方に視線を移すと言った。
「えっと・・・、なんでしょうか王子サマ。」
「お前は誰だ?」
「アル・ディグリー、守り人をやってます。今年30歳になりました。あっでも、長らく無間空間にいたからもっと言ってるかも。」
「おい、アルとやら、ミアとはどういう関係なんだ。」
「ああ、ミアは俺の妻です。戦いが長くなるから、魔力を送ってもらってたんだ。」
「どういうことだ?」
「説明するのが難しんだけど、簡単に言うと敵が強すぎるから支援してもらってたんだよ。」
王子は納得いって内容だったがさらに聞く。
「先ほど、言っていた次元龍とやらは。」
「記憶力がいいね、次元龍は世界の澱みから生まれるんだ。ここに似た世界がここを含めて5つあるんだけど、その世界たちの澱みが集まって世界自体を飲み込もうとするんだ。」
王子は考えているようだった。
「そこの奥にいるおじさんが王様かな、ミア?」
「ええ、シェンド王国の国王よ。」
「シェンド王国の国王か。なら知ってるはずだね。」
そう言ってアルは国王の方を見る。国王と目が合う。
「そなたの言うことは本当か?」
「ああ、ごめんね、迷惑かけたみたいで、ほんとカミサマって不親切だよね。」
「ミアが魅了を使ってたのと関係があるのかしら?」
セルフィがおずおずと言う。
「いい質問ね。」
ミアが笑う。
「私は魔力を人から奪えるの。でも相手から好意を持ってもらわないといけないわ。だから、魅了の魔法を使ってたってわけ。」
「あれこんなにあっさり言っていいの。ヒロインムーブしてたんでしょ?」
「いいのよ、アル。あなたが出てきた時点でぐちゃぐちゃよ。」
「ねえ、ミア。それならなんであんな言い訳をしたの。」
「正直に言っても信じないでしょ。それに中途半端に言い訳するぐらいなら、ヤバい奴だと思われていた方が消えたとしても誰の同情も引かないわ。」
「ごめんね、ミア。君をそんなこさせて。」
「いいのよ、アル。私たちは守り人なんだもの。それに愛するあなたのためならなんだってするわ。」
二人の間には甘い空気が漂っていた。
「お前たちの言うことは本当なのか?」
王子が聞いて来る。
「ああ、でもその前にそっちに行っていい?いい加減疲れたんだけど。」
「あ、ああ。」
「ミア、ちょっと固定して。」
「ほんと、あなた固定の魔法だけは苦手ね。」
そう言いながらミアは魔法を掛ける。そうすると、アルが押し広げていた亀裂が開いたまま固定された。
「じっとしてられないからね、魔法に出ちゃってるのかも。」
そう言いながら、アルが亀裂から出てくる。
「ごめんね、王子サマ、時間とっちゃって。なんでも聞いてよ。」
「あっああ、そうだな・・・。」
そう言って王子は黙る。何を聞こうか迷っているようだった。
「王子サマって将来王様になるの?」
「ああ、その予定だが。」
「じゃあ王様に聞いちゃった方がいいかもね。どうせ聞くことになるし。」
「そうなのか?」
「国によるけど国家機密で歴代の国王にだけ伝わってると思うよ。」
「それをこんな衆人がいる場所でいっていいのか?」
「大丈夫だよ、記憶消せるから。」
「そんな魔法が・・・。」
「まっ、守り人の加護の一つだよ。」
「うーん・・・。」
王子は悩んでいるようだった。
「はぁ、じゃあ王子サマの部屋ででも話そうか?王様の執務室でもいいし。」
そう言うと王子は王の方を見る。王は頷いていた。王子が言う。
「すまない、頼んでいいだろうか。」
「ああ。」
そう言ったアルにミアは声を潜めて聞く。
「ずいぶん優しいわね。」
「まあね、もう次元龍は倒しちゃったし、世界渡りなんてできなくなるからね。それに君が何やってたのかも聞きたいし。」
「意地悪な人ね。」
「君のことは何でも知ってたいんだよ。」