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結果から言えば、その人はすぐに見つかった。
圭介から当時暮らしていたのもこの店の近くだったと聞いていたこともあり、投稿された野外の写真から似た景色を辿ればすぐに彼女らしき人を見つけた。
聞き取りなどの他にも少々際どいこともしたが、結果として彼女がエミちゃんであるというのは間違いなさそうだった。
あとはもう二、三枚写真を撮って資料としてまとめて圭介とどうするかを改めて相談する段階となったのだった。
エミちゃんの最寄り駅は幸いにして店の最寄り駅でもあったために動きやすいものだった。
電車を乗り継いで勤めている会社からの帰宅時間に合わせて駅で待ち伏せする。
黒を基調とした服装で長時間改札前にいるのは少しだけ駅員や構内のカフェ店員に訝しがられたけれども、人待ち風を装えばたいていすぐに興味がそれるから気にすることもない。
そうしているうちに彼女が駅から出てきたのだが、彼女はそのまま帰るでもなくそのままカフェへと入っていってしまった。
追って店の中にはいろうかどうかと迷いはしたが、幸いにも外から見えるカウンター席へと座ったので、そのまま外で待つことにした。
どうやらその席からは改札の中が見えるらしい。
彼女は誰かを待っているのか、ホームに電車が入るたびに首を伸ばして出てくる人を見渡していた。
そして待ちわびること電車が数本分見逃したころにスーツ姿の男性が改札からまっすぐにカフェへと足を伸ばした。
そして彼は彼女の前までくるとガラスを小さくノックし、それに彼女も嬉しそうに待っててとでもいうようなジェスチャーをして急いで席を立った。
「まじか……」
こういうこともありうると想定はしていたが、なんとなく彼女にそれはないのではないかと思っていた。
本当になんとなく、ただなんとなく彼女には彼氏ないし旦那はいないと思っていたが、しっかりといたようだ。
別に依頼人と彼女は恋人同士ではないので彼女に悪いことなど一つもないが、いまだに初恋を引きずっていそうな圭介の気持ちを思うと心苦しい。
それでも有栖は落ち合った二人の姿を携帯のカメラに写した。
男性のほうはこちらに背を向けていたので顔は写らなかったが、彼女の嬉しそうな笑顔はばっちりと写っている。
その少し照れたような笑い方に、これを見せなければならないのかとやはり胃がキリキリとなるような思いだ。
それでも依頼は彼女の身元を調べるものなので、帰って資料を纏めようと踵を返そうとした有栖の足が止まった。
同じように帰ろうとした二人は有栖のいる方向が進路のようで、振り返った男性の顔を認識した途端、有栖はすかさず柱の陰に隠れた。
その彼氏の顔がはっきりと見て取れてしまったのだ。
「な、なんで…?」
だんだんと近づいて来る朗らかな女性の話声に時折相槌を打つ声は彼の物だ。
そうして有栖の隠れる柱の脇を二人が通る瞬間にさりげなく見た男の顔はやはり見知ったもので、まるでエスコートするように彼女に寄り添い歩く知り合いを有栖は呆然と見送るしかなかった。