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退屈な前線

帝都での貴族としての職務を終えた私は、すぐにも最前線に戻った。

最近は貴族連合軍の動きもほとんどなく睨み合い状態で戻るなり、もっとゆっくりしてきても良かったのに、と言われてしまう始末だった。


「本当に勿体ない事をしましたね~。せっかく帝都に戻ったのに。大佐の美貌なら、男の1人や2人くらい簡単に引っ掛けてくれるでしょうに」


「ヴィクトリア、貴官は一体何を言っているんだね」


私に明るい声で話し掛けてくるのは、ヴィクトリア・グランベリー少佐。

真っ赤な長い髪を、私と同じように後ろで一本に纏めてポニーテールにした女の子で、髪の色とよく似たルビーの色をした瞳にはまだ幼い子供らしさが感じられる。

可憐な女の子で私よりも5歳年下の部下だが、ヴィクトリアのグランベリー伯爵家は私の家と同じく軍人家系で、父親同士が親しかった事もあり、彼女とは幼い頃からの友人だった。


「だって大佐はすごく美人でカッコいいですし。宮廷の腑抜けた男どもが黙っておくとは思えません」


この娘はまだ14歳だというのに口が悪い。しかも思った事をすぐに口にしてしまう傾向がある。私もけっこう大胆な方だと思っていたが、この娘には負ける。

「ヴィクトリア。腑抜けた男どもなどと私以外の前では2度と言うな」


「あ。そ、そうですね!つい口が滑っちゃいました!」


「まったく」


「そんな事よりも帝都の土産話は無いんですか?今、帝都で流行の物とか流行りの服とか」


ヴィクトリアは私と違ってファッションや流行り物に興味があった。時折、基地など通信状態の良い場所ではネットでそういった物を調べたりしている所を幾度か見た事がある。軍人という職業柄、それ等に触れられる機会が少ない事は可哀想だが、本人は特に気にしていないようだった。


「私にそんな事を聞かれても分かるわけがないだろう」

ヴィクトリアと違って私はそういう物に興味は無い。土産話になりそうな話を見つける事すら困難だ。


「ふふ。まあネルソン大佐はそういう人ですからね~」


少し小馬鹿にする口調だったが、ヴィクトリアに悪意が無い事はこれまでの付き合いで承知しているので何も言わないでおく。


「ところで私の留守中は特に異常は無かったそうだが、貴族連合軍には何の動きも無かったのか?」


私が配属されているのは、銀河帝国軍ハイデル・パーカー少将の指揮するパーカー艦隊。パーカー艦隊は、長年に渡って貴族連合軍との争奪戦が繰り広げられているコペンハルゲン星系に駐屯していた。帝国軍はこの星系には2つの人が入植可能な可住惑星があり、その内の1つである第3惑星ヤヌスに私達の艦隊は基地を作って拠点にしており、もう1つの第6惑星トロクレナには貴族連合軍が拠点を構えて艦隊を配置している。尤も後者のトロクレナは元々人が住めるような環境ではなかった所を貴族連合軍が自らの拠点とすべく大規模な惑星改造テラフォーミングを実施した結果なのだが。


帝国軍と連合軍は、何年も1つの星系に同居して陣取り合戦のように小競り合いを続けている。年月が経過すると共に前線指揮官は敗北して星系が追い出されるという事態を恐れるあまり軍事行動が消極化してしまい、戦いを泥沼化させてしまっていた。


「いや。特に何も無いですね。もうじきアレもある事ですし、偵察の数は念のために増やしたそうですけど、何か動きがあったという報告は聞いてません」


「・・・そうか」


今、ヴィクトリアが言ったアレとは、およそ3年に1度のペースである惑星ヤヌスと惑星トロクレナが最も近距離に接近する惑星同士の会合、通称・惑星会合である。

惑星とは恒星の周りを常に回っている。基地にしているこの惑星も当然、動いているのだ。であれば敵の基地の距離が縮まる事もあるだろう。それがもうじきやって来るのだ。

戦闘が消極的になっていると言っても、地理的に敵が勝手に近付いてくるとなれば、何かあるかもしれず互いに警戒心を強めざるを得ない。時には先手を打とうと片方が考えて戦端が開かれる事もあった。


「パーカー提督は何かしますかね?」


「いや。あの男が自ら動く事は無いだろう。前線に立つ度胸は認めるが、奴も根っこは宮廷の貴族と変わらん」


私の上官にして、艦隊司令官ハイデル・パーカー少将は、爵位こそ子爵と私と同じだが、名門中の名門貴族ウェリントン公爵家の遠戚に当たる人物でその権勢はネルソン子爵を遥かに凌ぐ家系だった。

しかし彼は、その地位に見合う働きをする事もなく、ろくに軍人としての職務を全うしようとしない軟弱者だ。名門の彼がこのような辺境星系の司令官をしているのにも裏がある。これはあくまで噂で何か証拠があるわけではないのだが、パーカーはこの辺境星系の開拓に投じられる資金や艦隊に回される軍資金の一部を着服しているのだという。


「やっぱりそうですよね。は~。最前線だってのに、いくら何でも退屈過ぎます!」


「退屈なのは同感だが、悪い事ばかりでもないぞ。軍人が退屈なら、兵達の命が散る心配も無いからな」


「ん~。まあ、それはそうですけど、こんな辺境でずっと睨み合いをしているだけなんて私は嫌です!」


「私も同意見だ。しかしだ。我々軍人は敵と戦うのと同じくらい上官の命令に従う事も重要な仕事。それを忘れるな」


私が注意をすると、ヴィクトリアは急に笑い出した。まったく失礼にも程がある。


「な、何を笑っているのだ?」


「ふふふ。す、すみません!前回の小競り合いで提督の命令を無視して戦機兵ファイターに乗って飛び出していったのはどこの誰だったかしらね?」


「そ、それは・・・」


我がネルソン家では、幼少期より軍事訓練が課せられる。そのジャンルは軍学校で習うカリキュラムの全てだ。当然、戦機兵ファイターのパイロット訓練も受けている。少なくとも私はパイロット養成の専門学校で行なった模擬戦で当時専門学校の成績優秀者5人を相手にし勝利した経験を持つ。


「艦長が戦機兵ファイターに乗って飛んでいっちゃうなんて聞いた事もありませんよ!」


「軍人に求められる技能はジャンルに関係無く全て習得している。私のパイロットとしての能力はエース級だという事は知っているはずだが?」


自慢ではないが、私は戦機兵ファイターで出撃した初陣で、5機の戦機兵ファイターを撃墜してエースパイロット認定を受けていた。


「そういう問題じゃあありませんよ!まったく、パーカー中将がご立腹でしたよ。あの時は勝利して中将も上機嫌だったので水に流してもらえましたが。もし、次やったら罰せられます」


「あの時は仕方が無かった。指揮官が負傷して混乱状態に陥っていた戦機兵ファイター部隊を私が直接出向いて再編成しなければ、倍の損害が出ていた事だろう。だが、私は責任から逃れるつもりはない。上官の命令に背けば最悪銃殺刑なのも覚悟の上だ」


「そ、そこまでお考えだったのですか。流石と言いますか、何というか」


「己の信念に従って行動したのなら、仮にそれが軍規に反していて銃殺刑に処されたのだとしても後悔しはしないさ」

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