9. 我が国が、本当に申し訳ありません!
邪竜を打ち倒した満足感。
妖精の愛し子、などと私を呼ぶ声には戸惑ってしまいます。
私は妖精さんと仲良く話していただけで、そんな特別な存在ではないですから。
それでも、ここまで喜んでもらえるのなら。
助けに来て良かった。
そんな満足感に浸って立っていると――
『アルシャあぶないの!』
「え?」
最初に気が付いたのは、いつもはのほほんとしている妖精さんのやけに焦った声。
次いで、魔法を行使する特有の音。
キーンッ
音に目を向けると、飛来する鋭い土塊が視界に入ります。
妖精さんの生み出した純白の盾により阻まれていますが、明らかに害意を持って放たれた攻撃です。
「だ、誰?」
あの土塊は、間違いなく私を狙って放たれたものでした。
妖精さんが守ってくれなければ今頃は――
「ちっ。仕損じたか」
死角となっていた岩陰からぞろぞろと人影が出てきます。
見覚えのあるいやらしい笑みは――
「この役立たずの金喰い虫が。
誰の許可を得て、この国に戻ってきたんだ?」
私に国外追放を言い渡した宰相でした。
その背後には宰相の息子に、第三皇子までいるようです。
◇◆◇◆◇
「宰相。なぜこのような場所に?」
「答える義理はないな」
宰相は私を捕えようとしているのでしょうか。
思わず後ずさる私と宰相の間に入るように、お母さんが割り込みます。
「邪魔だ。なんだ貴様は。
私が用があるのは、そこの聖女などと祭り上げられている詐欺師だけだ」
「私はあなたが詐欺師と呼んだアルシャの母です。
娘に何の用ですか?」
この期に及んで、いまだに詐欺師などという宰相。
お母さんは帝国に対する嫌悪感を隠そうともせず臨戦態勢。
「追放に処したにも関わらず、平気な顔をして我らの国に入り。
あまつさえ、また大掛かりな詐欺行為を働いている。
到底見逃すことはできまい?」
「詐欺行為とは失礼な。
私が来なければ、もっと邪竜による被害が出ていましたよ!」
説得するだけ無意味だと分かっていても。
あまりな言い方に我慢できず、そう反論しますが。
「平民風情が私に楯突くのか。
聖女などと祭り上げられていい気になりよって。
その思い込み、すぐに打ち砕いてくれるわ」
宰相は忌々しいとつぶやきました。
宰相は、傍にいた兵士に
「おい。この無礼な平民どもをすぐにひっ捕らえよ」
と命じました。
国のお偉いさんからの命令。
例え気乗りしない内容であっても逆らうことはできないでしょう。
『やろうってのか~?』
『敵になるなら、ようしゃしないの~』
場に緊張が走ります。
兵士は困ったようにこちらを向き――
「我が国が、本当に申し訳ありません!」
――え!?
武器を投げ捨て、そう言いながら土下座したのでした。