7. 妖精の愛し子
エルフィネ地方に着いた私が最初に見たものは、邪竜をこれ以上侵入させまいと必死にあらがう人々の姿でした。
まずはどうしよう、と兵の指揮官を探していると――
「聖女様だ~!」
「アルシャ様がいらっしゃったぞ~!」
こちらを見た誰かが叫んだのでしょう。
どっと熱気に包まれました。
「聖女様に対する帝国の態度は、到底許せるものではない。
助けを求めることすら出来ない、そう思っておりました。
アルシャ様は、本当に救世主にございます」
「大げさですよ」
邪竜と絶望的な戦いの中、ようやく一筋の光が射したと。
私たちを熱烈に歓迎する人々の姿を見て。
――ああ、やっぱり来てよかった
素直にそう思ったのでした。
◇◆◇◆◇
「邪竜は私が追い返します。
お母さんは、邪竜の攻撃が人々に届かないように護りをお願い。
まだ戦える人は、小型のモンスターの相手をお願いします」
小娘が何を言うか。
そう言われることも予想していましたが、指揮官は「ハッ」と快く引き受けてくれました。
お母さんが魔法陣を描き、厳格な表情で祈りを捧げています。
惚れ惚れするほどカッコイイ。
久々に大規模な聖女のお仕事です。
私も頑張ろうと思って……
『やっちゃう? やっちゃう?』
『いっぱい遊べそうで楽しみ~』
『邪竜なんて敵じゃないの~』
祈る必要あるのかな?
妖精さんは、すでに準備万端だとでも言うようにウキウキとこちらの指示を待っていました。
うずうずと、何かをねだる遊びたくて仕方がない子供の様に。
「お願いね」
儀式、祈り。
聖女の中では常識と言われているような工程をすべて吹き飛ばし。
私の妖精に対するふるまいは、雑談の延長にあるような気楽なもの。
妖精さんと信頼関係を結べた証、そう思えば嬉しいけど。
ああして堂々と登場した以上、私もお母さんみたいにカッコイイ儀式がしたかった。
なんて吞気なことを考えてしまいました。
儀式を行わずに妖精の力を振るう。
その常識外れの方法に。
「――妖精の愛し子」
私の傍にいた誰かがポツリと呟きました。
やがて、その声は伝染して広がっていきます。
妖精の愛し子。
それは、妖精に心から愛されたものだけに送られる伝説の聖女を称える称号でした。