6. ついでに帝国もやっちゃおう
さきほどの聞こえてきた行商人の話によると、邪竜が出没したのは帝国南部のエルフィネ地方ですか。
宰相の命令で、儀式をしに行ったことがあります。
同時に蘇ってきたのは、「国の有力者を集めた茶会が優先だ」と言われ、儀式の途中で強制的に呼び戻されて憤慨した記憶。
それがこの結果ですか。
「エルフィネ地方まで。妖精さん頼める?」
『任せてよ』
『お安いご用なの~』
私が村を出ようとすると、
「まさか、1人で行くつもりではないでしょうね」
入口で待っていたお母さんに声をかけられました。
儀式用の純白のドレスと錫杖を身に纏っています。
「お母さんまで来てしまうと、この村が……?」
「聖女の祈りは、1日や2日空けたぐらいでどうにかなるようなヤワなものじゃない。
そうでしょう?」
それは私だけでなく、妖精さんたちにも尋ねたのでしょうか。
お母さんを守護するかのように回っていた淡い光は、肯定するかのようにヒューっと村の方に戻っていきました。
◇◆◇◆◇
「クソ親子のせいで、途中までしか儀式が出来てないって話だけど。
アルシャちゃんは邪竜の件、勝算はあるの?」
妖精の協力を受けた私たちは、飛ぶようにエルフィネ地方に向かって移動しています。
ええっと、どうだろう。
もともと侵入を防ぐために、祈りを捧げて聖結界を張っていたわけで。
真っ向から戦うのは無理。
だとしても、その地方に住む住民を逃がす手伝いぐらいならできるかも?
『アルシャ、待ってたの~ 久しぶりなの!』
『邪竜、やっちゃう? けちょんけちょんにしてやる!』
『みんなと協力するの~』
「妖精さん!?
みんな、どうしてここに?」
そんな私の消極的な思いとは裏腹に。
妖精さんたちはやる気マンマン。
国外追放のときには付いてこなかった、懐かしい妖精の姿もあります。
『やっぱりアルシャのそばがあったかいの~』
『帝国のやつらは、みんな真っ黒なの~』
「ふふっ。アルシャちゃんは、本当に妖精に好かれているのね~」
じゃれあう私たちを見ながら、お母さんも楽しそうに笑いました。
妖精さんたちは、どんどんと仲間を呼び。
面白そう~、っと集まってきた妖精さんの数も、もはや数え切れないほどで。
『邪竜なんて敵じゃないよ』
『お祭りなの~』
『ついでに帝国もやっちゃおう』
「冗談でもやめてね!?」
驚いてそう返すと、妖精さんはけらけらと楽しそうに笑います。
妖精さんの振るう力に比べれば、帝国が信じてやまない魔法の力なんてゴミのようなものです。
これだけの妖精さんが力を振るえば、帝国なんてひとたまりもないでしょう。
きっと邪竜でさえも。
私はまだ知らないのでした。
――大災厄と言われた邪竜よりも、権利欲に駆られた人間の方が恐ろしいということを。