2. こちらから出ていってやりますよ、こんな国!
「な――」
私は、思わず言葉を失います。
「正気ですか!?
聖女が祈りを止めたら、この国は滅びますよ」
私がこう言い切ることには、理由があります。
いずれこの国で、大災厄が起こるという妖精による予言。
妖精の声を聞くことができる私だからこそ分かる未来。
考え直すよう、私が必死に説得していると
「はっ、アルシャよ。最後までみっともない姿を晒すではないか。
父上はな、これでも言葉を選んでいるのだぞ。
俺から言わせれば――聖女など、詐欺師だ」
宰相の息子であり、私の婚約者でもあるアルフレッドがやってきました。
『詐欺師とはなんだ~』
『お父さまの腰巾着のくせに~~』
妖精さんたちは、本当に宰相親子が嫌いなようです。
「アルフレッド……。
あなたには聖女の在り方を何度も伝えたはずです」
アルフレッドは、権力欲ばかりが強く自らの常識を疑わない方。
その価値観には、父親のそれが強く影響しています。
聖女の権力を利用するために婚約し、その力が自らの権力に繋がらないと悟るや――
「貴様はこのままだと国外追放だ。
だがな、俺も元・婚約者を放り出すほど鬼ではない。
顔だけは好みだしな。一生服従するのなら、ペットとしてなら飼ってやるぞ」
豹変しました。
私は、聖女という肩書きがなければ国外から来た1人の平民に過ぎません。
このような見下した発言は朝飯前。
聖女としてのプライドを土足で踏みにじられ。
神経を逆撫でされたことも、一度や二度ではありません。
「お断りです」
「な、なんだと!?」
まさか言いなりになるとでも、思っていたのでしょうか。
私がみっともなく縋りつくとでも?
「この国に訪れる大災厄。
一度は聖女として仕事を引き受けたんです。
最後まで国を守りたかったのですが。
出ていけと仰るのなら、仕方ないですね」
大災厄に向けて、これまで積み重ねた準備が無駄になるのは勿体ないですが。
ここまで言われて、なお国のために尽くす義理もないでしょう。
どれだけ丁寧に説明しようとも、聞く耳も持たず。
聖女を権力の道具としか見ない。
こんな国、どうなろうと知ったことではないです。
「ええ、喜んで。
こちらから出ていってやりますよ、こんな国!」
私はそう言い残し、その場を後にしました。