1. 我が国には聖女は不要だ! 即刻、出ていけ!
「金喰い虫の聖女が!
貴様のおままごとのために、これまでいくらかかったと思っている?」
でっぷり太ったガマガエル顔の貴族が、嫌みったらしく言いました。
国の宰相で、今代の聖女を担当していた国のお偉いさん。
「『おままごと』とは、随分な言いようではありませんか。
聖女の祈りは妖精たちへの捧げものです!」
聖女、それはこの国を守護する妖精に祈りを捧げる職業のこと。
私のお母さんは、それは立派な聖女として故郷では名を知られていました。
その名を汚さぬようにと、見知らぬ土地で必死で聖女の務めを果たしてたつもりなのですが。
『こいつきらい!』
『アルシャに、いっつもひどいことするんだもん!』
口々に言いだしたのは、私の回りをパタパタと飛び回る小さな妖精。
その心の清らかさが認められないと、妖精は姿を見せないと言われています。
幼きころから聖女に恥じぬ振る舞いで、祈り続けた果てにようやく見ることができるとも。
「黙れ!
現在は魔法の研究も進んでおるのだ。
聖女の力が無ければ出来ぬことなど、何もないわ!」
宰相は、心の底から憎々しげにこちらを睨み付けてきました。
国の外から、わざわざ私を連れてきて。
地位のためにと、息子と婚約までさせたくせに。
聖女という存在が、権力に繋がらないとなると。
こうも簡単に「いらない」と。手のひらを返すのですね。
「たしかに祈りの儀式を行うためには、お金が必要になることもあります。
豊穣の祈りに、モンスターの侵入を防ぐための聖結界。
私は頂いた以上のものを、この国に返してきました!」
「やかましいわ!
聖女信仰の根深い地方では、その大層な儀式とやらで騙せても。
この国の宰相が私である以上、貴様の嘘を聞くつもりはない!」
ガマガエル顔は、たっぷりと息を吸い
「息子との婚約も破棄だ!
貴様のような金喰い虫に、息子はやれん!
我が国には『聖女』などという職は不要だ!
即刻、出ていけ!」
そう言い放ったのでした。