3. 裸体も着こなしも芸術品並みだなんて、やはり人をやめているのでは?
泉の側で焚き火を作り、汚れた衣類を全て脱ぎ捨て裸になった彼女。私の名誉を守るために言っておくと、これは不幸な事故でした。
生まれたままの艶かしい裸体が今も網膜に焼き付いています。
少女の裸を覗く成人女性なんて字面だけ見ればどう考えてもお巡りさんに署で事情を聴かれる事案ですが、もしや私が彼女をお嫁さんにもらえば全て解決するんじゃないでしょうか。
「可愛すぎて昇天しそう、これは死……死なないんでした」
改めましてもう一度お伝えします、これは不可抗力なのです。
生前であれば許容量を超えた可愛さの暴力で心肺停止しそうなものですが、今世はダンジョンですからそんな問題もなく生き永らえています。各フロアの魔物もより強く逞しく、あざとく生き残っているのを感じ取ることができました。
いつも以上にハイペースで遺品が蓄えられてゆくので、彼女への支援物資には事欠きません。
「地産地消というやつですか。わざとではありませんが、ちょっぴり罪悪感を感じますね」
これは嘘です。転生して数日、種族や貴賎を問わず命を落とす者への罪悪感は爪痕を残すことなく失せました。断りも入れず体内に不法侵入してくるのは、彼らの方ですし。
生前より精神が図太くなった自覚のある私ですが、今だ生前に負った傷痕は疼きます。
「いつか会えたなら、知らない言語だって習得してみせますから」
惚れっぽいと貶されてもこの想いは変わらないでしょう。
彼女の声を聴き、名前を呼び捨てあい、ときには共に眠る仲になりたい。それが私の空想する恋人であり、彼女が女性を愛せるかすらわからない今、想うべきことではありませんでした。
水面から濡れ鼠が上半身を覗かせます。彼女は泉から上がると山積みのタオルを手に取り、身体を拭いました。
「これは襲われてしまう」
直感でそう感じ取ります。——害虫撃退用の道具を準備するべきです。
ダンジョンに点在する宝箱。中身を選りすぐって与えれば、彼女が怪我をする可能性も限りなく低くなりましょう。私は見つけた傍から中身を漁り、装備集めに奔走しました。
苦労の末に入手した、お洒落な銀色のアンクレット。
「あっ、手が滑りました」
想定外の効果をもたらす可能性をなくすため、群れからはぐれたゴブリンさんに与えてみます。彼の犠牲によって、外部からの物理的干渉を防ぐ効果が検証されました。意図的に遭遇させたコカトリスさんに石化されていましたが、害虫と対峙する上では十分な効果でしょう。
これで二度と害虫の魔の手にはかかりません。
彼女が次に出くわすことがあれば、直々にのしてやります。
「念のためにポーションもあげておきましょう」
釣り餌として、宝箱には上等なポーションや防具、武器、宝石類などが納まっています。私は彼女に与える分だけ拝借して、彼女の元へと送り込みました。
白いワンピースにトレンチコートを羽織り、マフラーを柔く巻きつけた私の天使。与えたアンクレットはネックレスにされてしまいましたが、似合っています。
「裸体も着こなしも芸術品並みだなんて、やはり人をやめているのでは?」
効果は変わりませんし、好きに着用したって問題ありません。彼女は嬉しそうに目を細め、ネックレスに指を這わせます。
ああ、悪い人に騙されそうなくらい純粋です。私が彼女を守りましょう。
彼女が支度を始めるまでの間、私は存分に癒されることができました。