第七話 最強の女剣士の苦悩
「アスト、"剣聖審議会"のことは知っているよな?」
「はい。」
「一年前の"剣聖審議会"で私は議題に上がったのだ。まぁそれなりに活躍していたと自分でも思っていた。もしかしたら『剣聖』の称号を貰えるのではないかと期待していた。」
レイナの手が少し震えているのに気付いた。かなり勇気を出して言っているようだった。
「だが結果はご存知の通り私は『剣聖』の称号を与えられることはなかった。まだ実力が足りないのかと私は落胆したよ。もっと修行して強くならねばとそう思った。」
俺は黙ってそのまま話を聞いていた。
「だがそんな時"剣聖審議会"に出席していた学者同士の会話を偶然聞いたんだ。」
"剣聖審議会"は複数の大臣と軍部の上層部、『剣聖』について研究している学者などで構成され、審議されている。
「どんな会話だったんですか?」
「"やはり『剣聖』の称号に女はふさわしくありませんな。" "えぇ、これまでも全員男が授かってきたものですからねぇ。"やはり『剣聖』の威厳を保つには女でなく男のほうが良いですからな。"
こんな会話だ。」
予想もしていなかった内容に困惑した。
(まさか女だからというだけで『剣聖』の称号が与えられなかったって言うのか?こんな理不尽な話が許されるわけない!)
「そんなことがあったんですね…」
「あぁ。ふざけるな!と心の中で叫んださ。でも怒りよりも悔しさの方が強かったな。初めて女に生まれたことを恨んだ。それと同時にもっと活躍して『剣聖』の称号を与えざるを得ないくらいになってやる、と決心した。」
「すごいです。普通は諦めてしまうと思いますよ。」
「ふふっ私は負けず嫌いだからな。このまま見下された状態でいることが嫌だったんだ。私は必死に修行をし、戦争でも自ら最前線で戦った。」
不意にレイナは俺のほうを向いた。
「だが、この前の"剣聖審議会"で議題に上がったのはお前だった。しかもお前は史上最年少で『剣聖』の称号を与えられることが決まった。」
「レイナ将校…」
「これだけ頑張ったのに議題にすら上がらなかったのはさすがに応えたよ。私は必死に命をかけて戦ってきたというのに、と。それと同時になぜアスト、お前なんだ、なぜ一度しか戦場に赴いたことしかないやつが『剣聖』の称号が与えられるんだと。早い話が嫉妬さ。」
(イガリオ総司令官の部屋で会ったときに感じた違和感はこういうことだったのか。)
「これで全てだ。……確かに少し気持ちが楽になったかもな。感謝するぞ。」
「いえ!こちらこそ話してくれてありがとうございます。まさかこんなにも悩んでいるとは思ってなくて無理に話させてしまったようですいません。」
「何を謝ることがあるんだ。お前は心配してくれただけだろう?」
「いや、まぁそうですけど…」
「しかしまさかほとんど話したこともないお前にこんな話をするとは、相当気持ちが弱っていたんだな。」
「人は誰だって弱い部分はありますよ。」
「…!ハハハッ年下にこんなことを言われるようじゃ私もまだまだということなのかな。さぁもう話も終わったし、私はもう宿に行くことにするよ。」
「え?料理は食べないんですか?」
「そんな気分じゃなくなったからな。このビールを飲んだら出るよ。」
レイナは残っていたビールを飲み干し、会計を済ますと、
「じゃあな、アスト。今日はしっかり休むんだぞ。」
そう言い残しレイナは店を出ていった。俺は自分の席に戻り、残った料理を食べ終えた。
(確か"剣聖審議会"にはイガリオ総司令官も出席しているはずだ。帰ったら話をしてみるか。)
会計をし、俺も宿に向かった。
もう少しレイナ将校のことを魅力的に書きたかった…