第四話 最初の任務
「ふぅ〜。終わった終わったぁ〜。」
リゼルは部屋に入るとすぐにベッドに横になった。
「俺さああいう静まり返った空間がすげぇ苦手なんだよね。」
「俺も苦手だな。『剣聖』の授与式の時の空気とかさっきの集会の比じゃないくらいピリピリしてたからな。」
「へぇそうなんだ。アスト君はそういう空気感なんか平気だと思ってた。」
そこでドアがノックされ、見覚えのある男が入ってきた。
「話の最中にすまないね。ちょっといいかな?」
「イ、イガリオ総司令官!?こ、こんな急にどうしたんですか!?」
そう言うとリゼルはすぐに立ち上がった。俺とフィルもリゼルの横に並んだ。
「ハハハ。いいよいいよ楽にして。ちょっとアスト君に話があってね。アスト君を借りていってもいいかな?」
「え?お話ですか?」
「あぁ。私の部屋に来てくれ。そこで内容を話すよ。」
「分かりました。」
「よし。では早速行こうか。お二人さん悪いが少しだけアスト君を借りてくよ。」
10分もかからず、イガリオ総司令官の部屋へ着いた。イガリオがドアを開けると、本棚にはびっしりと本が並べられ、床には入りきらなかった本や古い書類などが乱雑に置かれていた。
「散らかっててすまないな。ちょっと整理整頓が苦手でねぇ。あ、そこの椅子に座ってくれ。」
言われた通り椅子に座ると、イガリオは机を挟んだ向かいの椅子に座った。
「急に呼び出して悪かったね。話というのはアスト君に国王の護衛役をしてもらおうということなんだ。」
「え!?」
突拍子のない話に思わず声が出た。
「ごめんごめん、詳しく説明するからな。一週間後にアルメシア王国でサマリード王とアルメシア王国のエレキ王が会談することになっている。アスト君にはアルメシア王国に向かう道中の護衛役を務めてもらいたい。」
「ちょっと待ってください。そんな話初めて聞きましたよ。国王同士の会談なんて一大行事なのに周りの人もそんな話してませんでした。」
「知らないのは当然だ。この会談は一部の者達にしか知らされていない。」
「なぜ秘密裏に進めているのですか?」
「さっきの集会でも話したが、今ウェルズヒア王国は危険な状況にある。そんな時に国王がアルメシア王国に出向くとみんなが知れば当然他の国にも情報が入ってしまうかもしれない。だから秘密裏に進めることになったんだ。」
「なるほど。では国王が出向く際、護衛の兵の数はどうするんですか?」
「なるべく目立たないように少数精鋭で行くつもりだ。だからアスト君にもこの話をしたんだ。」
色々説明され、なんとか話を理解した。
「そういうことでしたか。自分でよければ護衛役を務めさせていただきます。」
「ふふっ。頼もしいね。言い忘れたが、今回私は護衛役ではなく、留守番役だ。上の者達が全員ついて行ってしまったらその間軍を指揮する者が居なくなってしまうからね。」
「では護衛のリーダーは誰なんですか?」
「あぁリーダーは…」
イガリオが名前を言おうとした時部屋のドアがノックされた。
「イガリオ総司令官いますか?」
「ん?あぁいるよ。いいよ入って。」
「失礼します。」
俺はドアの方に目を向けた。すると赤髪でスッキリとした目鼻立ちの女性が入ってきた。
「やぁ、レイナ。時間通りに来てくれたね。」
「イガリオ総司令官、私いつも言っていますよね。次来たときまでに部屋を片付けて下さいって。いつになったら片付けてくれるんですか?」
明らかに怒った表情でレイナはイガリオのことを睨んだ。イガリオは申し訳なさそうな顔で
「す、すまん。片付けようとは何回も思ってるんだが急がしくてつい後回しにしてしまうんだ…」
と言った。レイナはため息をついた。俺はこの状況についていけず、ずっと座ったまま黙っていた。
「イガリオ総司令官、あなたもう33歳ですよね?掃除くらいできるようになってもらわないと。」
「ハハハッ…本当にすまない。まぁこの話はここまでにしよう。な?それよりも座ってくれ。アスト君今回の護衛リーダーはこの人だ。」
(なるほど、この人がリーダーか。)
と俺は勝手に納得した。レイナはウェルズヒア王国最強の女剣士と言われ、23歳にして将校に昇り詰めた本物の実力者だ。
「アストです。よ、よろしくお願いします。」
挨拶をするとレイナは俺のほうを向いた。心なしかレイナの表情に俺に対する憎しみのようなものがあるように感じた。
「レイナだ。今回護衛リーダーを務める。よろしく。総司令官話はこれだけですか?なら私はもういきますが。」
「え?あぁ話はもうないよ。」
それを聞くとレイナはすぐにこの部屋を出て行った。
少し長くなってしまいました。