第二十話 直談判
「私、ここ2、3年外出できていないのです。厳密に言うと公務で外に出ることは何回かあったのですが、公務以外の外出はお父様が許可してくれないのです。」
「は、はぁ。」
まだ気持ちの余裕がなく下手な相槌になった。
「確かに最近の不安定な情勢だと外出させたくないとお父様が思うのも理解できるのですが、遠出ではなく、近場への外出も許してくれません。」
「そ、そうでございましたか。」
「そこで私は考えたのです。護衛に『剣聖』であるアスト様がいてくれればお父様も外出を許可してくれるのではないかと。」
俺はようやく王女の頼みがどのようなものか理解した。
「つまり、自分がミーシア王女が外出する時の護衛役を務めてほしい、ということでよろしいでしょうか?」
「はい。私のわがままなのは重々承知しているのですが、この頼み引き受けてくれるでしょうか?」
「もちろんでございます。」
断る理由がないので俺は快諾した。返事を聞いたミーシアは明るい表情になった。
「ありがとうございます!では早速お父様に聞きにいきましょう!」
「い、今からですか?」
「アスト様の気が変わらない内に行ったほうがよろしいでしょう?」
ミーシアは笑顔でそう言った。
王宮の間の前に着いたところで俺は心を落ち着かせる。1日に2回もここに来るとは思ってもなかった。ミーシアと一緒に王宮の間に入る。いきなり王女が来たことにサマリード王を始め、周囲の人達は驚いた表情をしていた。
「ミーシアよ、どうしたのだ?それと後ろにいるのはアスト上等兵か?」
「お父様、今ここに来たのはお願いしたいことがあるからです。」
「お願い?なんだ、言ってみなさい。」
「外出を許可してもらえないでしょうか。」
ミーシアは真剣な表情で気持ちを訴えていた。
「ミーシア、前にも言っただろう。今の情勢は危険だから外出させるわけにはいかないと。それに近くなら大丈夫だと思っているかもしれないが、敵はどこにいるか分からない。もしかしたらすぐそばにいるかもしれない。」
「そのようなことは分かっております。ですから護衛としてアスト様に同行してもらう形ならどうでしょうか?」
そう言われ、サマリード王は俺が後ろにいる意味を理解したようだった。
「なるほどな。アスト上等兵が護衛としていれば、安全だから大丈夫だ、と言いたいわけか。しかしいくら『剣聖』が付いていてもなぁ…。」
サマリード王は顎に手を当てながら、迷った表情を浮かべた。
「サマリード王、私からもお願いいたします。何かあった時は命に変えてでもミーシア王女をお護りいたします。」
俺はサマリード王を納得させるため一押しした。
「うぅむ。…分かった。外出を許可しよう。ただし、泊まりがけの外出は認めない。」
サマリード王がそう言った瞬間ミーシアと俺は顔を見合わせて喜んだ。
「ありがとうございます、お父様。」
ミーシアと俺は王宮の間から出た。
「アスト様、ありがとうございました。まさかあんなことまで言ってくれるとは思ってませんでした。」
「いや、当然の事を言っただけです。確認したいのですが、外出はいつ頃なのでしょうか?」
「あ、言ってませんでしたか。えっと、一週間後と考えていましたが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。」
「良かった。では一週間後お願いいたします。」
ミーシアは待っていたメイド二人と一緒に自分の部屋へ戻っていった。