第十四話 開戦
敵に気付かれないよう、奇襲部隊は左の方に迂回しながら進んでいた。
イガリオの話では敵大将の部隊は約2000人から3000人ほどで山の中腹辺りに陣を張るということだった。また、ほかの部隊は全て前線に出ているそうだ。護衛の部隊がいないというのは幸運だった。
「チャク大隊長、敵大将はどのような人物なのですか?」
「敵大将かい?私もあまり詳しくはないんだ。名前はマルカと言ってコルズ皇国では知略より自らの力で成り上がったということぐらいかな知っていることは。」
「それだけでも十分です。ありがとうございます。」
部隊が山に差し掛かる頃には日が昇り始めていた。ここから敵大将部隊まで細心の注意を払いながら迅速に動かなければならない。しかし、不安定な足場で思ったよりも進軍速度が上がらなかった。
「少し速度が遅くなっている。そのため一旦頂上付近まで登る。見つかりやすくなるが仕方ない。そこから一気に敵大将部隊に向かう!」
チャクが指示を出し、一斉に登り始める。三十分ほどで全員が登り終わりまた進み始める。三十分のロスを取り戻せるぐらいに進軍速度は上がった。
ーーー敵陣営側ーーー
参謀のヨマネは中央から前線の部隊に進軍の指示を出す。横に広がった部隊が一斉に進軍する。
「これほどの数の部隊を押し返せはしないだろう。」
ヨマネは余裕の表情を見せた。
「しかし、マルカ様も大胆だ。護衛部隊すら前線に送りこむとは。でもこれでほぼ我々の勝利は確定したも同然だ。」
日が完全に昇った頃、前線の部隊が全て山を降り、ウェルズヒア軍を視界に捉える。
「さぁ、蹴散らしてこい!!!」
ヨマネが合図をだし、一気に部隊に伝えられる。そのまま約一万の大軍がウェルズヒア軍へと向かい動き出す。
ーーー味方陣営側ーーー
前線の部隊からイガリオの元へ敵部隊を視界に捉えたことが伝えられた。そのタイミングでイガリオは部隊を鼓舞する。
「いいか!敵はもう目の前だ!我々の任務は前線部隊の支援及び砦の死守だ!誰一人欠けることなく任務を成し遂げるぞ!!!」
「ウォォォォォ!!!!!」
その頃前線の中央部隊を率いるレイナも
「いいか!我々の働きがこの戦いの行方を大きく左右する!皆、死ぬ気で戦え!!!」
と部隊を鼓舞し、味方が応える。その時、周りからも雄叫びが聞こえる。他の部隊でも鼓舞していたようだった。
(ふっ、この時間だけは戦や死への恐怖を薄れさせてくれるな。)
レイナは安心感を感じた。
「レイナ将校!敵がもうすでに目の前まで来ています!」
その知らせを聞き、レイナは再び気を引き締め
「分かった!弓兵は前へ!攻め込んでくる敵を容赦なく打ち抜け!」
と指示を出す。他の味方部隊も迎撃準備が整っているようだった。
そして午前8時22分 開戦。
長くなりましたがいよいよ開戦です。