第十三話 開戦の直前
更に一晩が経ち、いよいよ明日には敵が攻め込んでくる状況にまできた。イガリオの元には偵察部隊から敵の部隊の様子が細かく伝えられた。その情報を共有するため、部隊を指揮する者達を集めた。
「今現在敵は山の手前に滞在している。多分夜明け前から動き出し、こちらに向かってくるだろう。そして、敵は周りの警戒を緩めているとも伝えられた。こちらの陣形を見て真正面から戦ってくると判断したのだろう。」
「それはつまり…」
チャクが言葉を挟む。
「あぁ、敵は思った通りに動いてくれそうだ。前線に人数をかけるために、敵大将の部隊の守りは必ず薄くなる。その分奇襲が成功しやすくなるだろう。」
集められた人達は安堵の表情を見せた。
「だが、油断はするな。言い換えれば前線の負担は大きくなるし、警戒が緩んでいるとはいえ奇襲部隊が見つかったらそれこそ今回の作戦は破綻する。」
イガリオの忠告に再び顔が引き締まる。
「最後に、さっきは少しキツいことを言ったが、ここにいる者はこれまでも不利な状況を覆してきたことのある面子ばかりだ。あまり心配はしていない。お前達となら勝てると思えてくるんだ。」
「イガリオ総司令官、あまり期待し過ぎるとこっちが心配になってくるのでやめてもらえますか?」
「ハハッ。こんな時でも厳しいね、レイナ。よし、俺の話はこれで終わりだ。各自持ち場に戻り、明日に備えてくれ。」
ーーー敵陣営側ーーー
「本当に真正面から迎え撃とうとしているのか?」
「はい。これまで周辺を警戒させていましたが、怪しいところは見つかっておりません。相手兵士も全て前線と砦の部隊に編成されていると思われます。」
「これまでの戦で勝利してきたことで誤った自信がついたのか。愚かよ。」
敵大将マルカと参謀のヨマネが敵の状況について話していた。
「恐らく、前線の部隊を砦の部隊が支援しながらできるだけ戦いを長期化させようとしているものだと思われます。」
その話を聞きマルカは前髪をかき上げ、ヨマネを睨む。目付きが悪いマルカに睨まれヨマネは萎縮する。
「フッ、舐められたものだな。持久戦になれば分があると思っているのか?少しでも前線が崩れればそこから雪崩のように崩壊していくというのにな。」
「その通りでございます。そのため前線の人数を想定より多くし、前の三つの部隊を囲むように攻め込ませ、崩れたところに少し後ろにいる部隊がそのまま攻め込んでいく感じがよろしいかと。」
「それでよいが、前線の人数はどのくらいにするつもりだ?」
「当初の7000人から8000人に増やそうかと…」
マルカはヨマネの話を遮り、話し始めた。
「それでもまだ少ないだろう。もっと確実に敵をねじ伏せるために前線には1万人を配置しろ。」
「そ、それはマルカ様の部隊以外を前線に送るということですか…?」
「そうだ。周辺の安全が確認されている状況で護衛部隊はもはや必要ない。」
「わ、分かりました。ではこの作戦を全ての部隊に伝えます。」
ヨマネが去った後、マルカはイスの背もたれに寄りかかり、一息つく。
「イガリオ、今回がお前の最期になるな。」
そう言うと不敵な笑みをこぼした。
夜明け前、コルズ皇国軍が進軍を開始し、その情報がイガリオの元に届く。イガリオは各部隊にその情報を知らせ、同時に奇襲部隊に進軍の指示を出した。
「いよいよか…」
俺は深呼吸をし、精神を安定させる。
「よし、では行くぞ!我らで勝利を掴むのだ!」
チャクが部隊を鼓舞する。それに応えるように
「オォォォ!!!」
と部隊が声をあげる。そして敵大将の部隊へと向かっていく。