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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト&エレメントウェポン ウェルカム・トゥ・ザ・ラスト・キングダム 
51/55

チャプター9

 大歓声に包まれる訓練場から背を向けて走り出す。これ以上見ていられなかった。


 背中に()()()()()()が突き刺さった気がしたが、気づかないふりをして脇目も振らずにその場から駆け出した。駆け出したと言っても、人が多いから必然的に歩みは遅くなったわけだが。


 背を向ける俺に注意を向けるものは誰一人いない。皆新しく現れたヒーローに夢中になっているから、その場から逃げ出すのはそう難しいことじゃなかった。


 人の波を難儀してかき分けて進んで、やっとこさ出口までたどり着いたころには肩で息をしていた。


 でも俺は休まず自室へと駆け出した。一秒だってその場にいたくなかった。息を切らしながら訓練場の出口を潜り抜ける。出口を潜り抜けるときにはあいつから俺の姿は見えないはずなのに、見られているという感覚が消える事はなかった。


 自室に向かう途中、今までの人生のことを振り返ってみた。


 ガキの頃から常に強い者の腰巾着として生きてきた。


 強いものには逆らうな。父に母に、家族のだれからもそう言われて育った。大きくなってその意味が分かるようになってなおのことその言葉の通りに生きようと思った。


 だってそうだろ?当たり前のことじゃないか。何でわざわざそんな連中に逆らわなきゃいけない?平穏に生きたいなら、強い者に媚び諂ってでも取り入るしかないじゃないか。


 訓練場から自室まで大した距離じゃないのに心臓は早鐘を打ち、全身からは汗が噴き出て滝のように流れて服を濡らした。


 這う這うの体で自室の前までたどり着くと、部屋の前には2人のメイドが立っていた。2人が何か言おうとしていたけど、俺は大声で怒鳴りつけて黙らせた。


 2人はまだ何か言っていたけど、俺は2人を押しのけて自室に入ってドアに鍵をかけた。


 俺は部屋を横切り寝室へ行き、ベッドに飛び込んで掛け布団に包まって目を閉じた。なのに全然眠れなかった。あいつが加間に向けていた憤怒の表情が頭にこびり付いて離れない。


 あの憤怒が、加間だけじゃなく俺にも向けられているような、そんな考えがしてやまない。いや、きっとそうなのだろう。


 わかってる。俺だって加間に加担して酷いことをたくさんやってきた。奴の怒りは正しい。でも、他にどうすればよかった?あのまま加間に取り入っていなかったら次のターゲットは俺になっていただろう。


 俺だってやりたくなかった。でも標的にされるのは嫌だ。今だってすぐに縁を切りたいのに、加間と国王の存在がそれを許さない。


 本当に、俺はどうすればいいのだろう?


 俺はベットの上で膝を抱えて、すすり泣いた。




 ------------------------------------






「滝沢と光は復興支援の手伝いで出て行ってたから、結局会えなかったけど目的の一つである王女様へ生存報告はできたから、まあ上々かな、二人はどうせ現場で会うだろうからね」


 シルバーナイトは通信で会話しながら、森の上を飛行する。


 ここは国境の内側にあるアクアランドの端の樹海、リュースイの森上空である。彼は今偵察のために空から、エレメントウェポンは地上で各々作戦を遂行中だった。


『フン、奴との関りができた時点で結果はマイナスもいいところだがな』

「まだ気にしているのかい?」


 加間との決闘の後、自分と接触してきた人物のことを健斗は思い出した。


『国王の、弟…?』

『そう、そして君の師匠の友人でもある、なあチャリオッツ、聞いてるんだろ?』

『…ああ』


 通信から今まで聞いたこともないほど不機嫌そうなアルバートの声が聞こえてきた。


『クククッやっぱりだ』

『彼に下らんことを吹き込むつもりなら今すぐお前を燃やしてやる』

『何だ、負けて折れたっていうからてっきり委縮でもしてるんじゃないかと思ったら、どうやら変わりはなさそうだな』

『叔父様チャリオッツナイトと知り合いだったの!?』

『ああそうだよ、そういえば言ってなかったかな』


 ビリア王女の驚きの言葉にシルヴァオンあっけらかんと言い放った。


『小さいころお忍びで彼の故郷に行ったことがあってね、その時屋敷から抜け出してそして彼と出会って、それいらいの付き合いさ。彼がチャリオッツナイトとして活動しているときに物資を横流ししたりもしたね』

『チャリオッツナイトに叔父様が手を貸していたなんて』

『そりゃそうだろう、いくら力があるといっても一人で魔族の軍勢と戦う何て無茶な話さ』

『ふん、何が手を貸すだ強欲者め、ただ私に恩を売って傀儡にでもするつもりであったのだろう?』

『ちょ、ちょっとアル!?相手は王族だよ』

『いやいいさ健斗君、むしろ私は何も変わっていないようで嬉しいんだ』

『いいかい健斗、この男のことを信用してはならんぞ?こいつはあの国王と何一つ変わらん、いやもっとひどい強欲者だ、一度隙を見せれば瞬く間に食われるだろう』


 アルバートはシルヴァオンのことを無視し、健斗に釘を刺すように忠告した。


『まったく嫌われたものだ、まあともかく君が生きていてくれて私は嬉しいよ』

『フン』

『ええっと…』


 健斗はアルバートに何と言ったものか言いあぐねたが、彼が何か発言する前にシルヴァオンが口を開いた。


『ま、今回はチャリオッツの生存と君と会話できたことで十分な収穫かな』

『僕とですか?』

『そうだ、私はチャリオッツの言ったように強欲でね、欲しいと思ったものは何をしてでも手に入れたいんだ』

『貴様…』


 アルバートの殺気が滲んだ声にシルヴァオンはおどけた様に肩をすくめる。


『おいおいチャリオッツ、私は兄のように強引な手を使うなんて事は滅多にないことくらい知っているだろう』

『…ああ滅多にな』

『そういこと、じゃ、今回のお話はこれまでとして、健斗君、また話をしよう、今度は二人きりでね』

『え、あ、はい』

『貴様、待て!まだ話は終わっては』


 アルバートの静止の言葉に聞く耳持たず、シルヴァオンは人の波の中へ消えていった。後に残された健斗は王女へシルヴァオンについて聞いてみたが、彼女も彼について知っていることはあまりないらしく、大した事は聞けなかった。


「でもあの人君が言うような悪い人には見えなかったけどね」

『それが奴の手だ、そうしていつの間にか懐に入られているんだ』


 アルバートの言葉には経験者としての含みがあり、健斗はその忠告を頭の片隅に入れておくようにした。


『さあ無駄話はこの辺にして、どうだ?何か不審なものはないか』

「今のところ特にめぼしいものはないね」


 眼下に広がる森を見下ろしながらアルバートへ報告した。


『おーいこちらエレメントウェポン、ちょっといいか』


 そうこうしていると杏から連絡があった。


『む、どうした、何かあったのか?』

『ああ、たった今村を見っけた』

『村だと?』

『そう村だ、ただなんか人の気配がないんだよ、シルバーナイト、ちと来てくれねぇか?こういう時、一人で突入するのは危ないと思うんだ』

「だそうだけど、どうする?僕は行ったほうがいいと思うんだけど」

『うむ、私も賛成だ、至急彼女に合流を』

「了解」

『今からそっちにエレメントウェポンの現在地を送るね、…あれ?』


 ジェシカから杏のいる地点の座標を送られ、場所を把握した健斗は空中で向きを変え、彼女の場所へと飛び進んだ。途中エアホークの群れに襲われたが、彼はスピードを緩めるどころか逆にスピードを上げ群れを突き破り、背後に銀弾をばら撒いて一瞬で全滅させた。


 敵との遭遇はそれっきりであとは何事もなく進むことができ、数分で目的の場所へとたどり着いた健斗は杏の横へ音もなく着地した。


「お、来たか、さすがに早いな」

「うん、まあね、それでここが君の言っていた村か」


 そう言って健斗は村の門を見上げた。木造の門はところどころ朽ちかけており、もう何年も手入れがされていないように見えた。


 健斗は自身の全感覚を研ぎ澄ませ、中に誰かいないか探ってみたが、すぐに切りやめた。


「…村内には命を感じない、そっちはどう?」

『生体反応なし、魔力の反応もなし、完全に無人だね』

『ふ~む、しかし入らない訳にはいくまい』

「だよねぇ~」

「お、じゃあ行くか?」

『ああ、だが何かあるかわからん、ここは慎重に』

「うわあああああああ助けてくれぇ~!」


 と、突如アルバートの言葉を遮って耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。


 二人は目を合わせた。


『あ、誰れか反対側の入り口から村の中へ入ってきたみたいだね!しかもその後をすごいスピードで迫ってくる反応があるよ!この反応は…魔獣だよ!』

「数は!」


 健斗は問うた。


『2だ!』


 アルバートは答える。健斗と杏は間髪入れず入り口の扉を蹴っ飛ばした。扉は内側に吹き飛び、二人は村内へと急いで駆け込んだ。


 中に入った彼らは周囲を見渡し、村の反対側から息を切らしてこちらへ向かって走っている初老の男を発見した。男の身なりはボロボロでやせ細っており、今にも力尽きてしまいそうな雰囲気だった。


 そしてそんな男の背後から「背びれ」がすさまじい勢いで迫っていくのが確認できた。


「うわあ!」


 男は足を縺れさせてしまい勢いよく地面に倒れてしまった。その瞬間を待っていたかのように迫ってきていた者は地面から跳ね、その全身を現した。


 それは鮫だった。砂色の鱗を持つホホジロザメに酷似したその魔獣は大口を開け、男を丸のみにしようと飛び掛かった。


「さ!せ!る!かああああああ!」


 当然そんな光景をただ黙ってみているわけもなく、シルバーナイトは弾丸のごとき勢いで飛び蹴りを放ち、化物鮫の横っ面を痛烈に蹴り飛ばした。頭部を破砕する勢いで蹴っ飛ばしたにもかかわらず、化物鮫は地面で2,3度飛び跳ねたくらいであまり応えてはいなさそうだった。


 シルバーナイトは眉間を寄せた。しかし時間は稼げた。エレメントウェポンは彼が化物鮫を吹き飛ばした隙に男の元へ向かい、助け起こした。


「あ、あんたたちはいったい…?」

「話は後だ!今はこいつを何とかせにゃ!」

「き、気を付けてください!ここには!」

「来たぞおっさん!そこから動くなよ!」


 エレメントウェポンは男の話を中断させ、両手に雷剣を生成して迎撃の構えをとった。


 蹴り飛ばされた鮫はすぐさま地面へと潜って体勢を立て直し、遅れてやってきた2体目と合流して彼らの周りをぐるぐると回った。








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