チャプター7
扉が開かれ、シルバーナイトはゆっくりとした足取りで王の間の中へと入っていく。
王の間の中は1年前の記憶とほとんど変わってはいなかった。
体育館と見まがうばかりに広い空間にそれに合った馬鹿デカいシャンデリア、豪華な花瓶に装飾品、1年前と変わらないどころかむしろ増えているように思えた。
強欲さがそのまま表されている空間は初めて来たときと何も変わらない。ただ前来た時と変わったところといえば官僚といえるような者が一人しかおらず、代わりに近衛兵が玉座の周りに限界まで配置されていたことくらいか。
近衛兵たちの作る輪の中心、そこにある玉座にどっかりと腰を据えた忌々しい国王が、目を見開いて彼を凝視していた。
「陛下、件の者が到着いたしましたぞ」
「ん、んむ」
国王の真横に立つ官僚と思わしき細身の男が国王に耳打ちした。シルバーナイトは王に耳打ちする男がどこか国王と似た顔立ちをしていることに気が付いた。
血縁者か?そういえば国王には弟がいたと聞いたな、そう思案しているとその男が一歩前に出て彼に向かって叫んだ。
「騎士よ!頭を垂れよ!王の御前であるぞ!」
細身とは思えぬ大音声が王の間に響き渡る。
シルバーナイトはその大声に一瞬呆けたように固まり、それから慌ててその場に片膝を立てて跪いた。
「名を!」
「は!私はシルバーナイトと申します」
「違う!本名だ、本名を言え!」
「はい!私の名はウエイケントと申します!」
「…なんだと」
その名を聞いた王は身を乗り出して跪くシルバーナイトを見た。それを見た隣の男はすぐさまシルバーナイトへ兜を脱ぐように命じた。
「はい」
シルバーナイトは言われたとおりに兜を背部へと収納した。カシャカシャと音を立てて収納された兜の中から出てきたのは、まさしく1年前から消息不明になっていた上井健斗その人に相違なし。
「…生きていたのか」
「はい!魔族に攫われ谷へ突き落されたところを間一髪のところ生き延びました」
シルバーナイトは王が何か言う前に先手を打ってそう言った。
そういう事にしておいた方が、お互いのためだとでもいうように。
彼はとっくの昔に自分を陥れた王の企みの全貌を暴いていた。だが全てを知った時にはそれを証明する証拠も証人も完全に処分済みだった。
彼に限らず国王は自分にとって不都合な人物を権力を使って悉く排除していた。それだけではなくこの王は非常に強欲で欲しい物のためならなんだってやっていた。さらに始末が悪いことにこの王は証拠隠滅の腕が非常によく、なかなか決定的証拠が手に入らなかった。
しかしシルバーナイトは今はそのことを蒸し返すつもりはなかった。腹立たしいことこの上ないが、曲りなりにもこの男は王なのだ。この男が軍を動かすも動かさないも決めるのだ。下手な物言いは避けねばならない。
今事を蒸し返して余計な混乱を起こせばお互いにとって不本意な結果になる。それを王もわかっているのだろう。だからあえて深く追求しようとはしなかった。
(今はだ、今は何もしないでおいてやる。だが覚悟しろ、事が済んだらお前がしてきたことにふさわしい場所に送ってやる)
ゆっくりと立ち上がりながら、心の中で吐き捨てた。
王と騎士はしばし無言で互いに睨み合った。
二人の無言の圧力を察知した近衛兵たちはいつでも引き抜けるように獲物に手を添えた。しかし、内心は不安でいっぱいだった。もしこの男が噂通りの力を持つのならば、たとえ自分たち何人束になってかかった所で大型獣に群がる虫のごとく蹴散らされることになるのは目に見えている。
兵たちの緊張を察した官僚の男はすぐさま場の雰囲気を変えるために、無言で王を睨む騎士へ来訪の旨を言うように言った。シルバーナイトは睨むのをやめ、再び無表情となりその質問に答えた。
重苦しい雰囲気が解け、兵たちから安堵のため息が漏れた。
「はい、私の目的は二つ、一つ同胞との約束を果たすため、もう一つは貴方方に敵対の意思がないことを伝えるためでございます」
「約束とは」
「私が彼らと会うのに一年の年月が流れました、互いに積もる話がございますれば」
「随分と急にやって来たものだな」と王。
「その事については申し訳ございません、そしてお忙しい中こうして謁見のお時間をいただき誠に感謝しております」
「まったくだ」
「その鎧はどこで手に入れた?」
「魔族に拉致された施設で偶然手に入りました」
「偶然か」
「はい偶然です、これも神からのお導きかと」
「はは、神か」
「ええ神です」
「「ははは…」」
二者は乾いた笑いを発した。のっぴきならない腹の探り合いが続く。この時シルバーナイトは何でもないというように会話を続けているが、内心下手を踏まないか冷や冷やしており、会話を打ち切るタイミングをうかがっていた。
「敵対の意思がないと言ったな、我々にそれを信じろと?上辺だけ取り繕っただけで内心よからぬ企みを企てているのではないか?」
「御冗談を、私の望みはただ皆様方と歩をそろえてこの大陸に訪れた未曽有の危機に立ち向かう事でありますがゆえに」
王に対し思うことは多々あったがそれが本心だった。
「ふん」
その思いが伝わったのか王は鼻を鳴らした。納得はいかぬが一先ずそういう事にいておこう、という意思表示か。
「ともかく私に敵対の意思はありません、本日はそのことを伝えに来ただけでございます」
これを機に彼は話を切り上げにかかった。
「…お前の話は分かった」
「ならば」
「だがお前が「噂の」シルバーナイトであるとまだ信用したわけではない」
「……」
シルバーナイトは訝し気に眉をひそめた。
「と、言いますと」
シルバーナイトの問いに王は嫌らしい笑みを浮かべながら、言った。
「お前がシルバーナイトであるという確証が欲しい」
「…」
シルバーナイトは無表情で王の話に耳を傾ける。
「言葉を交わしたところで埒が明かん、なので手っ取り早く確認する方法を考えた、おい、入れ」
王の言葉と共に扉が開かれ、二人の人物が王の間へ入ってきた。
一人は黒い鎧で武装し、手にはナックルダスターを嵌めている。露出している顔は意地の悪い笑みを浮かべていた。もう一人は稲妻パターンが入った黒いローブを着ており、シルバーナイトの姿を確認した途端目に見えて動揺し始めた。加間犬助と部座丸尾だ。
「ムフフフーン、お主にはその二人と戦ってもらう、この二人はわが従僕の中でも非常に優秀な者たちだ。もしお主が本当に噂通りの実力ならばこやつらが相手でも互角の戦いができるはずだ。そんなものがあればだが」
シルバーナイトは王から視線を外して二人の方へ顔を向けしばらく見た後また王へ顔を戻し、そして無感情に言った。
「ええ、分かりました、その話、お引き受けいたしましょう」
「…ほお!」
王はさも驚いたといったように声を上げた。
引き受けると答えたとき、王の瞳が喜悦に染まったのを彼は見逃さなかった。
「そうと決まれば早速始めるとしよう。ここでは戦闘に適さぬから訓練場へ向かうぞ。そこでなら存分にお主も力を振るえるじゃろうて」
言うや、王は玉座から立ち上がり、うきうきした足取りで歩き始めた。それに続いて官僚の男も歩き始め、それらを囲うように兵士たちも移動を始めた。
加間と部座もその後に続こうとしたその時、開かれていた扉から何者かが駆け込んできた。その場の全員が入って来た者を見やる。
「ハァッ…ハァッ…!」
入ってきたのはビリア王女だった。彼女は王を、官僚の男を順に見て、そしてシルバーナイトの露わになっている顔を見て、一瞬泣きそうな顔をしたが、すぐに気持ちを落ち着かせ王に何事か言おうとしたがその言葉は王の言葉に遮られた。
「おと」
「おお、ちょうどいいタイミングだビリア!今からお前を呼ぼうと思っていたところだ」
王はずかずかと彼女に歩み寄り腕をつかんでそう言った。王の顔には笑みが浮かんでいるが、その言葉の節々には有無を言わせぬものがあった。
「…!」
ここで断れば、王の機嫌を損ねてしまう恐れがある。そうなれば最悪消されてしまう。この男はそういう男だ。身内など関係ない。頷くしか彼女に道はなかった。
「…わかりました、私もご一緒させていただきます」
「有無、では参ろうぞ!」
王は彼女の腕をつかんだまま歩き出した。、彼女は部屋から出る前に振り返って騎士を見た。騎士は何も語らず、ただ頷いた。
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「ではこれより、加間犬助とシルバーナイトによる力試しを行う!」
訓練場へと場所を移し、健斗はシルバーナイトを外した状態で加間と5メートルほどの距離を開けてにらみ合っていた。
健斗がシルバーナイトを纏っていないのは、あくまで力試しなのだから鎧をつけるだなんて以ての外だ、という王の主張のためだ
しかしならば二対一という方がよほど以ての外ではないかと異議を唱えたビリア王女といつの間にか加わっていたプートン二人の説得により、加間との一騎打ちの形になったのだ。
対する両者の表情は対照的で、加間は嗜虐心にあふれた残虐な笑みを浮かべており、対する健斗は氷のような無表情だった。ナイトを脱いだ彼はジェシカ特性のボディースーツを纏っており、腰にはアルバート製の無骨なガントレットが拳銃のようにホルスターに収めてあった。
周りには王、そしてビリア王女とそれを囲う近衛兵たち。部座は二人からやや離れた位置で所在なさげにたたずんでいた。さらにこの一騎打ちの話を聞きつけてきたギャラリーが離れた位置で思い思いに話しながら二者を見守っていた。
健斗はそのギャラリーの中にコンパントとヘンリーの姿を発見した。彼の注視に気づいた二人は笑いながら手を振った。
彼はそれに答えようとしたが、彼と加間の間に立つ審判役を買って出た官僚の男の声にかき消された。
「両者、構え!」
官僚の男の声を境に、ギャラリーの話し声がぴたりと止んだ。加間はにやにやした表情のまま構えた。健斗は腰に吊ってあるガントレットに腕を突っ込み装着。ガントレットは圧縮空気を吐きながら彼の腕に嵌った。それと同時に首元からせりあがってきたマスクが彼の下顎を覆った。
空気が張り詰める。ギャラリーは息を飲んだ。
「始め!」
戦闘開始だ。健斗は目の前の敵を睨んだ。




