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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー
37/55

チャプター18  覚醒

 ロサンカで起きた事件は健斗の心に深いトラウマを刻み付け、彼の今までの価値観と心を粉々に砕いた。実をいうとロサンカ事件より以前の健斗は人々のために動いていたわけではなかった。


 健斗は散々に虐げられ、ボロボロに傷ついて絶望の底に沈みこみ、ふさぎ込んでしまいそうになった。だが完全に絶望の底に沈みこんでしまう前にアルバートとジェシカに救われた。


 彼を救い上げた二人は魔族の脅威に脅かされている人々を救いたいと語って聞かせた。その話は彼の心の中にぽっかりとあいた穴にぴったりとはまった。


 健斗は二人のその話に乗っかることにした。それは別に話に共感したというわけではなく、自分を助けてくれた二人の恩人へ恩返しをしたいという願いのため、いや正確に言うと二人に捨てられないために話を会わせたと言うのが正しいか。つまるところ彼は二人に依存していたわけだ。


 それから健斗は二人のために遮二無二体を鍛え、戦った。さらに彼らの好むような口調、態度に変えた。戦いに勝利し戻ってきたときに二人からもらう賞賛の言葉は彼にとって何物にも代えがたいものだった。逆に二人を心配させることは恩を仇で返しているような気がして深く恐れた。


 他人を心の底から思いやり身を粉にして働ける人は恐ろしく強いが、健斗は他者のためではなく身近な恩人のために、捨てられないために戦っていた。大義のために自らを削る覚悟ができていなかった。このままいけばいずれ限界が来ることを彼も無意識に感じ取ってはいた。


 だか結局健斗は覚悟を持つことは叶わなかった。一年間の訓練と二人との交流によって鳴りを潜めはしたが、心の深いところで彼はまだ自分を虐げていた者たちへの憎悪や怒りの火が燻っていた。二人に捨てられるのではないかという恐怖も彼の心の奥底に沈殿していった。


 そんな中途半端な心構えで戦いに挑み続け、ついに想像もしていなかった大惨事が彼の目の前で起きてしまった。


 健斗はそれに耐えられなかった。


 ロサンカが燃え盛る中、健斗のこれまでの価値観もうわべだけの他者への思いやりも燃え尽きた。地獄のような光景を前に健斗はこれは自分のせいで起こってしまったと思い込んだ。そう思った瞬間、健斗の心は粉々に砕け散った。


 粉々に砕け散った心は健斗の意識が途絶えている間に急速に再生を試みた。もう二度と揺らぐことがないように。もう二度と砕けないように。結果、新たな心はより強靭に再生された。もはや彼は生半可なことで揺らぐことはあるまい。


 そうして健斗の心の中で何かが死に、何かが生まれた。その際に健斗のこの世界に来た時に発現するはずだった才能と再生した心が化学反応のごとく共鳴しあい、生まれた何かは急速に育っていった。


 そして今日この日、命の危機と強烈な思いの爆発とが彼の中で育っていた物と相乗効果を引き起こし、ついに形を成して彼の外に放出された。






 --------------------------






 銀の光が健斗の体から迸るようにあふれ出て健斗の体を、破損したシルバーナイトを包み込んだ。銀の光に包まれながら、健斗は幽鬼のごとくゆらりと立ち上がった。


「何だ…?」


 今まさに杏の首を刎ねて処刑しようとしていたフィーアはドオッという音とともに発生した謎の銀の光に弾かれた様に背後に振り向き、その光の発生源である健斗を見て訝し気に眉をひそめた。


(何だ?あのガキはもう立てないほど痛めつけたはず。そしてこの光は…何かのスキルか?)


 フィーアはもはや杏のことなど眼中にないようで、向けていた大剣を倒れている杏から健斗へと向けた。


 銀の光はとめどなく健斗の体からあふれ出し、バチバチと銀の放電がしたかと思うとあっという間に健斗のを癒した。体の傷が治ったのと同時に、今度はシルバーナイトがまるで逆再生のように瞬く間に修復された。さらに、バキバキという異音を響かせながらシルバーナイトの形状が変化し、より機械的で攻撃的な外見へと変化した。


「何!?」


 フィーアはそのさまを見て驚愕の声を漏らすが、変化はそれだけにとどまらない。彼の背中に同様の放電現象が起きると、今度は足元の血だまりが彼の背まで這い上がり、血のように真っ赤なマントを生成した。


(マント…、いや、違う、あれはただのマントじゃない?)


 よく見るとそのマントは心臓の鼓動に合わせて明滅しており、輪郭は明滅に合わせて赤く輝いていた。


 劇的な変化を果たした健斗は俯いていた顔を上げた。フルフェイスヘルムで唯一露出しているその瞳は、体から湧き出ている光と同様に光り輝いていた。銀の光に。


「………」

『け、健斗!何が起きたんだ!君のエネルギーの数値が爆発的に膨れ上がった!なんだこれは!?これは…魔力じゃない?気でもないぞ!』

『健斗!一体何が!』

「ふ、ふん!土壇場でスキルに目覚めたか!だ、だがスキルが目覚めたところで力の差は歴然!もう一度灰になるがいい!」


 得体のしれない健斗の変化をスキルの発露と断定したフィーアは、予測不能なことがこれ以上起きる前に早々に排除しようと決めた。


「くらえヘルフレア!」


フィーアの掌から放たれた獄炎は、棒立ちの健斗へ一直線に突き進んだ。


『健斗!これはロサンカを焼いた魔法、いやあの時以上の数値だ!食らったらひとたまりもないぞ!』

『健斗!』


 二人の警告に、しかし健斗はその場から一歩も動くことなくフィーアから発されたヘルフレアに飲み込まれた。ヘルフレアはそのまま壁を突き抜け、部屋に風穴を開けた。


「フハハハハハ!まだ完全にダメージが抜けきっていなかったようだな!ハハハ!スキルが発露したところで結局の所何の意味もなかったな!」


 フィーアはもうもうと立ち込める粉塵に高笑いを上げた。彼は勝利を確信していた。あれをまともに食らって生きている者はいないと。だが、その煙が晴れると何食わぬ様子で立っている健斗の姿。


「馬鹿な!?なぜ生きている!」


 驚愕に目を見張るフィーアは、次の瞬間顔面に生じたすさまじい衝撃により吹っ飛んで壁にたたきつけられた。


「グハッ!!」


叩きつけられたフィーアは苦悶の声を発した。杏はその光景に目を見張った。さっきまで自分たちが手も足もでなかった者が、苦痛の声を発しているのが信じられないようだった。


 フィーアはめり込んだ体を壁から引きはがし、すぐさま体勢を立て直して顔に手を当てた。右頬が焼けるように痛む。その痛みから自分が殴り飛ばされたのだと悟った。見ると彼が立っていた場所に健斗が立って、杏に向けて手をかざしているではないか。


(ば…馬鹿な…っ!動きが全然見えなかったぞ!身体強化か!?それにしてはあまりにも力の上がり方が異常だ!それとあの光は何だ!?なんなんだ!?あれはスキルではないのか!?)


 フィーアの混乱をよそに、健斗は杏に手をかざして銀の光を浴びせかけた。


「健斗…?」

「……」


 銀の光を浴びた杏は体は先ほどの健人と同様に瞬く間に傷が癒えた。彼女は眼を見開いて驚き、すくっと立ち上がって不思議そうに体をペタペタと触った。


「な、傷が…すげぇ…疲れも取れちまってる!それどころか体に力が満ち溢れてる!お前いったいなにしたんだ!?」

「杏」

「おお!?なんだ!?」


 健斗はフィーアに顔を向けたまま杏に声をかけた。


「ここからそう遠くないところに塔が建てられている。そこに王族やらなんやらが幽閉されているらしい。そこへ行ってきて彼らの保護を頼みたい」

「うぇえ!?おい何言ってんだ!てか何でそんなこと知ってんだ!ってそんなことよかフィーア(あいつ)はどうすんだよ!」

「あいつは僕が何とかしよう」

「誰が私をやるってぇ~!!!一発当てられただけで調子乗んな愚図が!!!!」


 会話が聞こえていたフィーアはすさまじい憤怒とともに炎を開放。解放された炎はフィーアの体を包み込み、炎がはれると獄炎剣レーヴァテインとその剣と同じような真っ赤な鎧を身に着けていた。


 その鎧から発せられる熱は空気を焦がし、膨れ上がった暴虐そのもののような気にあてられた杏は意識が持っていかれそうになるのを何とか防いだが…。


「頼む」

「…分かった」


 杏はこの場にいても足手まといになりそうなことを悟り、防具生成で新たにコートを生成して仮面をかぶりなおした。


 健斗はそんな彼女に頷きかけ、そして目の前の敵へと向き直り、構えた。彼が構えたのと同時に杏は部屋に空いた穴に向かって走り出した。


「行かせるわけねーだろおおおおおおがああああああ!」


 それを見たフィーアは彼女に向けてレーヴァテインを一振りした。その一振りはから生じた凄まじい爆炎が、杏を灰にせんと迫った。


 しかし、爆炎は彼女に到達する前に健斗に防がれ四散した。杏は振り返ることなく部屋から飛び出した。彼は何とかすると言った。杏はその言葉を信じたが故に振り返らなかった。


「さて、これで一対一(サシ)だな。幹部殿」


 健斗は憤怒の視線をものともせずに杏が部屋から飛び出たのを確認してから悠々と構えて見せた。それがフィーアの神経を逆撫でした。


「貴様ぁああああ…ッ!」

「貴様貴様とそれしか言えないのか、そんなこと言っている暇があるならば掛かってこい。戦ってやる」


 シルバーナイトはフィーアに手招きして見せた。


「早くしないと杏が塔にたどり着いてしまうぞ。そうなればお前も上からのお叱りは免れんだろう。もっとも、生きていればの話だがな」

「なめるな小僧がああああああ!」


 激昂したフィーアは絶叫しながらシルバーナイトに飛び掛かってきた。


 超人同士の戦いが始まった。




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