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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト アウェイクニング・オブ・ニュー・パワー
31/55

チャプター12

「やああああ!」

「ぎゃあ!」


 私は魔族兵に向けて稲妻を放つ。稲妻に打たれた魔族兵は断末魔を上げながら痙攣して倒れた。


「よし、と。これで最後、かな?」

≪ハイ勇者様!今倒したので最後のようです≫


 通信から、オペレーターの人が私に教えてくれた。付近には痛みで呻き声をあげる魔族兵たちが倒れていて、兵士さんたちに次々と縛り上げられていた。


≪やはりまだ殺せませんか≫

「はい…。その…。」


 そう。だれ一人死んでいない。訓練のおかげで戦いへの躊躇いは消えたけれど、相手を殺す覚悟は残念ながらまだできていない。


≪まあ無力化できればそれでいいのです。わざわざ殺す必要性はありませんからね≫


 オペレーターさんが気遣うようにそう言ってくれて、少しだけほっとした。そうなのだ。無力化できるならそれでいいじゃないか。


 そう思ったところで不意に、初めての実戦の時のことを思い出してしまった。


 初めての実戦の日、私たちは魔族に占領された町に派遣された。今はまとまってじゃなくて別々に分かれて個人個人で動いているけれども、初戦闘ということもあって全員まとめて向かわされたんだ。


 別に私はその時ヘマしたわけじゃないし、緊張していたけど訓練通りに動けた、と思う。うん。光君なんて光でできた剣でバッタバッタとなぎ倒してたなぁ。


 でも違う。私や光君のことは問題じゃなくて、あの二人のことだ。


 加間君と部座君の二人は実践が初めてだとは思えないほど遠慮がなかった。部座君は幻影を見せて混乱している魔族兵に向かって稲妻を浴びせかけてた。しかも一発で気絶させるんじゃなくてわざと少し弱めた電気で痛めつけていた。加間君なんて、返り血を浴びるほど相手を強く殴りつけては恍惚としたように溜息を吐いていた。さらに二人は軽口をたたきあっていたのだ。


 そんな余裕があることに私は驚いてしまった。


 あまり褒められるようなことじゃないけど、私は戦闘が終わった後、人目をはばからずに吐いてしまった。光君は私ほどじゃなかったけども、やっぱり顔を青ざめさせていた。


 だって生まれて初めて人を傷つけたのだから当然といえば当然なのだ。


 なのに二人は笑ってた。まるで楽しいことを終えた子供みたいに。その時は忘れてたけど、あの二人は国王の命を受けて秘密裏に邪魔者を排除しているということをビリアに聞いたのを思い出して、二人にためらいがないことに納得がいった。


 まあともかく、あんな遠慮なく人を殺さなくてもいいということだ。


 私は頭を振ってそんな考えを追い出した。それから兵士さんたちに声をかけて先に戻ることを伝えてからオペレーターさんに通信を開いた。


「じゃあ、オペレーターさん。お願いします」

≪了解しました。これより返還します。3、2、1≫


 0と言ったところで私は光に包まれた。


 光が晴れ、目を開けると薄暗い室内と数人の英雄派の教徒の人たちが確認できた。


 ここは城の一角に設けらえた転送室で、まだそこまで多くの人を運べないらしく、だから少数精鋭で作戦に当たるとビリアは言っていた。それだけじゃなくて、魔族と人間とじゃあどう転んでも勝てないため、下手に犠牲を出さないためでもあるらしい。


「まあ本音はもし人間が勝ったとき他国に少しでも優位でいるためしょうね。あなたたち勇者は使い捨ての破壊兵器。減ったらまた呼べばいいから兵士の使用は最低限にする。まったく、お父様の考えそうなことだわ」と、ビリアはぼやいていたのを思い出した。


「お疲れ様です勇者様」


 そんなことを考えていたら教徒の人に声を掛けられたので私は軽く会釈して、そそくさと部屋を出て行った。私はあまり英雄派の人たちを好きになれない。だって誰もかれもが私たちに対しておかしな目で見てくるのだもの。


「お、滝沢か」

「あ、光君」


 部屋を出ると光君とばったり出会った。向こうもお疲れ気味のとこを見ると、彼もたった今帰ってきたばかりらしい。


「お疲れ。怪我はなさそうだな」

「まあね。さすがにあれくらいじゃどうってことないよ」


 それから私たちは他愛のない話をした。他愛のないと言っても出てくる単語は物騒なものばかり。魔力の量は増えただの武器がどうのだの。まったく、最近はこんな話ばっかりだ。こんな話ばかりだと普通の会話が恋しくなるというものだ。早くビリアに会って話がしたい。


≪勇者様勇者様!≫


 二人で話し込んでると、突然通信が開かれてオペレーターさんの声が飛び込んできた。


「あ、は、はい!どうしました?」


 私は光君の方を見た。どうやらこの通信は共有されているらしく、光君にも聞こえているらしい。


≪それがロサンカ方面へ偵察に出ていた兵士から緊急の通信が来ているらしく、ただいまそちらに繋げたいのですが、大丈夫ですか?≫


 私たちは顔を見合わせた。


 そして光君が通信に向かって大丈夫だと伝えた。


≪わかりました。では繋げます。3、2、1接続≫

≪こちらロサンカ!勇者様聞こえてますか!≫

「はい聞こえています。どうし」

≪ロサンカが!ロサンカが燃えている!クソッタレなんてこった!≫

「え?え?ロサンカ?」

「ロドニー王国の前にある大きな町だよ!おい!状況を伝えろ!」


 私にロサンカの街について教えてくれた光君はすぐに私から視線を外して鋭い声で通信に向けて怒鳴った。


≪ゆ、勇者様!はいロサンカ付近で多数の魔獣、魔族の死体を確認しそれを探ってロサンカが視認できる距離まで近づいたらいきなりロサンカからとんでもねぇ音がして、それと同時にロサンカが燃えだしたんです!黒煙が町全体から噴き出してとんでもない有様です!あれじゃ生存者は絶望的でしょう≫

「…まじかよ」


 光君は額に汗をにじませながらつぶやいた。その顔は今まで見たことがないくらい険しい顔をした。もし鏡があったのなら私も似たような顔をしていたと思う。だって町一つが消えたのだから。どれだけの人が死んだと思う?


 背中に冷たいものが走る。今までさんざん考えないようにしてたことがまた頭をよぎる。自分もそちら側に行かないとどうして考えられる?


 その通信のが切れた後、私たちは王様に呼び寄せられた。さすがの王様もいつもの余裕そうな態度を崩して額に汗を浮かばせながら明日以降の予定をすべて変更せざるを得なくなったと私たちに言った。


 加間君から抗議の声が上がったけれど、王様の怒気交じりの物言いにさすがの二人も口を閉じざるを得なかった。


 次の日に私たちは急遽ロサンカの街に飛ばされることとなった。本当ならば連絡があったその日に向かうはずだったのだけど、転送魔方陣に不調が出てしまいそれを直すのにっ時間がかかってしまい、向かうのが明日になったわけだ。


 ロサンカについた私たちが見たのは真っ黒こげになった町並みで、町の中心から火事は起きたらしく、端っこは比較的建物が残っていた。それでもほとんど黒焦げだったけど。


 魔族たちは占領した町に収容所を作るらしく、その収容所へ行くとなんと生存者がいたのだ。それも数万人も。


 でもその半分くらいがけが人だったから、怪我人を直すために追加で兵士を呼び出して、私も回復魔法を使えるからてんやわんやの大忙し。


 数は多かったけど、幸い私は広範囲の回復魔法を使えたから重症者以外はほぼ全員完治させることができた。それでも最後の怪我人を直し終えたのは2日目の午後、日が暮れて星が見え始めるあたりだった。


 で、その人は火災が起きる直前を見たと言って、私に聞かせてくれた。その人は比較的軽傷だったから後回しにされていたらしい。


「そん時はどうも騒がしくていつもより監視が緩んでたんです。んで、何とか収容所を抜け出して町の外へ逃げようとしたらですよ、とんでもない魔力を感じて振り返ったらどす黒い光が走って爆発したんです」

「でも爆発の瞬間俺は確かに見たんです。銀色の光がどす黒い炎を包み込んで和らげたのを。あれがなかったらきっとこの町はぶっ飛んで跡形もなかったですよ」ということらしい。


「そうなると、やっぱりロサンカにシルバーナイトがいたのね」

「うん。銀色の光が炎の勢いをやわらげたって」


 ロサンカから帰ってきた私は大急ぎでビリアのもとに行き、ロサンカの町できいたことを話していた。


「町一つ燃やせるとなると、十中八九幹部ね」


 幹部。その単語を聞いたとき私はどきんと心臓がはねた。ロサンカが消えたことで図らずもロドニー王国への道が開けたことになった。私たちはそこへ赴き、幹部と対決することに決まったのだ。


「2日後にロドニーへ入り国内の魔族を可能な限り倒し幹部との対決ね」


 幹部。町一つ消し去ることができるとてつもない力を持った魔族。そんな人相手に私が、私たちにどうのこうのできるのだろうか。


「町一つ火の海にできるような人相手に私たちが叶うのかな?」


 そんな不安感からか、つい弱音が口をついて出た。


 ぽつりとこぼした私の弱音に、ビリアは無言で私を抱きしめてきた。


「ごめんなさい。私には何とも言えないわ」

「うん。知ってる…、ていうかそこは嘘でもあなたなら勝てるとか言わない?」

「そう言いたいのは山々だけど、そう言って結局帰ってこなかった人がいたから…」

「…ごめん」

「いいの。それと、これが良いことかわからないけれど、多分ロドニー攻略時にシルバーナイトも来ると思う」

「でも負けちゃったじゃん」

「だからこそよ。彼とあなたたちが協力して叩けばいけるかもしれない」

「憶測じゃん」

「そう憶測。あなたが生きて帰ってこれるかどうかもわからない。私にはあなたたちに無事を祈るくらいしかできないわ」


 ビリアは私を抱きしめながら頭をなでてきた。それだけで、なんだかいけそうな気がするから不思議なものだ。


「うん。祈ってて。私たちが生きて帰ってくるように。私だってこんなとこで死にたくないもの」

「もちろん。言われなくたってやるわ。友達の無事を祈るのは当たり前のことでしょう?」


 ビリアに抱きしめられ、頭をなでられながら思った。きっとお姉ちゃんというものがいたならばこんな風なんだろうなって。


 作戦決行まであと二日。その間にできる限り準備をしなければならないと、私はきつく誓った。絶対に生きて帰りたいから。もうビリアに友達を失わせないために。









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