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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト ビギンズ
3/55

チャプター2

 光に自分たちには力などないといわれ、それに同意してうんうんと頷く健斗たちにプートンはきょとんとした面持ちをした。


 それから顎に手を当てて考えるように押し黙り、そして何か思い至ったようで手をたたいて一人納得してううんと頷いた。


「あ、あの」

「あぁそうでしたな。まだ我々の置かれている状況しかお話ししていませんでしたな。いや失敬失敬。興奮しすぎましたな」


 プートンは話を切り替えるためにゴホンと咳払いし、それから健斗たちの顔を一人一人見てから勿体ぶった様子で話し始めた。


「今までの歴史であなたたちのように別世界から勇者は召喚されてきました。例えば邪悪な精霊によって巻き起こした天災を鎮めるために。またある時は強大な力を持った龍の暴走を止めるために。そして今起きているような魔王軍の侵攻を阻止し、首魁である魔王を倒すためにと、様々な理由で勇者召喚はされてきました」


 と、話を区切って健斗たちが話についてこれているか確認し、各々の反応からついてこれていると判断したプートンは満足そうにうなずき、それから口を開きゆったりとした口調で話を再開した。


「今まで召喚されてきた勇者は初めから戦いに特化したものが召喚されたこともありましたが、文献では皆さんのように向こうの世界では非戦闘職だったという記録がなされているものもあります。実際に1年前に召喚した者等もそういう者たちでしたからな」

「ちょっと待ってください!つまり1年前にも私たちみたいに召喚された人がいるってことですか!」


 1年前に自分たちのような非戦闘員が召喚されてことを聞き、これまでプートンに話しかける機会を探っていた滝沢が口をはさんだ。


「えぇその通りです。え~」

「滝沢愛優です」

「勇者タキザワアユ様ですな!はい、約1年前にも勇者召喚を行いました。その時もアユ様のような元は非戦闘員だった者たちが召喚されたと聞きます」

「聞きます?プートンさんはその時ここにいなかったのですか?」

「えぇ。その時は今よりも魔族の攻撃が激しかったもので、あちこちの飛び回っていたのでなかなかこの王都に戻っている暇がありませんでしたからな。それと私のことはチリーと呼んでくだされ。私ごときが勇者様にさん付けで呼ばれるなど恐れ多いことでございます」


 彼女はプートンの説明を聞いて、どうにか納得できたようでしぶしぶ口を閉ざそうとして、ある事に気づいたようで早口であることを聞いた。


「あ、そうだ!チリーさん!もう一つ!もう一つだけ質問いいですか?」

「もちろんですとも」


 彼女がもう一つ質問したいとプートンに要求し、彼はその要求を喜んで了承した。


「では、その今言っていた1年前に召喚されたって人たち、いったいどうしたんですか?さっき1年前にあることが起きて魔族の進行が止まっているとか言ってたじゃないですか。もしかして何か関係があるんですか?」


 滝沢からの質問に何と答えたものかというように顎をさすっていたプートンは、彼女の気丈な視線に、結局言葉を濁さずありのままを伝えることにした。


「はい。1年前に召喚された勇者様方は魔族の主要な拠点に特攻を仕掛け、死亡したと聞かされています」

「なっ!?」


 1年前に召喚された者たちは死亡したと聞かされ、滝沢は絶句した。健斗たちも言葉にならないというように口を開けて呆けていた。


「では、そろそろ話を戻しましょうか」


 絶句して言葉を発せられない彼らの様子を見てこれ以上この話に触れないほうがよさそうだと判断したプートンは、話を大いなる力の方へ戻そうと提案した。


 反対意見はない。


「ゴホン!ではそろそろ皆様方も気になっているであろう大いなる力についてお話いたしましょう」


 そう一言言ってから、その大いなる力について話し始めた。


「あの部屋にある魔方陣は別世界から勇者を召還することができ、召喚された者はその際に信じられないような力を得るといいます。それゆえにもとは非戦闘員だった者が召喚されても問題がないというわけですな」

「はーい!はい!質問で~す!」


 ここで加間が手を挙げた。


「はいなんでしょうか。え」

「加間犬助だぜ~爺さん!」


 加間の態度にプートンは一瞬不快そうに眉をひそめたことを健斗は見逃さなかった。


 ほんの一瞬不快そうにひそめた眉は、すぐににこやかな笑みに変わった。どうやらそのことに気づいたのは健斗だけのようだ。そのことから加間の不快さは万国共通らしいと、つい失笑を漏らした。


「して質問の内容は?」

「ズバリ!その力ってのはどんなのなんですかい!」

「おぉ!今からそのことについてお話ししようと思っていたところです。さすがは勇者殿、鋭いですな」

「いや~、それほどでも」

「加間さんさすがっすね!」


 プートンに褒められ、得意げに身をのけぞらす加間と部座。それを冷ややかな目でみるプートン。二人は今のが皮肉であると理解できていないようだった。プートンの冷ややかな視線に気づいた三人は、二人にプートンと同じように冷ややかな視線を浴びせた。


 それから二人が落ち着いたころ合いを見て、プートンは話を再開する。


「力は人によって異なりますが、例えば身体能力を向上させる能力が凄まじかったり、他には魔術が十全に扱え人知を超えた魔術を扱えたりと様々ですじゃ」

「じゃあそれがあなたの言う」

「そう、それが大いなる力。人間では到達することが難しい力をすでにあなたたちは身に宿しているのです」


 そう言われた光たちは、そんな力が自分たちに宿っているのかと、信じられないといったように自らの体を見た。


「本来ならばこの場で力の確認をしたいのですが、もう遅い時間ですので、明日国王の間で王のご同伴の下で勇者様方のお力を確認することにいたしましょう」


 そう言って、手をパンパンとたたいた。


 それを合図に、部屋の外で待機していたであろう使用人たちがぞろぞろと入ってきて、机の上に次々とうまそうな料理が乗った皿を置いて行った。


「もっといい場所で夕食をとらせたかったのですが・・・・、いやはや申し訳ない」

「そんな!謝らないでください」


 そう言う光だったが、その目は出てきた料理にくぎ付けとなっていた。


「イサム様も辛抱たまらなそうですので、いただくとしましょうか」


 賄われた夕食は非常に美味であり、特に健斗が好んで食べたのは分厚いステーキであり、その際これは何の肉かと使用人に聞き、食用の高級ワイバーン肉であったと言われ彼等は非常に驚いた。そんな生物がいるのかと。


 夕食を満足に食べ終えた健斗たちは、そのまま用意された部屋へと連れていかれた。


 案内された部屋のベットに腰かけた健斗はこの日に起きた非常識なことに思いをはせた。


 まったくとんでもない一日になった。まさか異世界とは。


 今まで一度は思っていた別世界への召喚。そして大いなる力の入手。その力を使って華々しい活躍をしてたくさんの人に称賛される。


 彼はベッドに横たわった。


 一度は夢見た英雄譚。稚気じみた夢。それがまさか現実となろうとは。


 健斗の心は期待に満ちていた。最近読み始めたアメコミの内容そのままだったからだ。平凡な少年が突然スーパーパワーを与えられ、それを駆使して巨悪をくじく。


 彼は期待に満ちた想像を膨らましていたが、それも長く続かず、意識は闇へと溶けていった。







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