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エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


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十七日目の夜・合流


 夕方になって首都の町に、ドラゴンのユランが頭の上に子供たちを乗せてやって来た。


「馬鹿者!」


大使館の作戦室でサガンがヨデヴァスを殴り飛ばした。


サガンの本気の怒りに、ヨデヴァスは言葉も出せずに転がっている。


勇者サンダナの姿をした妖精ガンコナーのサガンは、とにかく女性以外には厳しい。


「勇者様、ごめんなさい。僕も殴ってください」


「僕も!」


後から合流したユイリと、首謀者であるフウレンが、ヨデヴァスを庇うように立ち塞がっている。


ふんっと鼻から息を吐き、「一発だけで気が済んだ」とサガンはそれ以上は手を出さなかった。


 フウレンも叱られていたが、親バカのハクレイのそれはどう見ても迫力が無かった。


「来たものは仕方がない」


子供たちは早々に許された。




 始まりの町領主館にも、エルフの森の長老にも、知らせは出した。


子供たちのことは「親の元へ遊びに行った」ということにしている。


すでにタミリアは戻って来ており、ギード一人が不明の状態だ。


しかしギードに関しては誰も心配していなかった。


「あいつなら何日かしたら平気な顔で戻ってくる気がする」


誰もがそう思っているようだった。




「タミちゃん!」「うわああんっ」


タミリアが部屋へ入って来ると、双子は思わず駆け寄り抱き付いた。


「どうしたの、何を泣いてるの」


タミリアには行方不明だった間の記憶はない。


子供たちと別れたのもつい昨日のことだ。


付き添っている眷属精霊のエンは多少事情を知っているというだけで詳しくは知らない。


すべてはギードが帰って来るまで待つしかないのだ。




「すまない。あれが考えなしのせいで」


サガンがこめかみを抑え、皆に謝罪している。


ヨメイアの気性は少なからず知っている者ばかりなので、ただ苦笑している。


 少し遅れて夕食前にはイヴォンも到着した。


自分の子供たちは置いて来たが、『湖の神』が宿った丸い聖鏡を手にしていた。


イヴォンはタミリアに会うと、無言で肩を抱いた。


「何ですか、師匠」


タミリアが本気で気色悪がったので、そこはごつんと拳骨を落とす。


「まったく。心配させやがって」


ぶつぶつ言いながらも笑顔で駆け付けた子供たちの頭を撫でていた。


とにかく子供たちが落ち着くまで会議はお預けとなった。





 夕食後、子供たちが寝たことを確認した上で、作戦室に結界が張られた。


「タミリア、ギードを救出するぞ」


『国王の代権者』であるイヴォンが指揮を執る。


「そんなことして、教会から苦情が来るんじゃない?」


タミリアの心配はもっともだ。『大神』に対する不敬のように感じるだろう。


「いや、これは試練だそうだよ。それを突破するためには手段は選ばなくても良いそうだ」


エグザスがいつも通り真面目な顔で教えてくれた。


所詮『神』とその他の種族では力が違い過ぎる。


特に制限を指定されている訳でもないのならば、何をやっても許されるというのが教会の意向であった。


納得して頷いたタミリアの横で、ハクレイがエグザスを睨んでいた。


「『大神』様は何でギードにそんなに肩入れしてるんだか」


試練を与える、ということは彼に特別に期待をかけていると思わざるを得ない。


「まあ、海上輸送なんて考える奴はあいつぐらいだろうしな」


サガンは会議用の椅子ではなく、部屋の隅の柔らかい長椅子に深く腰掛け、足を組んでいる。


タミリアの護衛である最上位精霊のエンと二人、ちびちびと酒を飲んでいた。


 ヨメイアは今回の作戦には参加させてもらえなかった。


子供たちに情報漏洩させたので、もちろんサガンの罰が下っている。


今頃はダンスの特訓中だろう。




 その部屋とは別の場所で、ギードの眷属のルンが『湖の神』と共に待機していた。


そこへ炎のドラゴンであるユランが訪れた。


「初めてお目にかかる。わらわはユランと申す」


ドラゴンと『神』は全くの別次元でのそれぞれが最高位に当たる。


力的にもどちらが上とも下ともいえない。


ゆらりと聖鏡から光の珠が浮かび上がり、半透明の女性の形を取る。


この『湖の神』には色は無い。強いていえば『水の色』である。


「丁寧な挨拶、痛み入る。我は『王国の守護者たる湖の神』である」


ユランの手土産の極上の酒を、ルンが珍しいガラスのコップを用意して注いでいる。




「其方は今回のことをどう思われる」


『湖の神』はユランの酒に気分良さそうに話かけてきた。


わらわは兄であるズメイがそそのかした故、申し訳なく思っている」


ふふっと笑うような気配がした。


「まあ、雪のドラゴンのことは気にしておらん。あれは利用されたのだ」


「利用とは?」


『湖の神』は『大神』と『エルフの森の女神』との確執の話をした。


「どっちもどっちだと思うがの」


それでも自分が守るべき民を放棄した『女神』に関しては同情出来ない。


「現在でも結界の中に閉じこもり、そこの民に迷惑をかけ続けている」


いくら『大神』が気づかせようとしても、銀青のハイエルフが間に入って何かを吹き込んでいるのか、決裂するのだ。


「それで『大神』様も困っておられた」




 ユランはそれを聞いて驚いている。


「まさか、その解決をギードに?」


「ギード、と言ったか、あの闇属性のハイエルフは」


『湖の神』も何度か目にしている。


可愛がっていた『泉の神』をその身に住まわせているハイエルフの男性。


「もちろん、あのハイエルフだけでは無理であろう」


だから自分がわざわざ遠く王都から出て来たのだ。


「しかし、今一つ力が足りないような気がする」


積み重ねられた結界の層はだいぶ古く、ますます強固になっているようだ。


「あれを破壊せねば『女神』は出て来れぬだろうな」


均衡する力ではなく、圧倒的に屈服させなければならない。


『湖の神』はそう考えていた。




 ユランはずっと考えていたことがある。


大戦を機に、同族の者たちは静かな場所へ移住して行ってしまった。


兄である雪のドラゴンのズメイは、同じ種族であるドラゴンたちになじめず、自分だけ王国の山中に残った。


ユラン自身は幼く、身体に怪我を負っていたこともあり、ズメイが守るという形で置いて行かれた。


それを恨んだことはない。


ユランには母親の仇を取るという野望があったからだ。


しかしそれもギード、いや、ギードの子供たちによってせん無いことと知った。


わらわはギードたちに恩返しがしたい」


炎のドラゴンの言葉に『湖の神』は目を瞬く。


「『湖の神』よ。わらわの力では足りぬだろうか」


「微妙だな」


その答えにユランは唇を噛んだ。



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