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エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


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十六日目の朝・神同士


「ギードさまああああ」


早朝、嫌な予感がしつつ結界の壁まで来ると、水の最上位精霊のルンに抱き付かれた。


コンと一緒に結界の底を抜けて来たようだ。


「よしよし、わかったから離れろ」


ぐずぐずとしゃくりあげるほんわか精霊の懐から『泉の神』が出て来た。


ギードは軽く礼を取り、にやりと笑みを浮かべる。


「お久しぶりですね。ご心配をおかけしました」


半透明の青色の『泉の神』はギードの正装姿で、拗ねたようにぷいっと顔を背けた。


「われはお前のことなど心配しておらんぞ」


はいはい、と適当に流し、一旦借家へと戻ることにする。




 ギードが朝食を作っている間に、コンが家の中に土魔法で大きめの円卓と椅子を作る。


ルンは家の隅々まで洗浄し、それでも気が済まなかったらしく外の温泉風呂まで掃除していた。


「そろそろいいかな?」


ギードは戻って来たルンを円卓に座らせ、眷属用のカップを出して酒を注ぐ。


自分の分は薬草茶を出し、この部屋だけの防音結界を張る。


久しぶりの眷属会議だ。まだタミリアもハートも起き出してこない。


「まずはコン。連絡係、ありがとう。ルンもよく来てくれた」


軽く礼を取る。


「『泉の神』様もご健勝でなによりです」


半透明の身体で頷いている。




「それでどうやってここから出るのだ?」


『泉の神』も精霊たちも元から実体が無いので、結界の底や綻びから抜けることは出来る。


だがギードたちはその身体をどうやって外へ出すのかが問題になるのだ。


「『神』のような大きな力があれば通せるかもしれん」


ギードはにたりと笑う。


「ええ、期待してますよ。『泉の神』様」


「おい、われに丸投げする気か」


むむっと『泉の神』は眉を寄せて考え込む。


「最悪一人だけでも何とかなりませんか」


ギードは相変わらずへらっとした顔をしているが、口調は重い。


「しばらく考えさせろ」


この辺りを調べて来ると言って『泉の神』の姿が光の珠となり、そして消えた。



◆ ◆ ◆



 神殿の中、銀青のエルフは半透明の『女神』と話をしていた。


「それでは、あの黒髪のエルフがこの町に眷属を呼び込んだのですね」


「ええ、それは確認しました」


しかも一体ではない。


「今も新たに二体入って来たようですわ」


銀青のエルフはぎりっと唇を噛んだ。


「この町で勝手なことを!。許せん」


銀青の髪のハイエルフが吠えた。


もう我慢出来ないと飛び出そうとする。


「待ちなさい」


『女神』の言葉に振り返った代理のエルフの目が吊り上がっていた。




「何を吹き込まれたんです?」


銀青のエルフは『女神』に詰め寄った。


「貴女があの漂流者のエルフと会っていたのは知っているんだ」


領主の関係者には放置しておけと言いながら、このエルフはずっとギードを監視していた。


例え一瞬でも『女神』と自分以外のエルフが接触することは許されない。


何のためにエルフの森を抜け出して来たのだ。


「貴女を守るのはこの私です。勝手なことをしてはいけない!」


『女神』は困惑する。


彼は焦っている。また『女神』を傷つける者が現れたのだ。


「私にお任せください」


『女神』が止める暇もなく神殿を出て行った。




 ため息を吐く『女神』の前に光の珠が現れ、エルフの姿を取る。


青い半透明の姿は、『女神』の知らない者であった。 


「なるほど」


「何者です」


「何って、わかるでしょう?」


しばらくじっと見ていた『女神』は信じられないという顔になった。


「新しい『神』なのですか?、わたくしが知らない『神』です」


「ええ。貴女は『エルフの森の母なる木の女神』様ですね」


「どうしてそれを?」


驚いた顔が恐怖を含む。


「さあてね」


『泉の神』はギードの黒い笑顔を自然と真似ていた。




『泉の神』は意識自体をギードと共有している。


結界で阻まれていたが、やっと側に戻ることが出来たおかげで、今までのギードの様子が手に取るようにわかった。


『エルフの森の女神』とは思わなかった。ギードもかなり驚いていた。


「エルフの神が何故獣人を庇護しているのだ?」


翡翠色の『女神』は目を逸らす。


「獣人なら素朴で自分の言うことを素直に聞く、とでも?」


『女神』の身体が一瞬波打つように揺れた。


わたくしは彼らにわれて助けただけです」


「ほー、そして彼らを飼いならしたと」


『女神』は顔を上げ、『泉の神』をきつく睨んだ。


わたくしは彼らのためにー」


「では、この結界は何ですか?」


「これは『大神』様がー」


『泉の神』はじっと『女神』の顔を見つめている。




「『大神』様は貴女に森に戻るよう説得されたのではないですか?」


『泉の神』の言葉に『女神』はこの町に流れてきた最初の頃を思い出す。


(あれが説得?)


「ただ、戻れとだけしか言われていませんわ」


黙っていると力ずくで戻そうとしたのがわかった。


だから拒絶の結界を張った。


驚いた『大神』は、それならばとその上に結界を張り、外との接触を禁じた。


それ以降の話し合いも何度か行われたが、その度に結界の層が増えることになった。




 最初は人の出入りも交易も自由に行えたのだが、結界の層が増えるとだんだんとそれが難しくなっていった。


「町の人々の生活に支障が出始めたでしょう。どうして止めなかったんです?」


『女神』が一言『大神』に嘆願すれば、住民たちは助かったはずだ。


わたくしの代理であるエルフが、住民がいたほうが『大神』様はご無体をされないだろうと」


『女神』だけだったらとっくに潰されていたと考えたらしい。


「そんな言葉を信じたと。『大神』様の説得よりも、ですか」


「説得などではありませんでした。あれはただの命令です!」


声を荒げた『女神』に『泉の神』はため息を吐く。


「当たり前じゃないですか。『大神』様は全ての生みの親。自分の造ったモノに命令してもおかしくはない」


ぐっと言葉に詰まりながらも『女神』は不遜な態度を変えようとはしなかった。




「それでも、わたくしは嫌だったのです」


自分が必要とされていない場所に戻ることが。


(ばかばかしい!)


『泉の神』の中にギードの意識が流れ込んだ。ずっと『女神』との会話を聞いていたのだろう。


(そのために、最初の人族の町も、この獣人の町も被害を受けているというのに)


『泉の神』はギードが『女神』の行いに怒る気持ちもわかる。


(しかし、お前は『神』とはそういうものだから構わないと言ったじゃないか)


ギードと『泉の神』は意識の中で会話する。


(それを受け入れるしかない、と言ったのです。文句は言わないとは言ってない)


こいつも勝手な奴だと『泉の神』は苦笑する。




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