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一日目の昼下がり・金策


 銀の短剣をまじまじと眺めていたハクローは、


「町に俺、えっと、私の知り合いの宝飾店があります。そこで売れると思いますよ」


と答え、ギードはそこへ案内してもらうことになった。


ハクローと部屋を出る前に、ギードはハートに近寄って行く。


「ハートさん。申し訳ありませんが、しばらく妻に付き添っていていただけませんか?」


本当は男性より女性の方がいいのだが、ギードはこの気弱そうな青年なら大丈夫だろうと思った。


「え、あ、はい」


ハートは思わず了承の返事をする。


「よろしくお願いしますね」


にっこり笑ったエルフの笑顔は、そんなに黒くはなかった。




 ギードはハクローに町を案内してもらう。


ここは港町で、海岸線は砂浜と岩場がある。海に張り出した岩場が港を囲い、嵐から船や町を守る自然な入り江となっていた。


漁をするための船がたくさん繋がれた桟橋があり、きちんと整備されているのがわかる。


 平地はあまり無く、山に向かってゆうるりと坂道が続いている。


山の上へ向かうほど大きな家が増えているのが見えた。




 ハクローに案内され羊の絵が描かれた看板のある宝飾店へと入る。


店主は羊の女性獣人だった。


ギードを一目見て気に入ったらしく、ハクローの止めるのも聞かず、大金を積み上げ始めた。


「あ、ありがとうございます」


ギードは苦笑いを浮かべるだけだ。


祭礼用の凝った作りとはいえ、銀細工の短剣は二、三年は遊んで暮らせる金額になった。


「いえいえ、お気になさらず。あの、もしよろしければ今度、お食事にでもー」


熱い視線でやたらと触ろうとする女性店主の手を逃れ、ギードたちは早々に店を出た。


「なんか、すみません」


知り合いらしいハクローがしきりに謝るが、ギードは高く売れたのだから気にしないと笑った。




 お金を手に入れたギードは、次に服飾店への案内を頼んだ。


「自分用なので庶民向けの古着屋でいいですよ」


「あー、この町では古着は難しいです」


ハクローが申し訳なさそうに近くの店へと入って行く。


「様々な獣人がいますので、その身体の特徴にあった服に仕立て直しすのが普通です」


「なるほど」


ハクローが店員と交渉し、奥へと通される。


てんのような鮮やかな黄色の毛並みの獣人の店主が出て来た。


そこで基本的な見本の中からギードの体格に近い服を選び、仕立て直しをしてもらうことになる。


慣れたものでお茶をいただいている間に仕上がってきた。


短時間にも関わらずしっかりとした縫製で、これなら実家が同業で目が肥えているタミリアでも大丈夫だろうと思われた。


「申し訳ありませんが、宿へ使いを出してもらえませんか。妻の分も購入したいので」


そろそろタミリアたちの食事も終わった頃だろう。妻を呼びたいというギードの頼みに、店員は快く応じてくれた。




 タミリアたちを待つ間に、ギードはその店で歩き易い革靴もあつらえ、下着や身体を拭く大きめの布地、鞄などを購入した。


そして、今まで自分が着ていた黒い礼服を差し出し、


「この服を買い取っていただけませんか?」


と店主に訊ねた。


「こ、こ、こんな上等の服地、豪華な装飾など、私どもは今まで見たこともございません。とても値段などつけられません」


と、断られてしまった。


「先ほどの短剣の代金もありますし、当分の間の資金としては十分なのではないですか?」


と、ハクローも言う。


「自分は商人です。しばらくはこの町にいる事になりそうですから、まずは拠点を手に入れて、何が出来るか考えてみようと思っています」


ギードは領主の息子に、空き家を借りたいと思っていることを話す。その為の資金にしたい。


「不便な場所でも構いません。出来れば木の多い所がいいですね。エルフですので」


ギードの言葉にハクローは物件を探すことを約束した。




「引き取ってもらえないとなると、何処かこの服で借りられる金貸しでも紹介していただいてー」


このギードの言葉に服飾店の店主が慌てた。


「そ、それなら、うちでお預かりして資金をお貸しします」


店主は、こんな素晴らしい服を価値のわからない者に渡すことが不安だと言う。


店の奥に飾って職人たちの手本にしたいと申し出てくれた。


この服を店で預かっている間は、定期的に決まった金額を支払うという契約となった。


 しばらくして、タミリアとハートが仲良さそうに会話をしながら店に入って来た。


先ほどとは全く違う普段着姿のエルフに驚いている。


ギードの黒髪はエルフとしては珍しいが、獣人や人族の中ではごく普通の色である。


背丈もエルフの平均的な身長より小柄なギードは、人族の女性としては高めのタミリアとほぼ変わらない。


白狼やハートよりも背が低く、耳さえ隠してしまえば誰にもエルフとは気付かれない。




「タミちゃん。これで好きなだけ服や小物を選んで」


そう言ってじゃらりと重い革の小袋を渡す。


受け取ったタミリアは、中身をハートと共に確認して驚いている。


それでもギードがにっこりと頷くので、ふたりで店員と相談しながら選び始めた。


短時間でちょっと仲良くなり過ぎだと思ったが、タミリアが楽しそうなので、ギードはため息だけを吐き出した。


 仕立て直しが始まると、出来上がったものをすぐに確認するためにタミリアは縫製室に入ったきりになった。


(記憶は無くてもやっぱり服飾商会の娘、ってことか)


 仕立て直しを待ちながら、ギードはハートとお茶をいただく。




 先ほどタミリアたちが賑やかに服などを選んでいる間に、ハクローは仕事のために帰って行った。


「こんな時間からお仕事なのですか?」


「はい。先輩が勤めているのは夕方から営業の飲食店で、えっとー」


「ん?。なんか変わった店なんですか」


ハートは少し迷ったが、嘘を吐いたり隠したりするのも嫌だった。


「あー、はい。えっと、お客様は女性が多くて、接客するのは白狼先輩のようなイケメンばかりなんです」


「へー、女性が接客する店は多いけど、色気のある男性が接客か。それはいいかも知れないな」


ギードが馬鹿にしたりせず、真剣な顔で商売の話をしているのがハートはうれしかった。


「実は私もそこの従業員の一人なんです」


ついそう言ってしまった。


「そうなんですか。では今日はお仕事はお休みですか?」


ハートはぎくりとする。


「あははは。ま、そんなとこです」


ハートは、店を休んでいる原因がギードたちであるとは言えなかった。


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