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エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


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八日目の夕方・領主の帰還


 夕方、タミリアとハートが戻って来た。


高級商店街で温泉用の魔道具を買って来てもらったのだ。


「すっごく高かったわよ」


「ええ。あんまり買う人がいないので喜ばれましたけど」


「へ、へえ」


ギードは引きつった笑顔を浮かべながら、高級そうな魔道具を受け取った。


それをハートが聞いてきた通りに設置し、何とか温泉には入れるようになった。


窓は湯気を逃がすために高い位置にあるので問題ないだろう。


一応脱衣室と浴室の仕切りには大きな布を使っている。




「扉がまだだから、お天気が良い日しか入れないな」


それでもタミリアはうれしそうだ。


「一番!、私が一番でいい?」


「いいよ」


ギードが頷くと、すぐに用意をして入って行った。


「あちっ、あっついいいい」


布を身体に巻き付けただけの状態でタミリアが家に飛び込んで来た。


「ちょ、タミリアさん、まずいですって」


真っ赤な顔でハートがタミリアに着替えを押し付ける。


「だって、湯屋じゃないんだから湯着はいらないでしょ」


いくら夫婦とはいえ、ギードには刺激が強すぎる。最近はずっとお預け状態なのだ。


くらくらしながらギードがちらりとハートを見ると、彼はそっちにはあまり関心を示していなかった。


(ふむ)


獣人の女性たちに異性扱いされないのは人族だからだと思っていたが、少し違うのかも知れない。


ギードは今さらながら、ハートが少し変わっていることに気がついた。




 温泉の温度調整の魔道具を操作し、ちょうどよい温度に設定する。 


タミリアが温泉風呂から上がり、今、入っているのはハートだ。


ギードは夕食の用意をしていた。


「タミちゃん。ハートさんって男性としてはどうなの?」


「どうって?」


タミリアはギードから果実汁をもらって飲んでいた。


(あー、脳筋には向かない質問だったか)


脳筋にとって異性的魅力といえば、力が強いことが一番だ。


ギードもハートもタミリアより弱いことは間違いないので、魅力など無いに等しい。


「ハートさん、ねえ」


タミリアはこくこくとカップの中身を飲み干す。


「あの人、男性に見えるけど、中身は女性なんじゃない?」


「はあ?」


長く一緒にいればいるほど、タミリアはそうとしか思えなくなったと言う。




 そう言われてギードはスレヴィのことを思い出した。


彼はエルフの男性でありながら、ある事情から子供の頃からずっと変装の魔道具を使い、女性として生きてきた。


そして今では王国の王太子妃である。


実は男性であることは国民には公表されていないが、知っている者もいる。


それでも不問にされているのは、彼自身が妖精王の子であることと、何より王太子との間に強い絆があったからだ。


まあ、あれは外見と中身が一致しないというか、あまりにも特異な例だ。


その変装の魔道具をスレヴィが使っていなかったら、ハートのようになったのかなと思った。


(なるほどなあ)


しかし魔力が全く無いハートが変装の魔道具を使えるはずはない。


「ありがとうございました。いいお湯でした」


ギードとタミリアは話を打ち切って、戻って来たハートと共に夕食にする。



◆ ◆ ◆




 その日、領主館には動きがあった。


町の不足品などを仕入れに出かけていた領主の一行が戻って来たのだ。


彼らは頂上にある結界の一部に、自分たちだけが通れる出入り口を持っていた。


それが神殿の裏山にあることはギードも確認している。


領主館では使用人たちがずらりと並び、出迎えた。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


領主は豊かな銀色の毛並みの大型の狼獣人である。




「すぐに配布の手配を頼む。皆、肉を待っているであろう」


使用人たちが手馴れた様子で品物を小分けしていく。


そこへ使用人の狸の女性獣人が少し戸惑った顔で領主に近寄った。


「申し訳ありません。そのことで少々お話が」


「ん?、何かあったのか?」


女性獣人が「失礼します」と領主に耳打ちをした。


しばらく黙って聞いていた銀狼の獣人は、だんだんと顔色を変え、


「ハクローを呼べ。すぐにだ」


大声で使用人たちに指示を出した。




 ハクローは、父である領主が町に戻ったと報告を受ける。


前日の肉祭りに参加していた従業員も多いため、今日は店は臨時休業である。 


どうせ報告しなければならないと思っていたので、すぐに館に向かう。


「領主様、ご無事で何よりです」


獣人たちにとってはこの町の外は全て危険地帯ということになっている。


ハクローはすでに家を出ているため、父親を呼ぶ時は領主様と呼ぶようにしていた。


「報告があるそうだな」


銀狼の父親と、二人の灰色の毛並みの狼獣人の兄も並んで座っている。


五男であるハクローのあと二人の兄はすでに亡くなっていた。


「はい。まずは漂流者がありました。今回は二名です」


一度に複数人の漂流者がいることは珍しくない。


「人族の女性と、もう一人はエルフの男性です。二人は夫婦だそうです」


「待て。何故夫婦だとわかる」


長兄の薄い灰色の狼獣人がハクローを睨む。


「エルフの男性は記憶があります。彼がそう言っております」


「記憶持ちだと!。それは本当なのか」


次兄は少し黒に近い灰色をしている。


「はい。兄様方、このエルフは黒い髪をしており、かなり変わった感じがいたします」


領主一族の狼獣人たちはむぅと考え込んでいた。




「わかった。一度神殿のエルフ様にお知らせして指示を仰ごう」


「承知いたしました」


領主の一言に、息子たちが一斉に頷く。


「領主様、兄様。お疲れでしょう。今日のところはお休みください」


「ああ、そうしよう。うちの温泉が恋しくてな」


「まったくです」


どっと笑いが起きる。




 あまり深くは考え込まないのは獣人たちの良い所かもしれない。


久しぶりに家族が揃い、領主の妻や息子の嫁や孫たちも集まり賑やかな夕食を取る。


「昨日は海岸の広場で肉を食べたよ!」


銀狼は小さな孫娘の獣人からそんな話を聞いて驚く。


「はい。大きな海獣を漂流者のエルフ様がお仕留めになって、その肉を住民全員に振る舞ってくださったのです」


息子の嫁がその様子を詳しく教えてくれた。


「エルフか。少々厄介かも知れませんね」


海獣を仕留めるほどの魔力を持つエルフを、次兄は警戒している。


「いや、魔力があるからこそ、無害とも言える」


長兄は今までの経験から魔力の多い種族は長生き出来ないことを知っている。


ハクローは領主である父親の様子をうかがう。


捕らえて排除に動くのか、懐柔しようとするのか。


明日の神殿での話し合いでその方向が決まるのだ。




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