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夜明け・旅の翼から交渉へ


(ルン。どうだ?、こっちの状況は掴めているか)


(はい、ギード様。大丈夫です)


ギードとその一行は、今、闇夜の中を飛んでいる。


どうやらズメイはギードたちに『大神』のいる場所を知られたくないらしい。


エルフであるギードには暗闇でも見える夜目がある。


しかし白い鱗が輝くドラゴンの巨大な背にいるため、地上を確認することが出来ていなかった。


 ギードは「どうせ『海の大神』に会いに行くのだから、海上に決まっている」と、眷属である水の最上位精霊ルンに自分たちを追尾させていた。


(そうか。でも無理するな。気づかれたと思ったらすぐに逃げろ)


(はい、ギード様。気を付けます)


緊張した念話が届く。


相手は『神』だ。何があるかわからない。念には念を、ということである。



◆ ◆ ◆



 ギードの結界と触手に守られ、タミリアとエグザスは快適に過ごしている、かと思えば、そうでもないようだ。


「うーん、どこを見ても真っ暗闇かあ」


「えー、なんか言いましたか?」


身体を寄せ合っているギードたちと違い、エグザスは骨板一つ分離れた位置にいる。


エグザスの呟きはギードたちには届かない。


彼も脳筋の端くれ、高い場所が苦手とか、暗闇が怖いというわけではない。


周りの景色が見られれば良かったのだろうが、暗闇の中では何も見えず、単調だ。まあ、明るかったとしても海の上。周りは空と海の青さだけである 。


ただ退屈な時間が過ぎる。




 ギードは、ズメイが時折、方向を変えているのを感じていた。


どうやら真っ直ぐに飛べばそう遠くはない距離を、少しずつ気づかれない程度に軌道をずらし、遠回りで飛んでいるようだ。


「まだかかるのかしら」


タミリアの言葉にズメイから答えが返る。


「もう間もなくだ」


ギードの結界へ直接声が送られてきた。


おそらく退屈し始めたタミリアに気づき、ズメイはきちんと目的地へと軌道を修正したようだ。


 タミリアとの会話でズメイの意識がそちらに向いているうちに、ギードはその身体を見る。


ドラゴン本体をこんなに近い場所で触り放題なのは滅多にないことだ。


ふたりがいる場所はおそらく首の部分の一部。


(鱗は固いが、やはり弱点はあるんだな)


ズメイがこちらに顔を向けた時に、ドラゴンの弱点と言われている鱗が見えた。少し色が違う、あごから首に向かう位置にある一枚の鱗だ。


色々な説はあるが、ドラゴンを作った神が強すぎる者に対してただ一つ用意した欠陥だといわれている。


ギードはそれを何気なく盗み見る。気づかれないように、そっと。




 海の端から白い光が漏れるように朝が訪れる。


「あそこだ」


小さな浮島に白い柱が四本だけ建っている。


ズメイはそこへゆっくりと落ちるように降りて行く。


「ありがとうございました」「長時間の飛行、お疲れ様です」


ギードたちはズメイにねぎらいの言葉をかける。


「礼はまだ早いぞ。交渉はこれからだろう」


人化したズメイは苦笑いを返す。




 身だしなみをお互いに確認して整える。


エグザスは聖騎士団時代の白銀の聖騎士装備で、剣と盾も装備しているがこれは祭礼用で軽いものである。


タミリアはギードがあつらえた戦闘用ドレスで、女性騎士たちが夜会や祭礼などの護衛で着るものだ。


強固な布や皮を使い、ギードの防御魔法がこれでもかと付与してある。愛用のミスリル剣はすでに腰の剣帯に挿していた。


ギードはタミリアの実家から送られた黒を基調とした祭礼用の服だが、どうせすぐに正装を羽織るので薄く軽いものにしてあった。


「よし!」


ふんっと鼻息荒くエグザスが声を出す。


ギードたちはゆっくりと柱に囲まれた白い床の上へ足を踏み出した。


 


 やがて目の前に光のたまが現れる。


ギードたちは膝を折り、教会で教えられた通りの最敬礼を取る。人化した姿のズメイは、柱の一つに寄りかかって彼らを見守っていた。


エグザスが一歩前に出て祝詞のりとそらんんじる。


さすがに教会で育っただけのことはある。完璧な奏上そうじょうで、神と思われる光の珠もじっと耳を傾けているようだ。


「……なにとぞ、我々にお力をお貸しください」


海への交易の助力を願い出る奏上が終わると、しばらくの静寂の後、光の珠が瞬き始めた。


 一瞬眩しい光で何も見えなくなる。


そしてゆっくり目を開けると、珠があった場所には白い髭と白くゆったりとした服を着た、枯れ枝のような男性の老人が立っていた。




はるばるようここまで来た」


しわがれた声ではなく、威厳のある声だ。


其方そなたたちの願いはわかった。しかし」


ギードは身を固くする。


「それには供物が必要じゃ。わしに何を差し出すのか」


その声音に何故か『大神』の苛立いらだちを感じだギードは、すぐに正装に腕を通した。




「失礼いたします。『大神』様」


完璧なイケメンへと変化したエルフが立ち上がる。中身は『泉の神』だ。


「ほお、久しいな。確かお前は大木に身を移したはずだったが」


『泉の神』は元々は『大神』が作り上げた『大木に宿りし神』だった。人族と妖精族との大戦に巻き込まれ、宿っていた大木を失っている。


「はい。今は『決して枯れない泉の神』としてこの者たちを守護しております」


そうかと頷き、目を細めて自分の孫のような『泉の神』を見つめる。


わたくしに出来ることがあれば何なりと」


『泉の神』が恭しく礼を取る。



 それでも『大神』は無表情なまま、ギードたちに供物を要求してきた。


「何でもというわけにはいかぬ。そうだな、其方そのほうたちがちゃんと力のある者なのかどうかを試させてもらおう」


急に空が暗くなり、稲妻さえ光り始めた。タミリアは咄嗟とっさにギードをかばうように前に出る。


「な、なんだっ」


突然、ぶわっと強い風が吹き始めた。


 エグザスが慌てて盾を風除けにしようとするが、祭礼用のため軽くて飛ばされてしまう。


「きゃあ」(タミちゃん!)


『泉の神』と共にギードも風に倒され、床に這いつくばりながら目で必死にタミリアを探す。


同じく床に伏せまま、必死にこちらに手を伸ばしているタミリアがいた。


「ギドちゃん!」


手を伸ばすがわずかに届かず、二つの身体が宙を舞う。




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