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前日・同行者


 そこは周りを海に囲まれた場所。そのはずなのだが、そこからは海が見えなかった。


波の音が優しく耳を打つ。しかし、そこにはあるはずの海が見えなかった。


真っ白な床。真っ白な空。


部屋なのか、ただの空間なのかもわからない。


 そんな、何処なのかもはっきりとはしない場所に、ふたつの影があった。


「本当にそのハイエルフは来るのだな」


「はい、大神様。それは確かに。もし、違う場所に向かうようであれば、我が連れて参りましょう」




 一つは、影というより光の珠。まぶしく輝き、じっと見つめることも出来ない。

 

 もう一つは巨大なドラゴン。白い鱗を持ち、七色の光をまとう。




 どちらも大きな魔力を持ち、普通の者ならばその存在さえ知ることはない。 


軽い挨拶を交わし、やがてドラゴンの姿は白い空を舞う。


「やれやれ、あ奴もまだまだ若造よの」


光の珠からはそんな想いが漏れる。



◆ ◆ ◆



 ある冬の午後、商国の泉の神殿から、一人の人族の男性が出て来た。


魔法の塔の町から、この神殿の地下にある魔法陣への移動料金はかなりお高めだが、教会が半額負担しているので教会関係者はお安くなっている。


その男性は勝手知ったる場所なので、どかどかと泉の側の館に入って行く。


「エグザスさん、お早いですね。まだ出立しゅったつの時刻までだいぶありますよ」


魔法の塔の町で所長デザインの部下をしている聖騎士エグザス。ギードの妻であるタミリアの友人で、ギードが保護している実力者である。


エグザスは、仕事の最終確認をしていたギードの隣でお菓子を食べていたタミリアと軽く手を上げて挨拶を交わす。


「まあ、いろいろとあってな」


来客用の椅子にどかりと座る。少し興奮した顔で落ち着こうと息を吐きまくっている聖騎士に、ギードは苦笑いする。


きっとこの様子では仕事にならないと、上司に「さっさと行け」と放り出されたのだろう。


「そうは言っても相手は『大神』様だろ。じっとしていられるか」


陽が落ちてからの出立だというのに、すでにエグザスは聖騎士の白銀の鎧を身に着け、黒髪をきちんと撫でつけていた。




 先日、ギードは国王への報告ついでに一応教会にも話を通した。だが、あまり良い顔をされなかった。


無視してもいいのだが、こちらは商人だ。教会も一応お得意様である。


「では、教会から誰か同行者を出してもらえませんか」


『大神』に会う者が聖職者ではないことが許せないようだったので、そちらも誰か出せと要求したのだ。


それで彼らの面目めんぼくは立つだろう。


 しかし無事に帰れるかどうかもわからない旅である。誰も名乗り出ない。


そして協議の上で選出されたのが、教会を破門となっていたエグザスだったのである。




「我々は其方そなたを幼いころより指導育成してきた。その恩を今こそ返す時である」


王都の教会での打合せで聞いた教会のお偉い方々の話を、ギードは詭弁きべんだと思った。


これまで聖騎士団員としてエグザスが活躍して得た成果を無視している。


あの日、教会はエグザスを利用するだけして都合が悪くなると放り出した。


それでもエグザスは、


「ありがとうございます。『大神』様にお会いして、必ずや皆さまの信仰心をお伝えいたします」


と、うれしそうにこの話を受けた。

 


◆ ◆ ◆



 どんな事情があったのかは知らない。エグザスは物心がついた頃には教会の施設にいた。


聖職者たちは保護者であり、師であり、逆らうことは許されないと教えられて来た。


エグザスはいずれ自分も師のような聖職者になり、施設の子供たちを育てるつもりだった。


それが教会の指示に不本意ながら従っただけなのに、彼はそこから追い出された。


 絶望し、酒に溺れていた彼を救ったのは友人たちである。


ギードはその友人たちに頼まれ、エグザスの身柄を引き受けた。


そして現在は国王の弟であり、魔法の塔の責任者でもあるデザイン所長の所にエグザスを傭兵として派遣している。


 ギードは黒い笑みを浮かべ、今回の仕事が無事に終わったら、彼を正式に聖騎士団へ復帰させることを教会に約束させた。


それはエグザスの「聖職者になる」という夢を叶える一歩になるだろう。



◆ ◆ ◆



「子供たちはどうしたんだ?」


エグザスが館にギードの子供たちの気配が無いことに気付いた。


「しばらく留守にするので、信頼出来るところに預けました」


母親ゆずりの脳筋娘は、始まりの町領主の館に。エルフである息子は、ギードの養父であるエルフの森の長老に。末娘は眷属のクー・シー族の青年執事と共に、森の聖域の守護者の元に。


「エルフ嫌いのお前がか!」


ギードが自分の息子を、あれだけ嫌っていたエルフの森に預けたことがエグザスには衝撃的だったようだ。


「いろいろあるんですよ」


どんな環境にせよ、エルフのことを学ぶ良い機会だと思っている。


「今度こそ守ってみせる」と義父であるエルフの森の最長老は約束してくれた。




「ここはどうするんだ?」


「商売のことなら心配は無用ですよ。自分の眷属精霊たちは揃って優秀ですから」


「そ、それはわかっているがー」


商会の代表という仕事まで精霊に任せるのかと驚いているようだ。


「さて、最後の打ち合わせをしましょうか」


ギードはエグザスとタミリアを伴い、地下室へと下りた。


そこには、風、土、火、水の最上位精霊と、商国を守る『幻惑の森』の主、合計五体のギードの眷属たちが待っていた。




 商国の森が夕暮れの色に染まる。


ギード夫婦と同行者であるエグザスは、ドラゴンの領域の中にある洞窟へと移動した。


ドラゴン兄妹の住処である洞窟から出た広い場所。今回はそこから飛び立つことになっている。


「よろしくお願いします」「うむ」


雪のドラゴンであるズメイの巨体の背中には、頭から尾にかけて、形状が少しづつ違う突起物が一列に並んでいる。骨の一部が露出しているもので、骨板こついたというそうだ。


ギードたちはその固い板状のものの隙間に入り、ギードが結界で外気を防ぎ、闇魔法の触手で身体を固定させる。


もちろん、ギードはタミリアを自分の腕の中に置いている。


ズメイの妹で炎のドラゴンであるユランと、ズメイの眷属であるクー・シーの墓守りに見送られ、雪のドラゴンの身体がふわりと浮き上がった。



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