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エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


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二日目の真夜中・話し合い


 ギードたちが借家で落ち着いたころ、商国の館の地下ではエグザスが食事を終えたところだった。


「よお」


「あ?、ハクレイ。なんでお前がここに」 


まだ足元がふらつくエグザスを心配して、風の最上位精霊のリンが彼の友人であるハクレイに連絡したらしい。


「それはこっちが聞きたいんだが」


ギードたちが旅立ったのは二日前の夜だ。


「お前こそ、何故ここにいる。同行したはずだろう。ギードはどうした」


ハクレイはまだ誰からも詳しい話を聞いていないようだ。


エグザスは厳しい顔になり、後で話すと言って、立ち上がろうとした。




 顔色が悪いエグザスをハクレイが支えていると、また誰かが館の地下室に入って来た。


「やあ、エグザス。ちょっと待ってくれないか」


階段を下りて来たのは、妖精ガンコナー族でありながら勇者サンダナに擬態しているサガン。


ハクレイが慌てていたのを始まりの町の領主館で見かけたらしい。


「久しぶりだな、エグザス」


ダークエルフの元傭兵隊長であり、国王の娘婿であるイヴォンも同行していた。


「こんばんは」


王太子妃で、優秀な諜報員であるダークエルフの女性、スレヴィもいる。


さすがに情報を小耳に挟んだようで、確認に来たそうだ。



 

「なんだ、皆して。俺はこれから王宮に報告に行かなければー」


「待てと言っただろう。座れ」


サガンに肩を掴まれ、エグザスはもう一度座り直す。


 ギードが日頃、眷属たちを集めて会議をしている円卓に、今日はギードの友人たちが並んでいた。


一通りの話を聞き終え、


「どう報告するつもりだ」


と、イヴォンはエグザスに問いかける。


回りくどいことが嫌いなイヴォンは、さっさと話し合いを終わらせて帰りたいという顔をしている。


「どうって、国王と教会の師にそのままお伝えするだけだ」


サガンは「この正直者は上に馬鹿が付くな」と呟いた。


「その報告はしばらく待っていただけませんか?」


母親となったスレヴィは以前とは違い、だいぶ雰囲気も柔らかくなってきている。


「待つ?。どういうことだ」




「つまりですね。あなたたちが出かけてからまだ二日しか経っていませんよね」


スレヴィの言葉にエグザスは頷く。


「ああ、そうらしいな」


日没とともに出発し、『大神』のいる島に着いたのは明け方だ。


そこから海に落ちた後の記憶は無いが、気が付いたら首都の町に居て、出立した日の翌日の午後だと聞かされている。


今は夜なので、丸二日は経っていることになる。


「だから、もうしばらく様子を見ようということだ」


イヴォンはリンがお茶を運んで来たので、それを受け取りながら話をする。


「お前は、あのギードがおとなしく『大神』のされるがままになっていると思うか?」


「う、それはー」




 元々、広大な海という領域で『大神』を探すという長期の旅の予定だった。 


ズメイというドラゴンが案内を買って出て、予定が恐ろしく早くなったが、最初からそんなに短期で終わる話でもなかったのだ。

 

「時間がかかるのは想定内だということだよ」


イヴォンの言葉に、エグザスは納得いかないようだ。


「だが、ギードたちの姿が消えたんだぞ。探さなくては」


「どうやって?」


サガンが意地悪そうな笑みを浮かべている。


「何もわからないのに?」


ますます顔色が悪くなるエグザスを面白がっているサガンを制し、イヴォンが話を進める。


「つまりだ。ギードからの連絡を待とうと思う」


「待つー」


「ああ、あいつのことだ。必ずどこかにいるという手掛かりを寄越すはずだ」


動くのはそれからでいいとイヴォンはエグザスを説得する。


「だけど、それはいつになるんだ。一年か、それ以上か。そんなの待てない」


悲痛な顔で机に突っ伏してしまったエグザスにスレヴィが寄り添う。




「今のままでは王宮も動きようがありません。大丈夫ですよ、きっと」


あのギードとタミリアだから、と安心させるように微笑む。


「子供たちにはどう説明したらいいんだ」


子供好きのエグザスはそちらの心配が大きいようだ。


「あー、そんなの、黙ってりゃわからんさ」


サガンはくくっと笑う。


「無用な心配はさせずに、そうだな、ひと月くらいはほっといていいと思うぞ」


子持ちである彼らはギードの気持ちも予想が付く。


「親ってさ、子供にはかっこ悪いところを見せたくないでしょ?」


ギードも大騒ぎされることは望んでいないだろう。


「しれっとすべて事を終わらせて戻ってくるかも知れないし」


サガンの言葉にエグザスも多少はもやもやとしながらも頷いた。




 イヴォンから「お前は商国で静養していろ」と言われ、エグザスはこの館に残ることになった。


イヴォンとスレヴィ、そしてハクレイは地下室から出て、神殿にある移動魔法陣へ向かった。


「……生きていると思いますか?」


歩きながらのハクレイの問いにイヴォンは苦い顔で答えた。


「わからん」


『大神』の怒りを買ったと思われるギードとタミリア。


水の最上位精霊はその時、暗雲に稲妻が走ったのを見ている。


しかし、


「生きていますよ。大丈夫。あのギード様がタミリアさんを死なせるはずはありません」


スレヴィはにっこり笑った。



◆ ◆ ◆



ギードは目を覚ますと、ゆっくりと伸びをして起き上がる。


まだ真夜中である。しかし、そんなものはギードには関係ない。


 一応着替えて外に出る。


入り口の戸を閉め、家の外に設置しておいた魔石を起動させる。


一瞬、薄い金色の幕が現れて家を覆うが、すぐに闇に溶けて消える。


「これで良し」


ギードは自分がいない場合に備え、結界の魔法を魔石に込めておいた。


結界だけではぼんやりと金色に光って目立つため、闇魔法を使って人目に付かないようにしている。


そして、ゆっくりとした足取りで町までの道のりを歩きだした。




 翌朝、昨日と同じ朝食を済ませたタミリアとハートは、外に出て驚いた。


家の玄関から町へ向かって、真っ直ぐではないが、しっかりとした美しい石畳の小道が出現していたのだ。


エルフの魔法でこんなことまで出来るのか、と恐れおののくハート。


どんだけ魔力量があるのよ、と呆れているタミリア。


振り向いたふたりの視線を気にする様子もなく、黒髪のエルフは朝食の後片付けをしていた。



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