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呪縛かくれんぼ〜中篇〜

まだまだ未熟な文章なので、ぜひ様々なご意見が聞きたいです。

少しでもコメントをいただければ幸いです。

「ヒデ、早くここから出よう」

青ざめたナカムラが言う。


「ヒナコはどうすんだよ?」

「そんなの知らねぇよ。勝手に入ったあいつの自業自得だろ」

そう吐き捨てて、ナカムラは洋館の扉のノブをひねる。


「放って行くワケにはいかねぇだろ?」

俺は立ち去ろうとするナカムラの腕を掴み、声を荒げる。


「関係ないだろ? お前は勝手にしろよ。俺をこれ以上巻き込むんじゃねぇ」

そう言って腕を払うと、ナカムラは扉を開けた。

土砂降りの雨はあっという間に玄関口を水浸しにし、一寸先の視界さえも奪っていった。


「何度歩いても、俺たちはここに戻ってきた。しかもこれだけの雨だ。視界の悪い中ここから出れると思うか?」


俺はナカムラに優しく問いただす。

「俺たち昔からの友達じゃねぇか? 三人一緒にここから……」

言い終えぬ内にナカムラは豪雨の中去って行く。


彼の姿が消える瞬間「ごめん」という弱々しい声だけが、雨音に消されず俺の元に届いた。





一人残された俺はスマホの灯りを頼りに仄暗い廊下を進んで行く。

あの少女を探すため、俺はまず一階にある部屋を片っ端から調べることにした。


最初に入ったのは応接間のような部屋。

部屋の中は廊下よりも湿気っており、つんと鼻にくるカビ臭さに頭がどうにかなりそうである。

壁紙からむき出しになったレンガひとつひとつが悲しむ人の顔に見えてくほどに……。


一歩踏み出す度に、床はうめき声を上げるように軋む。

埃まみれのソファからは臓器のような錆びたバネが飛び出ており、それを狙うかのように暖炉の上では右腕のないフランス人形が凝視している。

それらに触れないように、首をぐっと伸ばしながらどこかに隠れているであろう少女を探し回った。



そこには、少女の姿はなかった。


それから《そこには》は《ここにも》へと移り変わり、一階の部屋全てを探し終わる頃には《どこにも》となっていた。


「やっぱり」


俺は一階の廊下を突き当たった部屋の中で、そう漏らす。

信じがたい仮説を受け入れなければならない状況となってしまった。


少女は確かに一階の廊下を奥へと駆けて行った。

ならば、必ずこのフロアのどこかにいるはずである。

でも、いなかった。ということは……


俺はこれまで、幽霊だとか都市伝説だとかオカルトめいたことは全て創作物だと思っていた。

しかし、二十歳を過ぎてそれが覆ることになるとは。


割れた姿見には、独り笑いする俺が映っていた。

スマホのライトで照らされた自分の顔がボゥと浮いているように見えたため、俺もこの世のモノではないような気さえしてしまったのだ。


こんな考えが脳を揺らしたのも、この酷いニオイのせい?


数分もの間、鏡の前で不毛な思考がぐるぐる頭の中で踊り狂っていた。



しかし、それは不意にピタっと止まる。



俺のすぐ後ろにある用具入れの扉が少し開いたのである。

湿気で水膨れした用具入れの扉は細かく開閉し、俺に「おいで」と手招きしているようであった。


「誰か……いるのか?」


俺は恐る恐る近づきながら、そう問いかけてみる。

しかし、鼓膜を揺らすのは雨音だけで反応はない。


意を決し、用具入れに手を伸ばした。

雨の調べに錆びた金具の擦れる音が混じり、それは不協和音と化す。

扉を開ききらないうちに、黄色いポシェットが視界に入った。


ーー少女が提げていた物だ。


驚きのあまり、「うっ」と後ずさりしてしまう。


――この中に少女が?


そう思った瞬間、鼓動が激しくなる。

先ほどは開けることができた用具入れに中々手を伸ばすことができない。

なおも開閉する扉。不快な金属音が脳を揺らす。


「ふぅ」と一度息を吐き出し、勢いよく扉を開けた。

中には箒やちりとり、シャベルが立て掛けているだけであり、少女の姿はなかった。


「よかった……」


ちょっとした安心感からか、その場に膝から崩れ落ちる。

しかし、それと同時に襲う罪悪感。


――見つけないといけないのに。俺は一体何を考えているんだ?


少女がいなかったことに対して安心してしまった自分が情けなくなる。

目の前には、不気味なほどに暗闇と調和した黄色いポシェット。

ポシェットには赤土が所々こびり付いており、少し開いたチャックの隙間から虫が湧いている。

何かの手がかりになるのではないかと、俺はポシェットにこびり付いた赤土を払い、チャックを開けた。


ポシェットの中には折りたたまれた紙が入っており、それを手に取る。

先ほど少女が広げていた紙であろうか。


俺はポシェットを床に置き、紙を広げた。

それはS県を拠点に発行されている地方紙の一面であった。


《少女 行方不明 未だ見つからず》


そう書かれた見出しがでかでかと記載されている。

所々インクが滲んでいるが、残された字が記事の内容を浮き彫りにする。


どうやらそこには、アメリカ人と日本人夫婦の娘、《赤名アンナ(7)》がO郡S町付近で行方不明となったという記事が掲載されているらしい。

四年も前の記事であるが、この新聞が発行された時点ですでに二週間行方がわからないままとなっていた。


――赤名アンナ。……まさかあの少女が?


記事の文字を追っていると俺の目に《行方不明になった赤名アンナちゃんは黄色いポシェットを》という文字が飛び込んできた。


「《黄色いポシェット》!やっぱり」


あの少女の名は《赤名アンナ》。

四年前、この付近で行方不明となった子だ。


――そうすると、俺たちをこの樹海に閉じ込めたのは、四年間も見つけてもらえなかった少女の怨念ということなのか?



「見ぃつけた」


突然、薄暗い部屋の静寂を何者かの声が揺らす。

俺はその声の方を反射的に振り返った。


部屋の出入り口に人影が見える。

フードを目深に被っており顔を確認することができないが、肩幅や身長からそれは男だと直感的に察知した。


その男は首をかしげるような素振りをして、

「見ぃつけた」ともう一度繰り返す。


俺はただならぬその男の雰囲気に逃げ出したくなるが、恐怖のあまり身体が言うことを聞かない。

その男はおもむろにポケットをまさぐり、一枚の紙を出し、それを音読し始めた。


「ルールの確認ね」


――ルール? 何の話だ?

男の口角は少し上がっているように見えた。


「今から貴女はある場所に隠れます。俺は貴女を探します。貴女を見つけたら《見ぃつけた》って言います」


その男が音読する内容はまさに少女が口にしたそれと同じような内容であった。

困惑する俺をよそにその男は紙をポケットにしまう。


「あっ、あとタイムリミットもあったね」

そう言いながら男は一歩、また一歩と俺に向かってくる。


「俺が死ぬまで……だったかな」


俺の目の前まで男が迫る。

そして、男は俺を見下げながらこういった。


「で、俺に見つかっちゃったら死ぬんだったね。貴女がね」

その刹那、男の片手が俺の首筋を捕らえる。


――息が……できない。


抵抗して男の腕を掴むが、思ったように力が出ない。


「……め……ろ。やめろ」と声にならない声を出すが、男はもう片方の手でポケットから先ほどの紙を取り出し、そのまま俺の口内へ無理矢理詰め込んだ。


そして、力一杯両手で俺の頸部を絞めていったのであった。

男の顔が見えそうになった頃には、俺の視界は焦点が合わずボヤけたものとなっており、そのまま気を失った。




意識が戻った時、俺は曇天の空を見上げていた。

その狭間から太陽の光が幾つもの鉄の槍のごとく地上へと伸びている。

それらは、どデカイ鉄格子のようにも見え、俺は自然が創り出した檻に放り込まれているように感じた。


すると、突然空から何かが降って来る。

身体をそり返そうとするが、うまく動かすことができず、顔にそれが被さる。


俺は手で顔をさすった。


――土?


それは赤い色をした土であった。

そして、また覆いかぶさる土。

身体を上手く動かすことができなかったのは、どうやら既に下半身が赤土に埋まっていたかららしい。


俺は顔に覆いかぶさってくる赤土を拭いながら、その出どころを探ってみた。


――人だ。


俺を埋めようとしている人がいる。

逆光で誰かは確認できないが、きっとフードを被ったあの男であろう。


俺は最後の力を振り絞って上体を起こし、男の足首を掴む。


「クソッ。まだ生きてやがった」


男はシャベルで俺を何度も殴る。

俺は絶対に離すものかと手に力を入れて抵抗するが、男が空までシャベルを振りかざしたかと思った時には、俺の頭部にそれは直撃していた。





力が抜けていく。

男との距離が離れていく。


そいつは俺にこう吐き捨てた。


「一生ここで隠れてな」


そして、再び俺の視界から光は消え去った。

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