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第1話

 気の遠くなるような遥か昔、白き月から降臨しルオンノータルの地を創造した神々は、自らの従属種として人間と魔獣を創造したという。

 しかし、魔獣を創造したことは、神々にとって大いなる誤算となった。

 強靭な肉体に、凶暴な精神。そして、驚異的な適応能力。魔獣は見る間に繁殖し、獣を、人間を、あろうことか神々までも喰らった。

 魔獣の脅威に抗し切れず、神々が白き月へと逃げ帰った後、加護を失ったルオンノータルは荒れに荒れた。

 世界の森羅万象を司っていた精霊たちが、神々の制御を失ったために暴走し、天災という形で世界に牙を剥いた。

 魔獣はそんな劣悪な環境下でもさらに増え続け、獣と人間は激減していった。混迷の闇深い暗黒のこの時代は、後に「喪神期」と呼ばれるようになる。

 喪神期の間、人々は災厄続く日々に慄き、明日は魔獣に喰われる身の上と絶望し、抗う術を持たず、確実に滅亡への道を歩み続けていた。


 それは、ある日、忽然と現れた、とされる。


 ついに魔獣の群れに追い詰められた人々の前に、忽然と現れた一人の青年。

 彼は不可思議な力を持ち、その力は魔獣を一瞬にして滅ぼした。

 奇跡。そうとしか称しようのない稀有な力を持った青年は、人々の願いを受けて、魔獣を「樹海」と呼ばれる大森林のさらに奥の深淵へと追いやり、人々を助け導いた。


「人間を見捨てた神々の後悔と慈悲の涙によって作られた新たな神」

「人間の苦難を憐れんだ精霊の王の具現化した姿」

「人の身でありながら、すべての精霊に愛された精霊の愛し子」


 稀有なる力を持った青年の素性は定かではなく、その神秘性ゆえに、人々は彼の素性を様々に想像し、ある者は彼を「新たな神」であると、ある者は彼を「精霊の王」であると、ある者は彼を「精霊に選ばれし者」であると、想像の赴くままを口にし、青年を畏れ敬った。

 絶望の最中に現れ、人々の希望の光となった青年が、喪われし神々よりも精霊よりも人々の心の支えとなるのに、さほど時間はかからなかった。

 神のごとく慕われるようになっても、彼は人々に寄り添い続け、精霊と語る術を教え、魔獣に抗う術を授け、魔獣の襲撃や天災に立ち向かったという。

 やがて、彼が死した後、彼が現れた時と同様に、彼の次代を担う者が忽然と現れた。次代もまた、彼と同様に人々に寄り添い、助け、導いた。

 そして、その二代目が死した後には、やはり、三代目が忽然と現れた。

 「光皇」という尊称は、この頃から彼らに対して人々が畏敬と尊敬の念を表して称するようになったとされる。代を重ねる歴代の光皇たちもまた、期待に応えて力を尽くし、尊称に恥じぬ功績を世に残した。

 歴史のうねりに飲み込まれかけたことは幾度とあれど、光皇と人々の絆はそれを乗り越えて長きに渡って続いた。

 ……続いてほしいと願わぬ者など、誰一人としているはずがなかった。

 終わりなきように願う人々の願いも空しく、光皇と人間の歴史は、六百年前を境に、突如、ぷつりと閉ざされる。

 後の世に「聖魔大戦」と名付けられることとなる終わりなき戦の始まりでもあった。

 それは、魔獣の増殖と凶暴化、天候不順などの不穏な兆候より始まった。やがて、不穏な兆候は幾重にも重なりだし、小さな裂け目が大きく広がるかのように、大森林の深淵「樹海」より魔獣が溢れ出した。

 魔獣の波がじわじわと人々の領域を飲み込んでいく中、それを阻止すべく、名高き英雄をはじめとする数多くの者たちが、帰ることなど叶わぬ死地と知りつつ挑んでいった。

 戦いは長く長く続き、多くの命を奪い、あらゆるものを破壊しつくし、戦の業火が天地を焦がした。

 終わりなき戦、と称されるように、この戦乱は六百年を越えようとする現在に及んでも終末を迎えていない。

 六百年の間に魔獣の生息域である樹海はどんどん広がり、反対に、人間の住める地は減っていく。人々は魔獣の恐怖に怯えつつ、残された地を巡って、人間同士の争いに終始し、事態は大戦が始まった頃以上に混沌とした時代に突入していた。

 大戦が終わらぬ最大の理由は、いったい、何なのか。そう問われれば、ルオンノータル中の人間が口を揃えて答えるだろう。 


 光皇の不在、にある、と。


 大戦の初期に姿を消したとされる最後の光皇。病死であったとも、暗殺であったとも囁かれるが、その最期も行方も知る者は誰一人としていなかった。

 光皇の不在に、当初の人々は混乱を極めた。そして、混乱の末に待望した。

 新たな光皇。次代の出現を。

 しかし、前光皇が消えれば、必ず現れていた次代の光皇は、今に至るまでその姿を現すことはなかった。

 世界は再び、かの喪神期同様の、いや、光皇の慈愛を知ってしまった分、人々にとっては、それ以上に無情な真なる神なき地と成り果てた。

 大地の荒廃と戦の怨嗟続く、この無情なる時代を、いつしか人は「失皇期」と呼ぶようになり、衰退し緩やかに滅亡への道を歩み続けていると知りながら、世の混乱を収める術を知らずにいた。


 すべての元凶となった聖魔大戦。


 失われたという、最後の光皇。


 その名を、ディスクードという。











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