プロローグ 02 JK魔王プロデューサー
『魔王プロデューサー』
勇者に勝てない駄目な魔王『駄魔王』を勇者に勝てるべく矯正、指導する謎の存在。
勇者に負けっぱなしの駄魔王である私も一念発起し、その謎の存在に頼ることにした。
そうして我が前に魔王プロデューサーとして召喚されたのは
なんと異界の可憐な女子高生だったのだ!
しかし彼女の瞳に宿る揺るぎない自信と勝利への確信に、私は彼女と正式に契約することにした。
こうしてかくも厳しい、彼女に『プロデュースされる』日々が始まったのである。
彼女の教導はあまりにも多項目に渡ったため
(私が魔王として駄目な所が滅茶苦茶たくさんあったということになってしまうのだが)
部分的に紹介していこうと思う。
例えばまず初日に受けたダメ出し。
「あんた、まずステータスがラスボスとして全然だめね」
「う、いきなりド直球ですな……」
「ここにあんたのステータスについての資料があるわ。あんた、物理攻撃と物理防御に全振りじゃない! 魔法に対する耐性が低すぎるわよ! 魔法特化型のパーティで挑まれたらひとたまりもないじゃない」
「あー……、お恥ずかしながら学生時代はバリバリの体育会系でして、魔法はさっぱりだったんですよね(笑)
言われてみれば確かに今まで魔法特化型のパーティに倒されることが多かったかも……」
「そこで今日からあんたにはステータス強化訓練を受けて貰うわ。リリムにメニュー渡しておくから、それに従って頂戴」
「うへー?! もう大人になった今さら伸びるかなぁー?」
「馬鹿ね、要はやる気と根性の問題よ。人間も魔王も『もう大人だから無理』って言い訳で自分の可能性を潰すのは愚かの極み。目指すは魔王らしく全パラメーターカンスト! 全属性耐性、全状態異常無効よ!!」
「いやそれはチートしなきゃ無理です!!」
そして次の日には――
「ねぇ、あんたの戦闘時のスタイルについてなんだけど……
この『HP10%以下で第2形態』ってどういうこと?」
「ふふふ……それはですね。やはり魔王たる者、形態変化は定番! 『もう少しで勝てるぞ!』と勇者に思わせておいて、より強力になることでさらなる絶望を与えるという算段です!!」
「で、具体的にはどう変わるの?」
「腕が2本増えます!」
「……」
「……ど、どうですかね?」
「バッカじゃないの?! 元々8本ある腕が10本になったところで戦力的にも見た目のインパクト的にも大差ないわよ!! せめて羽くらい生やしなさいよ!! あとHP10%以下って出し惜しみすぎ! そのくらいの変化なら最初から全力で行け!! それが嫌なら今から第3形態習得しろー!!」
そんな無茶なー!!!!
そしてある日は幹部たちを交えて――
「ではステージ1、『始まりの森』の担当、挙手」
「あ、ぼ、僕です」
手を挙げたのは新人のサイクロプス君(Lv.10)。
「じゃあ今日からバハムート(Lv.80)、お願い」
「え?! お、俺がですか?! あの、いいんですかね、俺なんかがステージ1に出ちゃって……」
「いちいち勇者のレベルに合わせて配置してあげる義理なんてないわ。むしろ相手が弱いときに完膚なきまでに叩きのめしてモチベーションを削ぐのよ!」
いやーでも演出的には大丈夫なのかなぁ……
『無理ゲー』って言われて勇者側が完全に諦めちゃったりしても……ね?
ほら、勇者に挑まれてこその魔王、みたいなところあるし。
「確かに演出は重要よ。でもそんなの自力で完勝してから言いなさいな。それに大丈夫、あいつらなんやかんやで別ルート見つけて先に進んでくるから!」
と、勇者側も言われ放題である。
「あ、じゃあ担当外された僕は……」
「あんたはステージ1と2の狭間にあるエルフの森を滅ぼしに行って。
あそこのやつら、後々厄介となるスキルを教えるのよねー。あ、女子供も容赦しなくていいわよ!」
お、鬼だー!!
またある日は秘書のリリムちゃんとこんな話もしていた。
「プロデューサー様、折り入ってご相談が。
ステージ7の城塞都市の北東のはずれに神の宿る古い石像がありまして、
この石像、厄介なことに勇者に対魔王の究極の奥義を授けるのです。
破壊したいところなのですが、神聖な力で護られており我々魔族には手出しできず……」
「それならもう心配はいらないわ。話はつけておいたから」
「と言いますと……?」
「勇者に奥義を授けないよう、この前交渉しに行ったのよ。
いろいろとアレコレ条件つけてきたけど、最終的には私がその場で脱いだブラジャーを渡すことで合意したわ」
神―――!!そんなんでいいのか神―――!!
というかそんなやつが授けた奥義で今まで倒されてきたのか私―――!!
「各所への根回しはプロデューサーにとって最も基本で重要な仕事よ。それに使えるものはなんでも使う。それが女の武器であってもね。わかった、リリム?」
「は、はい! 勉強になります!」
尊敬と憬れの眼差しを向けるリリムちゃん。
ああ、私の純粋で可愛い秘書が毒されていく……。
というか上級サキュバスが女子高生に色仕掛け教わるってどーなのよそれ。
またある時は彼女自ら幹部たちに戦闘訓練をしていたようで、
我が配下で最強の腹心である魔剣士ダンテス曰く、
「魔王様、あのお方は尋常じゃないです……。魔界最強の剣士である俺に向かって
『あんたなんか始解で十分』
と言ってほっそい日本刀でコテンパンにやられました……。
我が魔剣ギュスターヴも真っ二つ、俺の剣士としてのプライドも真っ二つです……。
しばらく田舎に帰らせてください……」
いやいやいやどんだけ強いのさ?!
というか最強の部下田舎に帰るとか言ってるけどいいの?!
戦力大幅ダウンだよ?!
――と、このような辛くも楽しい(?)日々は過ぎていき、いくらかの月日が流れた。
彼女が立てた対勇者計画案は悉く功を奏し、勇者の攻略進行は通常の3倍は時間がかかっていた。
しかし彼女の読み通り、ベリーハードモードなこの状況下においても勇者は道を切り拓き、
ついには明日、この私が住む魔王の城まで到達するとのことだった。
だが、これもまた彼女の目論見通りである。
そう、最終的には魔王自らが勇者を倒さなければならない。
そうでなくては真に勝利し、『絶対勇者撃滅計画』は成功したとは言えないのだ。
決戦前日の夕方、私は彼女と2人で土手に腰掛け夕日を見ていた。
主人公とヒロインが決戦前に2人きりで語り合う――
青春ラブコメものなら定番のシチュエーションだ。
まぁここは魔界なので太陽はドス黒く、川は血で赤く濁っているのだが。
「あんた、結構魔王らしくなったじゃない」
いつも通りのきつい口調だが、その声と表情はとても柔らかい。
確かに私は地獄のような訓練で強くなった。魔法防御力も上げたし、小さい羽も生やせるようになった。
第3形態は流石に無理だったが、代わりに腕を20本生やせるようになった。
「全てプロデューサーのおかげですよ。
ところであの、一つだけ聞いてもよろしいですか?
何故あなたは『魔王プロデューサー』なんてやっているのです?」
素直な疑問だった。
実は彼女との契約に我々からの報酬の支払いは含まれていない。
代わりにある約束を守らなければならないのだが、金銭も領土も、『報酬』といった類のものは何一つ要求されていないのだ。
異界からわざわざ来て、決して容易とは言い難いこのプロデュース業を無報酬で行っているのが私にとってはずっと疑問だった。
「いいわ、ここまで来たんだし答えてあげる。私ね、お父さんが魔王だったの」
なんと…! 彼女は人間ではなかったのか?
「魔王と言ってもゲームの中だけどね。私のお父さんね、声優だったの。
でもすっごく悪人声で、来る仕事は全部悪役。その中でもゲームのラスボス役が多かったってわけ」
なるほど。『日本』という異界には我々がいるこのような世界を題材にしたゲームが数多くあるということは知っている。封印中によく『ゲーム実況動画』というものも観ていた。
実は『世界』というものは数多く存在し、その世界ごとに『魔王』たりうる存在がいる。
もちろん彼女の世界のようにいない場合もあるが。
我々『魔王』や『神』、それに類する存在は、他世界に直接的な干渉は基本的にはできないのだが
その内情を知ることくらいはできる。(だからYou〇ubeとか観てたんだね!)
まぁ稀に彼女のように異界に直接来訪してくる者もいるにはいるのだが。
「でね、私小さい頃からゲームがすっごく好きで、よくお父さんの出演していたゲームもやってたの。
でもゲームって最終的には絶対勇者が勝つようにできてるでしょ? 私それがすっごく不満だったの! なんで私のお父さんはいつも負けちゃうの?って。それである日異界や魔王の存在を知って、自分が異界に渡る力を得たときに決めたの。私が魔王を勝たせてみせるって。別に勇者や人間側に恨みがあるわけじゃないわ。私は魔王が勝って勇者に一泡吹かせるところが見たいだけ。ただそれだけよ」
そう話す彼女はなんだか懐かしそうで嬉しそうで、寂しそうだった。
「だから明日はビシっと勝ってね、ザイアス!」
――――――。
――初めて彼女に名前を呼ばれた。
この時私は決心したのだった。
この『駄魔王』をここまで導いてくれた、
満面の笑顔と信頼を向けてくれるこの少女のために絶対勝とうと。
そして――
勇者に勝てたら、彼女に告白しようと。
私は彼女に恋をしていた。