プロローグ 01 JK魔王プロデューサー
おはこんばんちは、人間のみなさん。
私、ここ剣と魔法と夢の国『グレーデントランド』で魔王をやらせて頂いております、『ザイアス=シン=カタストロフ7世』と申します。
気さくに、『魔王様』か『ザイアス様』とお呼びくださいませ。
あ、グレーデントランドはエルフとかいる典型的な西洋ファンタジーな世界を思い浮かべて頂ければ大丈夫です。
職業は魔王、趣味は英雄の武器コレクション、年齢は先日10072歳を迎えました。
誕生日には私が封印された塚の前で秘書のリリムちゃんが生贄を72人捧げてくれて……
いやぁ、あれは嬉しかったなぁ! 魔王感激! おかげで復活することもできましたし!
――え?お前封印されてたのかって?
そうなんですよお恥ずかしい!(笑)
実は先代の勇者に封印されてしまいまして!
500年も暗い塚の中!もうやることなくて寝るか素数を数えるかYou〇ube見るくらいしかなかったですよ!
ええ! 結構ひんやりしてて快適なんです! 適度な閉塞感が……
おっと、話が脱線してしまいましたね。
まぁご存知かもしれませんが、我々魔王は倒されても基本復活できるんですよ。
なんか人々の負の感情…憎しみ、妬み、怨念、月曜学校行きたくないなぁ、今度の会社の飲み会嫌だなぁ…
とかで。まぁ数百年とか時間はかかっちゃうんですケド。
で、復活して「いっちょ世界でも征服すっか!」と意気込んでると
勇者のやつらが邪魔しに来るんですよ!
で、そのたびに戦って勝ったり負けたりをするわけです!
――え? 勝ったことあるのかって?
あ、ありますよそりゃ! さ、、最初のころは……(小声)
せ、戦績…?
じゅ、13戦……4勝……9敗です………
………
何か!! 何か問題でも?!?!(圧倒的逆ギレ)
ええ、ええ、とっくに負け越してますよ! 目下7連敗中ですよ!
しかも次もし負けたら記念すべき通算10敗達成ですよ!!
あああああああ
てか何なんですか最近の勇者! 最初っから強すぎません?!
早期購入特典? DLC? 何ですかそれ!
そして極めつけは強い味方を並行世界から呼べるあの『フレンドシステム』とかいうやつ!
え? いいの? パーティ全員最強装備の勇者とかありなの?
じゃあこっちも召喚ぶよ? 他の魔王召喚んじゃうよ? オル〇・デミーラ先輩とか!
パイセンまじ強ぇぇから! 一度神様倒して世界の9割封印してっからな!! ああん?!
はぁ、、はぁ、はぁ…………
…………
…………
……そうなんです、最近勇者に全く勝てないんです。
このままじゃ確実に今回も負けるでしょう。せっかく復活できたのに……
はぁ…私ってやっぱり駄目な魔王、『駄魔王』なのかな……
「駄魔王様」
「うわぁ辛辣ぅぅぅ!!!!」
辛辣な呼びかけをしてきたのは私の秘書、リリムちゃん。
実は今、この我が魔王の間にてリリムちゃんと今後の方針について絶賛会議中だったのである。
ちょうどいいのでリリムちゃんについて説明しよう!
煉獄を統括する悪魔の……おっと、ここら辺の説明は別にいいでしょう。
スラっとした手足に黒髪の長髪、ダイナマイトなお胸に露出度高めの服…
(私の趣味で着せてるんじゃないからね!か、勘違いしないでよねっ!)
まぁ淫魔サキュバスを高貴な感じにしたものを想像してもらえれば大体あってると思う。
とにかく知的でクールビューティ、ナイスバディな私の自慢の秘書です。
ちなみに私は体大きくてがちがちに甲冑着こんでて武器たくさん持ってる系の魔王です!
そんなリリムちゃんが立ったままノートPCを見ながら
「魔王様、例のプロデューサーの件、連絡が取れました」
「ほんとに?!」
てか私が封印されてる間にM〇c使いになったんだこの娘…
いやそんなことはどうでもよく!
『魔王プロデューサー』
我々魔王の間でにわかに話題になっている存在。
なんでも異世界からの使者で、私のような『駄魔王』を勇者に勝てる立派な『魔王』になれるよう導いてくれるらしい。正直半信半疑だったのだけれど、この間リリムちゃんがネットサーフィンしてたところ偶然広告を見つけて、ダメもとでメールを送ったところなんと返信が返ってきたらしい。
とはいえ謎の人物だ。もしかしたら勇者側の者かもしれない、ここは慎重に…
「もうこの魔王の間の前までお呼びしております」
「はやーい!! 展開はやっっ! え、まず最初に連絡ついた時点で言ってよ!」
「あ、その……昨日連絡がつきまして、魔王様に報告に行ったところ…
部屋でお一人で何かされてたようでしたから……その、いかがわしい音声とともに……」
「ああああああああああああ(絶叫) ごめんね! ほんとにごめんね!
思春期の息子をもつ母親のような思いをさせて!! 見なかったことにぃぃぃ」
この時はもういっそ勇者に殺されたい、そう思いました。
「あ、で、お通ししても…?」
「そ、そうだ、もう来てるんだよね、お願い」
私が慌てて取り繕いそう応えたその直後、この魔王の間の(無駄に)荘厳で巨大な扉がゆっくりと開いた。
『魔王プロデューサー』。正体不明の謎の存在。『駄魔王』とはいえ『魔王』を指導するなんて、もはや神かなんかが暇つぶしにやってんじゃないのか? まぁそれは冗談として、そんな神のごとき所業をやってのける存在とは、いったい……
私もリリムちゃんも固唾を飲んでその人物を見る。
そこには―――
1人の人間の女の子がいた。『日本』という国がある世界での、『制服』という装束に身を包んだ美少女。
唖然とする我々をよそに、その少女は迷いなく、堂々と私の目の前までツカツカと歩いてきた。
そして私の顔にびしっと人差し指を突きつけると
「あんたが魔王?」
彼女の深紅の瞳が真っ直ぐにこちらを見据えている。
「そ、そうだが……」
「そ」
彼女は短く応えると、にかっと笑ってこう続けた。
「じゃあ、私が勇者に勝たせてあげる!」
大胆で、不敵で、最高の笑顔だった――――
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「私が勇者に勝たせてあげる!」
駄目な魔王、『駄魔王』を勇者に勝てる魔王に育て上げるという謎の存在『魔王プロデューサー』。
そんな魔王プロデューサーとして私のもとへやってきたのは1人の人間の少女だった。
ただの人間風情が傲岸不遜にも魔王である私の前に堂々と立ち、指先を突きつけながら声高らかに宣言しているのだ。その不敬極まりない態度に私は……
「かわいいいいいいいいー!!!!!!!!」
と心の中で叫んでしまった。だって! だって! めっちゃ可愛いんですよこの娘!
10000年生きてきた私ですら滅多にはお目にかかれない美少女!
服装は現代日本の女子高生服。ブレザータイプというやつだろう。赤いチェック柄のスカートに、薄いピンクのワイシャツを腕まくりしている。そして胸元には深紅のリボン。肩にはグレーのカーディガンを羽織り、袖の部分で結んでる。なんかテレビとかの偉い人がやってるようなイメージの羽織り方。
これが『プロデューサー』の正式なスタイルということなのだろうか……?
肌はとても白く、腕と足は簡単にちぎれそうなほど細い。スラリとした美脚が魔界の淫魔たちに負けないほど短いスカートから伸びている。顔立ちは人形のように整っており、幼いながらも精悍でキリっとした表情。
大きな深紅の瞳からはこの少女の意思と自信の強さが伺える。
髪はエルフのように綺麗な銀髪。おそらく本来は胸くらいまでの長さはあるのだろうが、前髪を残してくるくると後ろで束ね、ピンで固定している。そのすっきりとした首元は活発な印象だ。
そして最後に大切なことを伝えよう。とても胸がたわわでいらっしゃる。
私がじろじろと彼女を見て…もとい観察してたら秘書のリリムちゃんが切り出した。
「あ、あなたが魔王プロデューサー……なのですか?」
リリムちゃんは当惑していた。それもそうである。我々はもっと神の使いのような、もしくは邪悪の化身のようなすごいのが来ると想像していたのだから。私だってこの眼前の可憐な少女が魔王を教導するような力の持ち主とはにわかに信じがたい。確かに外見的には天使レベルではあるけど。
「そうよ。まぁ私のことは『プロデューサー』って呼んで頂戴。ちなみに私の過去の実績は私のサイトから見られるわよ。ほら、この前のメールにリンクが載ってるでしょ」
そう彼女が言うとリリムちゃんは早速PCを操作し始めた。
「す、すごい…! 確かに、数多くの魔王のプロデュースに成功しているようです! 次々と寄せられる体験者の声! 『2週間でまるで世界が変わりました』『今では自分に自信がついて、堂々と街を歩けるようになりました』『妻に惚れ直されて、毎晩求められて困ってます(笑)』などなど……」
うさんくせー! なんかダイエット食品の広告とかでよく見るぞ、それ。
「ザイアス様の魔王学校の同期のサルガリウス様もいらっしゃいますよ」
「あいつもいんの?! てかあいつ勇者に勝てたの?! 魔王デビュー以来一度も勝ち星をあげれず、『ククク、あいつは同期の魔王でも最弱……』が俺らの同窓会での鉄板ネタだったあいつが?!」
「確かにそいつには苦労させられたわ。でも私にかかれば勇者に勝てるのは当然。失敗はないわ」
ドヤァ!と彼女は胸を張る。
「それに数々の大御所からも依頼が来ているようです! 弱い魔王として有名なエル〇オス様やラプ〇ーン様、見た目とキャラで超絶大人気、しかし実際第2形態はただのイカで歴代でも最弱クラスと揶揄されたセフィ〇ス様など……!」
「すげぇ! だからキング〇ムハーツではあんなに強かったんだな!!」
これはもう本物と認めざるを得ない実績。
「で、どうするの?私にプロデュースを依頼するの?しないの?」
「よ、よろしくお願いします…!」
私は彼女と契約成立の証にがっちりと握手をした。当然リリムちゃんも異論はないようである。
「じゃあ契約成立ね! 早速貰った資料をもとに打ち合わせしたいんだけど……その前に一つ聞いていい? 何これ?」
そう言うと彼女はスッと鞘に収められた長剣を取り出した。
それは私の秘蔵の武器コレクションの中でもお宝中のお宝、『退魔剣ルシフェル』だった。
かつて戦った勇者が所持していたもので、魔族には『こうかはばつぐんだ!』な聖剣である。
その所持していた勇者はまだ未熟で剣の力を全く引き出せておらず、幸運にも勝利しこの剣をゲットすることができたのである。
「ふーん。で、なんで自分に『こうかはばつぐんだ!』な聖剣をわざわざ所持してるわけ?」
そう言うと彼女は剣を鞘から抜き、その刀身を私の身体に近づけた。
ジュッッ
ぎゃあああああ熱い!
聖なる輝きを放つ刀身は切られなくても近づけるだけで我々魔族に多大なダメージを与えるのだ!
てか何で鞘から抜けるの?! 数々の試練をくぐり抜けた熟練の勇者じゃないと扱えない聖剣だよ?!
ちゃっかりリリムちゃんは部屋の隅っこにサングラスをかけて避難してるし!
「あああ熱い!!!! ふ、封印するためです……! ゆ、勇者の手に渡るとあ、危ないから……!」
「封印ねぇ……。これ、応接室に飾ってあったんだけど。しかも綺麗なショーウィンドウの中、見せびらかすような位置に堂々と」
「じ、自慢したかったんです……。他の魔王も持ってない伝説の至宝だし、それに私の数少ない戦利品だから……。」
ジュッッ
「ああああああああ熱いいいいい!! すみませんすみません!! お願いだから近づけないでぇぇぇ」
「自身の居城に自分にとって不利になるもの置いておく…。『敵に塩を送る』ならぬ『勇者に聖剣を贈る』。あんたって典型的な駄魔王ね! この剣は私が没収するわ!!」
「そ、そんなぁ……」
こうして駄魔王な私と天使のような鬼プロデューサーの『絶対勇者撃滅計画』はスタートしたのである。