第4話
ウィルスの小さな店は今や王都中に噂が流れるようになり、数に限りがある商品は予約待ちでいっぱいになった。
リットも暇があれば手伝いをしているが、とても追いつかない。
ウィルスはそれでもおもちゃを作り続けた。
額の汗を拭ったウィルスは、天井を仰いでふぅと息を吐き出す。
疲れているけれど、気持ちのいい疲れだ。
自分の好きなことをやっている、この充実感。
それを求めて来てくれる子供たち、なんともいえない至福感がある。
夜の工房でランプの下、ヤスリをかけ続けるウィルスに、テディは作業机から足をブラブラさせながら首を傾げた。
「ちょっとやり過ぎたかしら?」
「え、何が?」
「だから、子供たちをここに呼んでくること」
ウィルスは手を止めて、テディを見つめる。
「子供たちをここに呼んでいたのはテディだったのかい?」
「そう、店のおもちゃ達と協力してね。子供たちの夢の中に入って、ここのおもちゃを夢に見せるようにしていたのよ」
「そっか……」
ウィルスは作業机の椅子に座ると、テディの頭を撫でた。その顔はとても優しさに満ちていた。
「ありがとうテディ。おかげで僕は店をたたまなくて済んだよ」
テディは外見からは分からないけれども、顔を赤くした。
「べ、べつに、これくらいどうってことないわよ。感謝するなら自分が生み出してきたおもちゃ達にもするようにね」
「そうだね……今頃、子供たちの手に渡って、喜んでいるだろうから……」
テディは背伸びしてウィルスの頭を撫でた。
「だから言ったでしょう? あなたの才能は世間が認める物だって。諦めなくてよかったでしょう?」
ウィルスは笑顔で頷いた。
「全部テディのおかげだよ。僕の元に来てくれてありがとう、テディ」
逆に撫でられるウィルスの大きな手に気持ちよさそうにしたテディは、満足そうに表情を緩めた。
***
そんな日々が続いていた王都のとある屋敷にて。
売上表を見ながら眉をひそめる人物がいた。
「なんだこれは。先月の半分も売れてないじゃないか」
店長に対して、売上表を裏拳で叩く。店長は「はぁ」と言ったきり、後頭部を右手で掻いた。
「その顔だと、何か事情があるようだな? 言ってみろ」
茶髪を背後の窓から注ぐ日に照らした男は、悄然とする店長に向かって発言権を委ねる。
店長は小太りな体を出来るだけ小さくしながら口を開いた。
「実はアーティクトの製品が売れないのは事情がありまして……」
「どんな事情だ」
「何故だかは分からないのですが、ここ最近ノイスラックの製品ばかりが飛ぶように売れているという噂なんです」
男の眉がぴくりと動く。そして、両手を組んだまま、回転椅子の背に身を預けた。
「ノイスラック……あの小汚い店か。散々脅してきたが他の奴らのように店をたたまなかった」
「そのノイスラックの商品の出来栄えがいいと口コミで王都中に広がっているんです」
男は顎下に手をやると、首を傾げた。
「急に売れ出したのはおかしいな。我がアーティクトの製品がこの王都……いや、王家にも選ばれし昨今だというのに」
男は思案していたが、次には売上表を机上に放ってから、立ち上がった。
「ここで議論していても始まらない。まずは敵情視察とでも行こうじゃないか」
「お供致します、ジョバンニ様」
ジョバンニは執事にいいつけて馬車の用意をさせ、外套をはおった。