第5話
夕食をとって風呂に入ってから、頭をタオルドライしつつ新聞に目を通す。
普段からあまり新聞をじっくりと読む方ではなかったので、ただなんとなく目を通して見ていた。
テディがその紙面を見ながら呆れたように肩を持ち上げた。
「にしても、ジョバンニってほんっっとうにやる事が姑息よね」
「あはは……それは前から変わらないよ」
新聞の論評欄には早速、アーティクトの製品についていろいろとご自慢の文句が躍っている。対してノイスラックの商品はひどい言われようだ。よくもまぁこれだけ悪口のオンパレードが並べられたものだと逆に感心する。ジョバンニの得意そうな顔がまたテディの心をむかつかせた。
「ジョバンニにおもちゃの声が聞こえればいいのに! どんなにおもちゃが泣いているか」
憤慨していうテディに、ウィルスは論評を前に苦笑した。
「多分そんなことしてもこの人の人格は直らないよ。この人はターゲットにしたおもちゃ屋をことごとく潰してきたんだ。それも再起不可能なほどにね」
「そんな汚い人間が子供の夢を売る商売やってるのがまた気に食わないわ」
「世の中なんてそんなものさ。お金にもその人なりの価値ってものがある」
ウィルスはタオルを置きながら椅子に座った。
「盗賊やってた時も思ったけど、とある日のターゲットが僕から見れば善人そうなお爺さんだったんだ。僕はその仕事に乗り気じゃなかったんだけど、後から聞いた話、そのお爺さんは人身売買しながら生計を立ててたって聞いて、ぞっとしたよ。僕達も傍から見れば法を犯す側の人間だけど、世の中にはもっと恐ろしい事に手を染めている人間がいるって身を持って知ったよ」
「人身売買……国で禁じられているはずなのに」
テディが両眼を寄せて言う。ウィルスは背もたれに身を預けてから後ろ頭で手を組んだ。
「何が正義で何が悪か……分からないよね、世の中さ」
「……ウィルスのいた“月影の幻狼団”って貧しいスラム街や孤児院なんかにお金をばら撒いてたって聞いたんだけれど、そんな事をしてまで法を犯して……疑問を感じなかった? せっかく稼いできたお金が……しかも大金が目の前にあるのにって」
ウィルスは一瞬の間を置いてから、目を細めた。
「僕達は僕達の正義があったから。悪どい事をする奴らには国家が何もしなければ僕らが正義の鉄槌を下してやると思ってたくらいだし。そのお金が一日の食事にも困るような人たちの元に行くのなら構わなかったんだよ。それでも両親は僕の将来のために少しの蓄えを残しておいてくれたから、両親がいなくなった後、日々生きていけたんだけどね」
「はぁ……ウィルスって時々すごいよね」
テディが感嘆しながら顎に手を当てる。ウィルスはきょとんとしてテディを見返した。
「何がすごいって?」
「何ていうか……普段は抜けてるくらいのほほーんってしているのに、実は人生経験豊富なところ」
「あはははは。ま、生きていたらいろいろあるさ」
ウィルスはテディを抱え上げて、寝室への階段を上がった。そして、枕元にテディを置くとランプの明かりを消す。窓からは月の光が純白の使者のごとく舞い降りて来ていた。
「じゃあ、おやすみ。テディ」
「おやすみなさい、ウィルス」
二人が眠りについたのは夜十一時……