第4話
体力が落ちていた為、高熱が続いた。毎日リットが病人食を作ってくれるのだが、食欲が全くない。
ベッドに横たわりながら、ウィルスはぼぉっと考えた。
やらなければならない事はたくさんある。それは全部、自分にしか出来ない事。他の誰にも代わる事は出来ない事。自分の存在意義を見出せる思いはウィルスの心を満たした。それと同時に、やはり早く復帰したいという願いが強くなる。
「心と体は正反対だなぁ……」
こうなってから分かる。やはり自分はおもちゃが好きだ。おもちゃを作る事が大好きだ。子供たちの笑顔を見るのが大好きだ。
「早くよくならないとな……」
「そんなに焦らないで、おもちゃは逃げないわよ」
テディが頬を摺り寄せてくる。そんなテディを触りながら、ウィルスは目を閉じた。
***
我慢して治療に専念したかいがあって、ウィルスの体は元以上に元気になった。
手首の打撲もすっかりよくなり、ウィルスはリットが洗濯してくれていた服に袖を通してから工房に向かった。
朝日が水飛沫のように体を清め、微風が袖からすり抜けていく。
ウィルスが寝込んでいる間も、おもちゃ達が出来る範囲の事をしていてくれたおかげで、予想していたより遅れていた作業は取り戻せそうだった。
「それもこれも全部テディのおかげだよ」
作業机にテディを置きながら、ウィルスは頭の上に手を乗せた。
「テディがおもちゃ達に手伝ってって言ってくれなかったら今頃どうなっていた事やら」
「わたくしは何もしていないわ。ただおもちゃ達にお願いしただけよ」
テディは撫でられるのが気持ちいいのか、目を閉じて言った。
そこへ、店のドアベルが勢いよく鳴る。
「ウィルスー!」
店へ顔を出すと、リットが苦笑しながら立っていた。
「もう体の調子は良さそうね」
「うん、リットが看病してくれたおかげですっかり元気だよ。ありがとうリット」
ウィルスがにっこりと微笑むと、リットはそばかすの頬を少し赤らめ、視線を横にやりながら「別に、そんなんじゃないよ」と小さな声で呟いた。
それから、遅れを少しでも取り戻したいウィルスは早速工房にこもった。
久しぶりに屈みっぱなしで腰が痛くなり、患部を叩きながら作業を進める。
カレンダーを見ればコンクールまでもう日にちがなかったので、店の注文は午前まででストップをかけてもらい、午後から本格的にコンクール用のおもちゃを作り始めた。
基盤となる木片は大方おもちゃ達がヤスリをかけてくれていたので、後は色づけとニスを塗り込む作業だ。組み立ては予選会場で行う。つまりはそれほどの規模があるおもちゃだということだ。
リットも色づけを手伝ってくれている。
ペンキ塗料で工房内は独特の刺激臭が漂った。窓も扉も開け放っているがそう簡単にこの臭いは出て行かない。
「まだ大分あるね」
リットが木片の山を見ながら一息つく。ウィルスは刷毛で丁寧にペンキを塗り込みながら答えた。
「ごめんリット、ここまで手伝ってもらって」
「いいって、今さらでしょ」
そういうリットの前掛けはペンキが飛び散っている。ウィルスの前掛けはそれ以上に汚れている。
二人はその後も黙々と作業を続けた。
そして日が落ちる頃、リットが帰ってからもウィルスは工房でひたすらペンキ塗りを続ける。
テディや他のおもちゃ達は体が汚れるのでペンキ塗りには参加出来ない。
「それにしても、よくやるわよねぇ……」
テディはペンキを塗り終わった部品達を見ながら嘆息した。
大小さまざまなそれは工房には入り切れず、工房の軒先にも干してある。
「ねぇウィルス、病み上がりだし、今日の所はそれくらいにしておいたら?」
テディの言葉に、ウィルスは顔を上げて刷毛をペンキ缶に突っ込んでから腰を回した。
「そうだね、また体調崩したら元も子もないし」
「今日はちゃんとベッドで寝ましょう」
「そうしようかな」
ゴム手袋と前掛けを外して作業机に置いてからテディを片手にすると、工房の出入り口は中庭に面しているので風通しをよくする為にも鍵をかけず、工房を後にした