第3話
そんなウィルスの体力がいつまでも持つわけがなく…
ある日、ウィルスが工房で木箱に足を取られ転倒した。
いつもなら機敏に回避出来たであろう身体能力はここ連日の徹夜で見る影もなく衰え、手首を強打。
ついでに風邪をこじらせ高熱を出した。
「ほら見なさい! だから言わんこっちゃない!」
リットの呆れ声に、ウィルスはベッドの中で熱にうなされながら、己の包帯が巻かれた右手を天井に突き出す。
「僕の右手……治らないとおもちゃが作れない」
「はぁ……あんた状況が全く呑み込めてないね。よく分かった」
水桶から濡れタオルを絞ったリットはウィルスの額にそれを叩き置いた。
「手首は、貼り薬を貼っておけば、一週間で治るってお医者さん言ってたじゃない」
「あと一週間でもおもちゃと離れるのがつらいよ」
「あーうるさいうるさい。こんな高熱出しておいてどの口がそう言うのよ。一週間でも寝て大人しくしてなさい。お店はあたしがやっとくから」
リットは乱暴に扉を閉めて出て行く。
枕元に置かれていたテディはそろそろっと身を起こした。
「リット、すごく怒ってたけど大丈夫?」
「あはは……心配してくれてるんだよ、彼女なりにね」
ウィルスはぼんやりとした視界に、天井を映した。
ベッドで寝るのは久しぶりだ。
これが健康な時だったのならばよかったんだろうが……
火照る体と同時に襲ってくる寒気に、布団を持ち上げた。
「テディ……悪いけど、ちょっと寝るね」
テディは嘆息してから枕元にちょこんと座った。
「病人が寝る事のどこが悪いっていうの。ちゃんと養生して、早く治さないとね」
「うん……」
ウィルスはテディの手を握りながら束の間の夢の世界へと入って行った。
時折うなされるウィルスの額のタオルをリットのように変えてあげようと思ったが、テディは己の手を見つめて閉口する。
……ボアが濡れる。
リットに怪しまれる。
「ごめんなさいウィルス……今のわたくしには出来ない」
テディはいつものようにぬいぐるみらしく座ると、開け放っている窓の外を見つめた。
千切れ雲がゆるゆると流れ、スズメが飛んで行く。
(わたくしの自由……いつになったら来るのかしら)
しかし、目の前でうなっているウィルスを黒目に映す。
(…………)
こんな生活も悪くないと思うようになっている自分に、テディは一人苦笑した。
あまりにもかけ離れている日常だというのに、受け入れている自分。
それを当たり前だと思っている自分。
こんな風に変えてくれたのは、目の前のウィルスなのだ。
「ウィルス……早くよくなってね」
テディはウィルスの熱い頬に口付けた。
それがこそばゆいのか、うなっていたウィルスの表情が若干緩まる。
その様子に、テディはくすりと笑って、息をついた。