第2話
ウィルスの寝不足な毎日が始まった。
いや、今までも十分寝不足で、工房で朝を迎えていたのが、さらに輪をかけて忙しくなった。
昼間は注文を受けている品物の作成、夜はコンクール用のおもちゃの製作。
ウィルスの眼の下が黒ずんでくる。それとは逆に、目の光は日ごとに増した。
「ウィルス、つみきの注文3つ!」
リットに応えてから、作業中のぬいぐるみ製作を急ぐ。
だが、どんなに急いでも、ウィルスの辞書に妥協の二文字はなかった。
素早く丁寧にを心がけたウィルスの品物は、これまで以上に売れ行きを伸ばした。
一人では限界以上の予約は一年待ち。
子供の成長は早いので、ウィルスも最大限のスピードで作成しているが、とても追いつかない。
それと比例して、ウィルスの落ちくぼんだ目がらんらんと光を帯びる。それはある意味、幸せの絶頂だった。
おもちゃにだけどっぷりと浸れる日々。一目一目縫うごとに、魂を削る思いで縫い込んでいく。
そして、日が沈むと、ランプの下でコンクール用のおもちゃ作りに精を出した。
工房に響くのこぎりの音に、さすがのテディも心配して口元に手を当てる。
「ねぇウィルス、少しは休みなさいよ」
「あぁ分かっているよ。だけどもうちょっとだけ……」
周りではおもちゃ達がウィルスを手伝っているとはいうものの、ウィルスは生身の人間だ。
テディはさらに声をかけた。
「ねぇ、本当に、ちょっと寝たら? ここ最近まともに寝てないじゃない」
「うん、でもこうやってる方が楽しくて」
のこぎりで切り落とした木材を山積みにした木片置き場に置く。
そしてまた、図面を見ながら型取り、のこぎりを上下に動かしていく。
テディは嘆息して、作業机から飛び降りた。
そして、周りのおもちゃ達と同じように手伝いを始める。
「リットも言ってたけど、ほんと、おもちゃ馬鹿というかなんというか。おもちゃのわたくしがいうのも何だけど」
木片置き場の木材を手に取ってヤスリをかけながら、テディはぬいぐるみながら頭痛がしてくる思いだった。