第1話
それからほどなくして、国をあげてのおもちゃコンクールが開催される事となった。
チラシを見たウィルスとリットは顔を見合わせ、頷きあう。
「優勝しかないね」
「当然、優勝でしょ! だって、金額すごいもん」
優勝者には普通の暮らしだったら、一生食うに困らないほどの金額が提示されている。
準優勝の三倍近い金額だ。
「でもウィルス、普段の注文を受けながらコンクール用のおもちゃ作ってる暇あるの?」
リットが予約待ちの札だらけの店内を見回しながら尋ねる。
ウィルスはいつも通りぽやんと笑いながら手を振った。
その手は毎日ノミやのこぎりを持ち、針作業をするので豆だらけだ。
「なんとかなるって。時間がなければ時間を作ればいいだけの話だし」
「これ以上、あんたのどこにそんな余裕ぶっこいてる時間があるっていうのよ」
「うーんと……寝る時間?」
「怒るよウィルス」
ちゃんとベッドで寝なさい! と喝を入れられるウィルスはもう頭の中で構想を描いていた。
***
「へぇ~おもちゃコンクールねぇ~楽しそうじゃない」
テディがいつものように作業机の上から寝そべりながら言ってくる。
ウィルスは完成したブリキの人形をテディの横に置くと、椅子に座った。
「ねぇ、テディだったらどんなおもちゃがいいと思う?」
「そうねぇ……」
となりのブリキ人形がキリキリキリと首を動かしてテディの方を向く。
「一番大切なのは、まず子供たちの笑顔を作る事よね」
「そうだね」
「だったら、こういうのはどう?」
テディは作業台の上にあった羽ペンに器用にインク壺の中のインクを付けてから、紙に書いていく。
ブリキ人形がその紙を押さえた。
「これ、こんなの」
書き終わったテディはウィルスを見るが、ウィルスはすでに目を輝かせていた。
「うわっ、これ、僕が思っていたのと同じだよ!」
「えぇっ、本当?!」
「うんうん、これ実現出来たら面白いだろうなぁと思ってたんだよね」
ウィルスはテディが書いたおおまかな図面を見ながら作業台の前に腰掛けた。
「ここはもっとこうして……こうやって」
「うん、それもいいかも」
定規とコンパスをすいすい使って設計図をあっという間に完成させていく。
設計図が出来た頃には東の空がもう明るくなり始めていた。
***
「ウィルス~あんたまた徹夜したでしょ~」
リットに目の下のくまがばれて、たじろぐウィルスは後ろ手で持っていた紙をリットの前に広げた。
「何これ」
覗き込むリットに、ウィルスは片手をカウンターにつきながら頭を傾けた。
「コンクールに出品しようかなって思ってるおもちゃの図面」
「はぁ?!」
リットはウィルスを見上げる。
「あんたまさか、一晩でこれ考えたの?!」
「うん、そうだけど」
リットは額を手で覆った。
「このおもちゃ馬鹿……ほんっっと、死んでも治らないわね」
肺の奥底から息を吐き出し尽くしたリットは改めて図面を見る。
事細かに記載された設計図は、それだけで他のおもちゃ職人を圧倒する物だった。
図面のことには詳しくないリットだったが、なんとなく想像は出来た。
「でもこれ、相当大がかりな物でしょ? 本当に片手間で出来るの?」
「やってみせるさ、それこそおもちゃ職人の意地とプライド!」
徹夜で腕まくりをしていうウィルスに、もはやリットは閉口した。